「変化に弱い」自閉症の10歳息子は夏休み苦手 “唾出す”悪癖も、母が年々感じる「成長の足跡」

毎年、夏休みが近づくとソワソワする自閉症の息子(べっこうあめアマミさん作)

 ライターとして活動するべっこうあめアマミさんは、重度知的障害を伴う自閉症の10歳の息子と、きょうだい児である娘を育てながら、発達障害や障害児育児に関する記事を執筆しています。

 多くの学校が、7月19日から夏休みに入りました。ただ、障害がある息子を育てるアマミさんにとって、子どもの夏休みは毎年、気が重くなる時期だということです。なぜなら、学校が大好きな息子にとって、夏休みは「楽しみ」ではなく、「いつもの日常が突然なくなる」ことであり、それにより不安を感じやすいからだといいます。親として、どうすれば少しでも安心して子どもと夏休みを過ごせるのでしょうか。

 同じように、子どもが夏休みを迎える際にモヤモヤを感じている人に向けて、アマミさんが障害児の親の試行錯誤の日々を紹介します。

「学校がない」が不安になる息子

「もうすぐ夏休みですね」「夏休みは楽しくていいですよね」と言われると、多くの人はワクワクするかもしれません。でも、わが家は少し違います。

 重度知的障害を伴う自閉症があり、特別支援学校に通う息子は、学校が大好き。毎朝ニコニコしながらスクールバスのバス停に向かいます。

 しかしそんな息子が毎年、夏休みが近づくと急にそわそわし始めるのです。その理由は、「学校がなくなる(休みになる)」ことへの不安。

 息子にとっては「いつもの毎日が急に消える」というのは、強いストレスになるようです。もともと「変化に弱い」「ルーティンを大切にする」という自閉症の特性が色濃く出ている息子にとっては、「変わらない毎日」が何よりの安心材料なのです。

 終業式の日が近くなると、授業が短縮になったり、先生たちが忙しそうだったりと、学校の雰囲気にも少しずつ変化が出てきます。そうした空気の変化を息子は敏感に感じ取っているようで、夏休みに入る前からすでに気持ちが不安定になっていきます。

唾を出す悪癖がある息子

 息子には、不安や混乱をうまく言葉で表現できない代わりに、行動で示す癖があります。その一つが「唾を出す」ことです。

 普段は落ち着いていて、問題行動もあまりない息子なのですが、気持ちがざわざわしていると、息子はよく唾を垂らしたり、唾を手で伸ばして遊んだりするようになります。

 夏休みの間はその傾向が特に強くなり、家の中の床やソファなどが唾でぬれてしまうことも多くなります。

 気持ちを落ち着けたいがための行動なのだと思うと、頭ごなしにやめさせるのもどうなのかなと思いますが、周囲の人を不快にさせる行為ですし、社会生活を考えると何とかやめさせたいと頭を悩ませています。

毎日通う場所をつくって心の安定を

 そんな夏休みを少しでもスムーズに乗り切るため、わが家では「できるだけ毎日朝から通う場所をつくる」ことを心掛けています。それが、「放課後等デイサービス」の活用です。

 放課後等デイサービスとは、障害のある子どもたちが放課後や長期休みに通う居場所。学童に比べると預かり時間が短いことが多いですが、夏休みなどは朝から夕方まで預かってくれるのです。

 私は、毎年夏休み前になると、契約している放課後等デイサービスに連絡して、普段行っていない曜日もスポット利用で入れないか交渉し、なるべく利用日をぎっちり入れられるようにしています。

 しかし、それでもどうしてもデイがない日もあります。そんな日は、息子が朝から玄関に立ってリュックを背負い、「今日はどこに行くの?」という顔で待っていることも。

 そんなときはとりあえず、何食わぬ顔で外へ出て、少し歩いてコンビニやスーパーでジュースを1本買って帰るなどしてごまかしていました。

 ルーティンを大事にする息子にとって、「通う場所がある」ことは何よりの心の安定につながります。放課後等デイサービスがあるから、親子ともに気持ちが落ち着くので、まさに夏休みの救世主のような存在です。

放課後等デイサービスでもトラブルが…

 放課後等デイサービスはたいへんありがたいサービスですが、万能ではありません。やはり、学校とは違う場所ですし、開始時間も違います。そのため、夏休みの放課後等デイサービス通いに慣れるまでは、息子も不安定になりやすいのです。

 夏休みの初めには、デイサービスの送迎車の中で唾を大量に出してしまい、苦情を受けたこともありました。ただ、その出来事もきっかけの一つとなり、主治医と相談して服薬を始めることにしました。

 薬が効き過ぎないか心配でしたが、結果として落ち着きが見られ、少しずつ過ごしやすくなってきたようです。

 そして不思議なもので、毎日デイサービスに通っているうちに、今度は「デイに行くのが日課」になり、それが息子の安心材料に変わっていきます。

 こうして毎年、夏休みの「第二ルーティン」をつくりながら、少しずつ落ち着いて過ごせるようになっていきました。

今年の夏も見守っていきたい

 毎年、夏休みが近づくと、私は少し憂鬱(ゆううつ)になります。

「また息子が荒れるのでは…」という不安がよぎるからです。

 しかし、息子も年齢を重ね、だんだんと「夏休み」というものの存在を理解できるようになってきたように思います。低学年の頃に比べると、去年は大きな混乱もなく、唾の問題も比較的少なく、落ち着いて過ごせました。

 息子を見ていると、障害があっても、体験を重ねることで学び、変化に慣れていく力はあるのだと、改めて感じさせられます。

 今年の夏休みもきっと波はあると思います。それでも、親としては完璧に過ごすことにこだわり過ぎず、子どもが安心できるよう、できる工夫を一つずつ積み重ねていくことしかできません。

「大丈夫、今年も乗り切れる」と信じて、今年も夏休みを過ごしていこうと思います。

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