超長期債に吹く三つの逆風-財政拡張と円安リスク、利上げ待ちの生保

財政、金融政策に敏感に反応する超長期債が逆風にさらされている。予想される新政権の下での財政拡張懸念、日本銀行の利上げ観測、生命保険会社の様子見姿勢と3方向から吹き、金利上昇圧力が強まっている。

  9月中旬に2%を割り込んだ30年国債の利回りは2.2%程度まで戻してきた。三井住友トラスト・アセットマネジメントの稲留克俊シニアストラテジストは「短い年限の債券以外は財政拡張への懸念が重しだ」と語る。先の衆議院選挙で自公連立政権が過半数割れとなり、減税を主張する野党が発言力を増したことが背景だ。

  野党は金融政策の正常化にも慎重で、日銀の追加利上げが遅れるとの見方も一時広がったが、円が対ドルで再び150円台に乗せて推移する中、年内や来年初めの利上げ観測が息を吹き返し始めている。直近出そろった生保各社の下期運用計画でも、主要投資対象の超長期を中心に円債投資には慎重で、金利は上昇しやすい状況だ。

  少数与党となった自民党は、財政拡張を主張する国民民主党や日本維新の会などとの部分連合を模索するとみられている。第一生命保険の堀川耕平運用企画部長は10月29日の運用説明会で、野党と連立や共闘をする中で「財政出動の可能性が高まっているとの思惑から、金利が上昇している」と述べた。

  UBS証券の足立正道チーフエコノミストも、石破茂首相が既に大規模な補正予算を組むと表明していることもあり、財政が拡張される可能性が高いとみる。「日本国債格下げのリスクもある」とし、債券市場の反応はまだ鈍いと語る。

利上げ観測

  為替相場が円安に振れると日銀の利上げ観測が高まる。植田和男総裁は31日の金融政策決定会合後の会見で、これまで繰り返してきた政策判断に「時間的な余裕はある」との表現を今後は使わないと述べ、経済・物価情勢を踏まえて予断を持たずに判断していく姿勢を強調した。

関連記事:植田日銀総裁、利上げ判断に「時間的余裕」は使わず-金融政策維持

  三井住友銀行の鈴木浩史チーフ・為替ストラテジストは、利上げは来年1月と予想しつつ、米大統領選などを経て一段と円安が進んで12月の金融政策決定会合を迎えれば「前倒しの可能性も十分ある」と言う。

  日銀の利上げを待っているのが生命保険会社だ。日本証券業協会が公表した9月の公社債店頭売買高によると、生損保の超長期債の買越額は2401億円。前年度平均を下回るペースだ。

10年金利は1.4%想定

  日本生命保険が想定する2024年度末の10年金利は1.4%で、足元の水準(10月31日時点で0.935%付近)はこれを大きく下回る。都築彰執行役員財務企画部長は17日の運用説明会で「市場は利上げを思ったほど織り込んでおらず、金利は少し低い」と指摘。下期は利上げの織り込みが進み、金利水準が「良いところではしっかり買い入れ、低い場合は少し見送る」と話した。

  住友生命保険の30年債利回りの年度末想定は足元の水準より低い2.1%。増田光男運用企画部長は25日の運用説明会で「十分投資に値するが、集中的に投資する水準ではない」と述べ、さらなる金利上昇を待って動く方針だ。

  三井住友トラスト・アセットの稲留氏は、期待された来年度の超長期債の発行減額は、財政が拡張されれば見送られる可能性があると指摘。民間の需要も盛り上がりを欠いており、需給が改善するきっかけが見当たらないとして、「超長期金利の先高観はくすぶり続ける」とみている。

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