地球温暖化で大西洋海流システムに崩壊の恐れ、欧州では氷点下48度に達する都市も
大西洋の海氷=2022年7月19日/Kerem Yücel/AFP/Getty Images
(CNN) 大西洋の重要な海流ネットワークである「大西洋子午面循環(AMOC)」が崩壊した場合、世界各地が極寒に陥り、一部の都市では冬の気温が氷点下48度まで低下するなど「深刻な気候的・社会的影響」をもたらす恐れがある。11日にジオフィジカル・リサーチ・レターズ誌に掲載された研究で明らかになった。
AMOCの行方には懸念が高まっている。AMOCは巨大なベルトコンベアのように機能し、南半球や熱帯地方から北半球へ暖かい水を引き寄せ、そこで冷やされて沈み込み、再び南へと流れ込む海流システムだ。
複数の研究によると、AMOCは衰えつつある。地球温暖化によってAMOCの循環を支える熱と塩分のバランスが崩れ、今世紀中に崩壊する可能性さえあると予測する研究もある。そうなれば、地球規模の気象・気候に大きな変化が生じ、欧州の気温が急激に低下しかねない。欧州の温暖な気候はAMOCに依存しているためだ。
一方で、こうした影響によって寒冷化と温暖化のいずれが勝るのかは明らかではない。オランダ・ユトレヒト大学の海洋・大気研究者で、論文の共著者であるルネ・ファン・ウェステン氏はCNNに対し、今回の研究は、最新の複雑な気候モデルを用いてこの疑問に答えた初めての研究だと語った。
研究者らは、AMOCが80%弱体化し、産業革命以前と比べて地球の気温が約2度上昇するというシナリオを想定。AMOC崩壊後、気候が安定していく数十年で何が起こるかに焦点を当てた。現在の地球の気温は1.2度上昇している。
研究では、地球が温暖化している状況下でも、欧州では冬の平均気温が大幅に低下し、極寒の度合いが増すなど、「大幅な寒冷化」が見られることが分かった。これは、AMOCが崩壊しても気温が上昇し続けることが明らかになった米国とは大きく異なる状況だ。
海氷は南下し、スカンジナビア、英国の一部、オランダまで広がると研究は示唆している。氷の白い表面が太陽エネルギーを宇宙に反射し、冷却効果を増幅するため、極寒の度合いが著しく高まると予想される。
研究者らが作成したAMOC崩壊の影響を示すインタラクティブマップによれば、英ロンドンでは冬の気温が氷点下19度まで下がる可能性がある。ノルウェーのオスロでは最低気温が氷点下48度に達し、年間の46%は最高気温が0度を下回る可能性がある。
また、欧州の一部では嵐の度合いも高まるという。欧州の南北で気温差が拡大することでジェット気流が強まり、北西部上空で嵐の強度が増すからだ。
ファン・ウェステン氏は、北半球の多くの地域ではこのような極寒の気候に耐えられるように社会が構築されていないと警鐘を鳴らす。作物は枯れ、食料安全保障が脅かされ、インフラが崩壊する恐れがある。
AMOCの崩壊は主に欧州の冬季に影響を及ぼすが、気候危機が進むにつれ、夏季には深刻化する熱波に見舞われるとみられる。
一方、南半球では温暖化が進むと予測されている。
科学者たちは、AMOCの崩壊がさらに温暖化した世界に与える影響についても調査した。ファン・ウェステン氏は、地球の気温が産業革命以前の水準より約4度上昇すれば、その熱が欧州でのAMOCの崩壊による冷却効果を上回り、「温暖化のシグナルが勝つ」と述べた。
しかし、AMOCの崩壊がもたらす影響は気温だけではないという。海面上昇もその一つで、特に米国に影響を及ぼす。最近の研究によると、AMOCの衰えによって北東部沿岸ではすでに洪水が大幅に増加している。