ソニーがテンセントを提訴:著作権侵害に対する日米の考え方の違い(栗原潔)
「ソニーが著作権侵害などでテンセントを提訴 『LIGHT OF MOTIRAM』が『Horizon』シリーズを模倣しているとして」というニュースがありました。ソニー・インタラクティブエンタテインメントの米国法人が中国企業テンセント(元々はチャットサービス提供会社でしたが今や世界最大級のゲーム会社です)、および、その持株会社をカリフォルニア州北部地区連邦地方裁判所に訴えたというお話です。Horizonは大ヒットした超大作ゲームシリーズです。LIGHT OF MOTIRAMはまだリリース前ですが、STEAM等で公開されているティーザー映像がHorizonに酷似しているというのがソニーの言い分です。また、テンセントは、過去にHorizonのライセンス交渉をソニーと行なっており、その交渉が決裂した後にLIGHT OF MOTIRAMを開発したという事情もあります。ソニーは差止と損害賠償を請求していますが、損害賠償金額は15万ドルと比較的低額です(増額の可能性はありますがLIGHT OF MOTIRAMがまだリリースされていないのでそれほど高額にはならないのではと思います)。
要注目の事件なので、PACERから訴状をダウンロードするまでもなく、誰かがネットにアップしてくれています。訴状では、両ゲームの類似性が画像によって示されています(一例をタイトル画像に載せました)。テンセントが寄せているのは確かですが著作物として類似するというとまで言えるかというと微妙かと思います(と言うよりもテンセント側が著作権侵害にならないギリギリを意図的に攻めている感があります)。
また、ゲームの世界観の類似性も主張されていますが、仮に類似していたとしても、それはアイデアの類似なので著作権法の保護対象ではありません。「表現は保護するがアイデアは保護しない」というアイデア表現二分論は著作権における世界共通の考え方です。
と言いつつ、米国の著作権侵害訴訟では、個別の著作物が類似するとまでは言えなくても全体的な雰囲気(look and feel)が類似している場合に著作権侵害が認定されるケースがあります。日本と比較してアイデア表現二分論の境界線が柔軟であるとも言えます。
さらに、訴状で要求されているようにこの裁判はおそらく陪審員裁判になるでしょう。そうなると、法律の専門家ではない陪審員は、より感情に基づく判断を行なうことが考えられます。「表現アイデア二分論のような細かいことはよくわからんが、なじみのあるソニーが苦労して作ったものを中国企業がコピーするのはけしからん(特にライセンス交渉が決裂したので嫌がらせ的に模倣ゲームをリリースするのはけしからん)」という感情を陪審員に持たせることができれば、ソニー勝訴という可能性もあるかと思います。
なお、冒頭の引用記事でも書かれているように、商標権侵害も主張されていますが、これは米国独自の商標制度に基づきます。米国では、文字やマークといった通常の商標に加えて「トレードドレス」という考え方で、商品やサービスの全体的なイメージや印象を保護することができます(もちろん市場で高い認知度を獲得している場合に限ります)。さらに、特許庁の審査を経て登録されないと商標権が発生しない日本(および他の多くの国)とは異なり、ある程度長期的に使用していただけでも商標が保護されます(コモンロー商標)。この合わせ技で、Horizonのキャラクターは商標権により保護されるという理屈です。
日本IBM ガートナージャパンを経て2005年より現職、弁理士業務と知財/先進ITのコンサルティング業務に従事 『ライフサイクル・イノベーション』等ビジネス系書籍の翻訳経験多数 スタートアップ企業や個人発明家の方を中心にIT関連特許・商標登録出願のご相談に対応しています お仕事のお問い合わせ・ご依頼は http://www.techvisor.jp/blog/contact または info[at]techvisor.jp から 【お知らせ】YouTube「弁理士栗原潔の知財情報チャンネル」で知財の入門情報発信中です
栗原潔のIT特許分析レポート
税込880円/月初月無料投稿頻度:週1回程度(不定期)