内臓脂肪でも皮下脂肪でもない…医師が「放置するな」という糖尿病発症リスクを最大5倍にする
3/27 15:15 配信
糖尿病予防には何に気をつけるといいか。肝臓外科医の尾形哲さんは「ここ10年、メタボリック症候群のリスクが一般に浸透するとともに皮下脂肪や内臓脂肪の蓄積を気にする人はだいぶ増えた。だが、本当はそれよりメタボや生活習慣病の元凶となるヤバイ脂肪がある」という――。 ※本稿は、尾形哲『甘い飲み物が肝臓を殺す』(幻冬舎新書)の一部を再編集したものです。■脂肪肝こそがすべての病気の始まりになる 脂肪肝は“死亡肝”と言い直してもいいくらい怖ろしい病気――。 講演に呼ばれたときなど私はこう話し始めます。実際、「脂肪肝→脂肪肝炎→肝硬変」という悪化のプロセスをたどっていきます。ただ、じつは、脂肪肝がわたしたちにもたらす健康面のリスクは到底これだけでは済みません。 それというのも、脂肪肝が糖尿病をはじめとしたさまざまな病気の「発火点」となるからです。要するに、脂肪肝になると、それをきっかけとしていままで抱えていた体の問題が悪化したり、新たな問題が持ち上がったり、問題が悪化したりするようになり、数多くの疾患やトラブルに悩まされるリスクがどっと高まるんですね。 ちょっとここで、発症や病状悪化に脂肪肝が関係しているとされる疾患やトラブルをざっと挙げてみましょう。 2型糖尿病(糖尿病性腎症、糖尿病性神経障害、糖尿病性網膜症)、高血圧、狭心症、心筋梗塞、心不全、脳血管障害、慢性腎臓病、睡眠時無呼吸症候群、痛風、胆石症、認知症、脂肪肝炎、肝硬変、肝細胞がん、大腸がん、膵臓がん、乳がん、胃がん…… いかがでしょう。メタボ系の疾患を中心に、日頃みなさんが気にされている病気のほとんどが入っているのではないでしょうか。まさに「脂肪肝は万病のもと」。私はもう「脂肪肝こそがすべての病気の始まりになる」と言い切ってしまってもいいくらいだと思っています。 みなさんは「ドミノ倒し」をご存じですよね。最初の1枚を倒すと次々にドミノが倒れていき、やがて勢いがついて大きなドミノも倒れるようになっていく……。
病気もこれと同じで、最初、肥満や高血圧、高血糖などから始まって、ドミノが倒れるように大きな病気へと連鎖していくものなのです。
■大腸がんや乳がんの発生頻度を高める これは「メタボリックドミノ」といって、2003年に慶應義塾大学医学部の伊藤裕教授が提唱した臨床概念です。このメタボリックドミノにおいて、脂肪肝はかなりの上流に位置しています。 つまり、上流の脂肪肝を発端として、下流へ行くに従って次から次へといろんな病気やトラブルに見舞われていき、いずれ命に関わるような重大な病気につながっていくということになるわけです。 なお、脂肪肝はいくつかのがんの発生リスクを高めることも研究で判明しています。肝臓がんのほか、それ以外のがん、とくに大腸がんや乳がんでは脂肪肝があると発生頻度が高まることが分かっているのです。 ちなみに、がんの発生については、最近、慢性炎症が大きく影響しているのではないかという説が注目を集めています。 脂肪肝があると免疫細胞のマクロファージが暴走して炎症を引き起こしますが、同じような機序の炎症刺激が、がん発生に影響しているのではないかと目されるようになってきているのです。 今後研究が進めば、脂肪肝のような異所性脂肪と炎症やがんとのつながりが、もっと明らかにされるようになるかもしれません。■放置すると糖尿病発症リスクが2〜5倍高まる 私は常日頃から「脂肪肝こそ万病のもと」という考え方を一般の方々にもっともっと広めたいと考えています。 脂肪肝患者の場合、2型糖尿病発症リスクは2〜5倍、心不全発症リスクは1.5倍、慢性腎臓病発症リスクは1.45倍……講演に呼ばれたときなども、こういったデータを紹介しつつ、「脂肪肝が多くの疾患を招き寄せてしまう怖ろしい病気」だということを強調するようにしています。 なぜなら、こうした「コトの重大性」を理解している人がまだまだ少ないと感じているからです。 ここ10年、メタボリック症候群のリスクが一般に浸透するとともに皮下脂肪や内臓脂肪の蓄積を気にする人はだいぶ増えましたが、それと同レベルで肝臓への脂肪蓄積を気にしている人はまだほとんどいないと言ってもいいのではないでしょうか。
でも、本当は皮下脂肪や内臓脂肪よりも肝臓の脂肪のほうが、メタボや生活習慣病の元凶となるヤバイ存在なのです。
■脂肪肝は内臓脂肪よりも危険 図表2のグラフをご覧ください。これは順天堂大学医学部の研究グループが、肥満のない被験者を「①内臓脂肪だけあり」「②脂肪肝だけあり」「③両方あり」「④両方なし」の4群に分けてインスリン感受性を調べた結果です。棒グラフが低いほど、インスリン感受性が低く糖尿病になりやすいということを示しています。 これで見ると、「内臓脂肪だけ」の群よりも、「脂肪肝だけ」の群や「両方あり」の群のほうが糖尿病発症リスクが高いということが明らかですね。 つまり、糖尿病を発症するかどうかの決定的カギになるのは、「内臓脂肪の有無」ではなく、「脂肪肝の有無」なのです。 実際、脂肪肝の患者が2型糖尿病を発症するリスクは、一般集団と比較して2〜5倍程度高いことが示されていて、とりわけ、脂肪肝炎に進行した場合はより糖尿病に移行しやすくなることが分かっています。 現に、糖尿病を発症した患者さんの5割から8割が脂肪肝を合併していると報告されています。 さらに、脂肪肝によって糖尿病を発症させてしまったら、その後多くの病気に見舞われやすくなるのは目に見えています。■壊疽、失明、透析といった重大リスクも 糖尿病は動脈硬化の進行を早めて心筋梗塞や脳卒中のリスクを高めることにもつながりますし、糖尿病を悪化させてしまうと、糖尿病性神経障害、糖尿病性網膜症、糖尿病性腎症といった合併症を起こすリスクも高まります。 みなさんご存じかもしれませんが、こうした糖尿病の合併症をこじらせた先には、壊疽、失明、透析といった重大リスクも待ち受けています。 ですから、わたしたちはもっともっと脂肪肝に対して危機意識を持ったほうがいい。自分の肝臓に脂肪がたまっていることに気づいた段階で、これから自分に向かって来るであろう“多くの病気の足音”を感じ取る必要があるのです。 逆に言えば、脂肪肝に気づいた段階でしっかり肝臓を治してしまえば、動脈硬化や糖尿病の発病のリスクをかなり減らすことができるわけです。これを実行すれば、それだけで今後の長い人生で厄介な病気にかかるリスクをかなり減らすことができるでしょう。 すなわち、健康診断などで脂肪肝が発覚したときに、ほったらかしにしたままみすみす多くの病気を招いてしまうか、それともいまのうちにちゃんと治療して病気のリスクを消しておくか――。「肝臓にたまった脂肪」にどう対処するかによって、後々の人生の状況が大きく変わると言っていいのです。 繰り返しますが、脂肪肝は万病のもとであり、内臓脂肪よりもはるかに大きい健康被害をもたらす怖い存在です。 ぜひみなさんも、“頭の中の健康常識ノート”に「脂肪肝=放っておいてはいけない怖い病気」という1行を、太くて大きい文字でしっかり上書きするようにしてください。----------尾形 哲(おがた・さとし)肝臓外科医長野県佐久市立国保浅間総合病院外科部長、同院「スマート外来」担当医。医学博士。一般社団法人日本NASH研究所代表理事。1995年神戸大学医学部医学科卒業、2003年医学部大学院博士課程修了。パリ、ソウルの病院で多くの肝移植手術を経験したのち、2009年から日本赤十字社医療センター肝胆膵・移植外科で生体肝移植チーフを務める。さらに東京女子医科大学消化器病センター勤務を経て、2016年より長野県に移住。2017年スタートの「スマート外来」は肥満解消と脂肪肝・糖尿病改善のための専門外来。著書に『専門医が教える 肝臓から脂肪を落とす7日間実践レシピ』『専門医が教える 1分で肝臓から脂肪が落ちる食べ方決定版』『専門医が教える肝臓から脂肪を落とす食事術【増補改訂版】』(いずれもKADOKAWA)などがある。
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肝臓外科医 尾形 哲
最終更新:3/27(金) 16:00