準大手証券の初任給は野村並み、背水の陣で人材確保へ-進む待遇改善
大手証券会社で相次いだ初任給引き上げなど待遇改善の動きが、準大手・中堅証券でも広がっている。大手証券だけでなく異業種との人材獲得競争にもさらされており、生き残りに向けた危機感が背景にある。
準大手の東海東京フィナンシャル・ホールディングスは先月、2026年4月入社の大卒新入社員の初任給を26万5000円から30万円に引き上げると発表した。岡三証券グループ傘下の岡三証券はすでに今年4月から初任給を25万円から30万円に引き上げている。準大手証券2社の初任給が業界最大手の野村ホールディングス傘下の野村証券と並ぶ形となった。
東海東京FHの倉泰斗人事企画部長は「同業他社に置いていかれないように初任給は大手の水準を意識した」と打ち明ける。その上で「継続的に待遇改善できない会社は淘汰されてしまう」と危機感をあらわにした。
準大手・中堅証券は対面営業が主体だ。顧客と信頼関係を築き、運用アドバイスに基づく資産管理型ビジネスから得られるストック収入を柱とするビジネスモデルへの転換を進めている。優秀な営業マンをいかに抱えるかが鍵となるが、待遇面に勝る大手証券だけでなく、異業種も含めた人材流出に悩まされていた。
実際に人材の流出が課題となっていた岡三証券では、4月から人事制度を大幅に刷新した。年功序列型を廃止してジョブ型を導入したほか、成果に応じて上限のない報酬制度を導入。65歳を上限とした雇用制限も撤廃した。
さらに社員の帰属意識と経営参画意識を高めるために、入社2年目以上の営業社員を対象に成果に応じて最大100万円相当の自社株式を付与する「譲渡制限付き株式報酬制度」を取り入れた。営業社員を対象にした同制度の導入は証券業界で初めてという。
同証の阿部直樹人事戦略部長は「大手証券にはない独自性のある人事制度を整えなければ、優秀な人材を獲得し、定着させることはできない」と説明。「今の人事制度が完成形ではない」として、さらなる待遇改善策も検討中だという。
大手以上の待遇必要な時代に
ブルームバーグ・インテリジェンスの伴英康シニアアナリストは「金融業界全体として初任給の引き上げなど待遇改善が進んできており、準大手・中堅証券は大手以上の待遇を示さなければ優秀な人材の定着が難しくなる厳しい時代に突入した」と指摘する。
今年度に新卒と中途を合わせた採用人数を200人規模と前年度比で倍増させる計画を打ち出したいちよし証券は、7月から初任給を26万5000円から29万円へと引き上げた。毛塚祐輔人事部長は「初任給の引き上げはコストではなく、社員が成長するための先行投資」と説明する。
同証は投資信託などの預かり資産残高に応じて得られるストック収入でどれだけ販売管理費をカバーできたかを示す「ストック収入コストカバー率」で100%超えの目標を掲げる。前期(25年3月期)は71%と準大手・中堅証券9社の中で首位だった。さらなる引き上げに向け「優秀な人材の獲得は欠かせない」という。
このほか、水戸証券が今年4月から初任給を27万円に引き上げたほか、岩井コスモホールディングスは来年4月から初任給を26万3000円に引き上げる。22年度以降、準大手・中堅各社は賃上げや初任給の引き上げなどを行ってきた。継続的な待遇改善につなげるためには、当然業績の裏付けが必要となる。生き残りをかけた人材獲得競争は今後も激しさを増しそうだ。