アングル:米共和党議員、歳出削減巡り意見対立 メディケイド見直し検討

 米議会の上下両院で多数派となっている共和党は、低所得者ら向けのセーフティーネットプログラムに依存した有権者を冷遇することなく、予算の歳出を削減できるかを巡って意見が対立している。写真は会見を行う上院共和党幹部。ワシントンで1月撮影(2025年 ロイター/Evelyn Hockstein)

[ワシントン 16日 ロイター] - 米議会の上下両院で多数派となっている共和党は、低所得者ら向けのセーフティーネットプログラムに依存した有権者を冷遇することなく、予算の歳出を削減できるかを巡って意見が対立している。背景には、トランプ米大統領が公約している減税と国境警備強化の支出を確保するプレッシャーにさらされていることがある。

上院の共和党議員団は、トランプ氏が2017年に打ち出した4兆6000億ドル規模の減税の延長や他の税制案、大量の不法移民の強制送還、軍事費増額の費用を捻出するために低所得層向けの公的医療保険「メディケイド」を見直すかどうかの議論を非公開で続けている。

上院の共和党議員団にとって最大の課題は、下院が2月に可決した予算決議案に示した今後10年間に1兆5000億―2兆ドルの歳出削減を達成できるか、またはそれを上回ることができるかどうかだ。

ジョン・スーン上院院内総務(中西部サウスダコタ州選出)は記者団に対して「私たちの中ではもっと遠くへ行きたいという人が多くいる一方で、そこまでは行きたくないという人もいる」と語った。

共和党所属の下院議員の強硬派は、自分たちが示した歳出削減を守らない上院の予算案を阻止する用意があると表明している。

連邦政府と州政府が資金源となっているメディケイドの受給者は米国人の5人に1人を占めている。議会予算局(CBO)によると、連邦政府の支出は24年に6180億ドルで、支出の項目別では首位の高齢者向けの公的医療保険「メディケア」、2位の社会保障退職給付制度に続く3番目だ。

共和党員の一部はメディケイドを抜本的に見直さない限り、十分な歳出削減を達成できないと考えており、給付削減よりもプログラムの改善を求めている。一方で、景気後退リスクが高まっている中で維持を求める声もある。

上院財政委員会の民主党トップ、ロン・ワイデン議員(西部オレゴン州選出)は、トランプ氏が大統領選期間中に中流階級への支援をしばしば口にしていたと指摘して「彼らは選挙戦が終わると上流階級の人々を助け、その代償を財力があまりない人々に押し付けるのだ」と批判。共和党の減税計画について「(大企業や富裕層を先行して豊かにする)トリクルダウンの加速への回帰だ」とやゆした。

<連邦債務上限の作用>

さらなる歳出削減を支持する共和党の上院議員団は、連邦債務上限を「てこ」にして自分たちの主張を通したいと考えている。

政府機関閉鎖を回避した議会は、年央までにトランプ氏の公約を盛り込んだ予算案を可決できるかどうかの大きな試練に直面している。共和党の下院議員団は、予算案に債務上限の4兆ドル引き上げを盛り込んでいるからだ。財務省が支払い能力を使い果たす前に上限を引き上げられなければ、壊滅的な打撃を与えるデフォルト(債務不履行)に陥ることになる。

上院財政委員会の共和党議員は先週、トランプ氏と歳出削減について話し合った。その際にトランプ氏は、債務上限を法案に盛り込み続けることを望むと語った。

会合に出席したロン・ジョンソン上院議員(中西部ウィスコンシン州選出)は「債務上限のようなものは必要だ。なぜならば理にかなう支出水準に抑えるための唯一の歯止めになるからだ」と話した。

債務上限をめぐる議会での綱渡りの交渉が繰り返されてきたのを背景に、これまでに世界の3大格付け会社のうち2社が米国の格付けを引き下げた。

トランプ氏との会談に加わった共和党のトム・ティリス上院議員(南部ノースカロライナ州選出)は「下院と調整しなければならないことがまだ多く残されている」と指摘する。

マイク・ジョンソン下院議長は、5月上旬までにトランプ氏の公約を盛り込んだ予算案を可決したいと考えている。下院で共和党が握っているのは218議席と、民主党の214議席と僅差で、上院が合意するための時間はほとんど残されないことになる。

<メディケイドを巡る分断>

上院予算委員会のリンジー・グラハム委員長(共和党、南部サウスカロライナ州選出)は記者団に対し、下院が示す支出額に合わせるにはメディケイドの「改革が必要だ」と訴えた。

一方、上院厚生教育労働年金委員会のビル・カシディ委員長(共和党、南部ルイジアナ州選出)は「他に何があるかによる」と語っている。

下院の予算決議案はヘルスケアとエネルギー部門で10年間に8800億ドル、農業部門で2300億ドルをそれぞれ削減することを要求。教育プログラムでも10年間に3300億ドルを減らすとしている。

トランプ氏はメディケイドとメディケア、社会保障制度の給付は削減しないと約束している。

保守的な選挙区の議員を筆頭に、共和党の下院議員の大半はメディケイドの改革に賛成している一方、より幅広い有権者を後ろ盾とする共和党議員は賛成を渋っている。

改革案には、医療保険制度改革法(通称オバマケア)でカバーされるメディケイド受給者への連邦政府の保険給付率を現行の90%から、従来のメディケイド受給者が受けられる50―77%へ引き下げるというものがある。

シェリー・ムーア・キャピト上院議員(共和党、南部ウェストバージニア州選出)は「どのような影響が生じるかを私の州と協議している」としてメディケイドの改革に慎重だと説明した。

カイザー・ファミリー財団によると、ウェストバージニア州の住民の約28%がメディケイドまたは低所得家庭の子ども向けの関連プログラムに加入している。

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