人は自由に歩き回れる場所では、無意識に左回りで歩くことが東京大学などの研究で判明

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 広い公園や広場で、あてもなく人がぶらぶらと歩く時、ほとんどの人はなぜか左回りに流れていく。

 東京大学とスペインのナバラ大学の研究チームが歩行者の動きを調べたところ、自由に歩き回れる空間では無意識に約65%の人が反時計回で歩くことが明らかとなった。

 壁に沿って歩いたわけでも、社会のルールのせいでもない。一人で歩いても集団で歩いても同じ偏りがあらわれたという。

 この研究成果は『Nature Communications』誌(2026年6月10日付)に掲載された。

 人の歩行の左回りの癖が見つかったのは、もともと別の目的の実験だった。

 コロナ禍のさなか、スペインのナバラ大学の研究者たちは、人と人がどれだけ距離を保てるかを調べていた。

 広場に人を集め、ぶつからずに歩ける限界の人数を測っていたのだ。

 ところが記録した映像を見返すと、ばらばらに歩いているはずの人々が、広場の中心を囲むようにゆっくりと左回り(反時計回り)に流れていたのである。

 偶然とは思えないほど何度も同じことが起きた。最初の実験では33回のうち32回で、人々は左回りに偏っていた。

この画像を大きなサイズで見るスペインの学校の校庭の上空から撮影された点と線で示された10代の生徒たちの動き Image credit: ©2026 Echeverría-Huarte et al. CC-BY-ND

 研究チームは、左回りが人類共通の癖なのかを確かめるため、日本の東京大学と共同で、考えられる原因を一つずつ確認した。

 壁に沿って歩くことで起きているわけではなかった。

 円形に囲った場所だけでなく、50m四方を超える開けた校庭でも試したが、人々はやはり左回りに流れたていたのだ。

 次に社会的なルールの可能性を確認したがこれも無関係だった。

 車が右側通行のスペインでは、人とすれ違うとき右へよける。車が左側通行の日本では、反対に左へよける。

 よける向きが左回りを生んでいるなら、よけ方が正反対のスペインと日本では結果が逆になるはずだ。

 ところが両国とも同じように左回りのほうが多かった。住む国や通行のルールが違っても左回りは変わらなかった。

 さらに体の特徴も調べたが関係性は見当たらなかった。

 200人を超える参加者に一人ずつ広場を歩いてもらい、利き手、利き足、利き目、性別を細かく記録したが、どれも左回りの偏りを変えなかった。

 左右の目を片目ずつ、黒い布で隠して歩いてもらっても、左回りの癖は消えなかった。 

この画像を大きなサイズで見るランダムに歩行する人々の集団では、反時計回りの回転が観察される傾向がある Image credit:東京大学プレスリリース / ©2026 Echeverría-Huarte et al. CC-BY-ND

 では左回りの癖はどのようにして生まれるのだろう?研究チームは一人ずつ歩き方を調査した。

 その結果、いつも左回りに歩く人もいれば、いつも右回りに歩く人もいて、向きを変えながら歩く人もいた。

 だが決定的な違いは左回りに歩く人の数の多さだ。

 左回りを貫く人が、右回りを貫く人よりも多かったため、結果的に集団全体が左回りに偏っていたのだ。

 周りにつられて左回りになるわけでもない。一人だけで広場を歩いてもらっても、左回りは同じようにあらわれた。

 左回りは、集団心理からではなく、一人ひとりの体に最初から備わったものとみる方が自然である。

 子どもではこの傾向がさらに高まることもわかった。

 5歳ほどの子どもでも左回りを好み、しかも大人より極端に偏った。

 誰かに教わって身につけたのではなく、生まれつき持った特性である可能性が高いと研究チームは考えている。

この画像を大きなサイズで見る今回の研究実験では、M(回転数)が0より大きい場合に反時計回りの回転が観察された。(a=A, b=B, c=C) Image credit:東京大学プレスリリース / ©2026 Echeverría-Huarte et al. CC-BY-ND

 左回りの特性は、集団ではなく個人の体に宿っていることはわかったが、なぜ人は左回りをするのか、その理由は不明のままだ。

 まっすぐ歩いているつもりでも、人の体は完全に左右対称ではない。

 左右の足や筋肉の使い方、目や耳から受け取った情報を脳が処理する仕方には、わずかな左右の偏りがある。

 研究チームは、こうした体や脳のわずかな非対称が、人を少しずつ左へ向かわせているのではないかとみている。

 ただし、片目を隠しても左回りが残ったことから、目の使い方だけで説明するのは難しい。

地球の自転が生む「コリオリの力」が関係しているのではという声も上がった。

 コリオリの力は、自転する地球の上で長い距離を動くものの進路を横へずらす働きで、台風の渦の向きを決めていることで知られる。

 この力が歩く人を無意識に左回りにさせている可能性も指摘されたが、研究チームはこれまでの実験結果から見ると考えにくいとしている。

 地球の磁場である地磁気との関係性も疑われたが、。研究チームは地磁気に関しての検証したわけではないが、地磁気の可能性は低いという。

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 左方向への偏りには、もう一つ別の角度から光を当てた研究もある。

 2016年にイギリスのケント大学が報告したもので、人は不安や心配を抱えると右脳が活発になり、目標に向かってまっすぐ歩こうとしても左向きに歩いてしまうというものだ。

 不安が大きい人ほど、左へ曲がる度合いも大きかった。

 今回の研究は脳の活動や不安との関係性を調べていないので、両者を結ぶ証拠はない。

 だが、今回の研究チームが原因の候補に挙げた脳の左右の偏りは、ケント大学の研究チームが指摘した右脳の活発化と関連しているかもしれない。

 あるいは、進化上の利点とかも関係しているのだろうか?

 考えれば考えるほど興味深い研究結果だ。

 駅や空港、美術館のように大勢が行き交う場所では、人の自然な左回りに沿って通路を設計したほうが、流れがなめらかになるかもしれない。 

この研究でわかったこと

  • 人は広場など自由に歩ける場所では、約65%が無意識に左回りで歩く
  • 左回りは利き手や性別、国や文化と関係なく、一人で歩いても起こる
  • 左回りは集団でつられるのではなく、一人ひとりの体に備わったクセ

まだわかっていないこと・今後の課題

  • なぜ人が左回りを選ぶのか、おおもとの理由はまだわかっていない
  • 不安を抱えると左へ向かいやすいという過去の研究との関係も未解明
  • 調べたのはスペインと日本の若い世代だけで、世界共通かは不明

References: DOI.10.1038/s41467-026-73713-w / ランダムに歩行していると、多くの人は反時計回りに曲がる ―その理由は未解明だが、反時計回りの偏りは個人レベルでも観察される―東京大学

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