天皇陛下のお誕生日記者会見の全文<中>

問3  成年を迎えられた悠仁さまについてお聞きします。筑波大学への進学が決まりましたが、ご自身のご経験を振り返り、どのような学生生活を送られてほしいと思われますか。成長ぶりや最近の印象に残った会話についてもあわせてご紹介ください。皇位継承順位第2位の成年皇族として、どのような役割を期待されていますか。

天皇陛下  悠仁親王は昨年18歳となり、成年を迎えました。小さい時から 甥 ( おい ) として成長を見守ってきましたが、近頃は、都内や地方への訪問であったり、外国の方々との交流であったり、皇室の一員としての務めを果たしてくれていることを頼もしく思います。

 会った時には、地方や都内への訪問に関する話題のほかにも、関心を持って取り組んでいるトンボ、野菜の栽培、バドミントンなどについて生き生きと話してくれますので、充実した日々を送っているのではないかと思います。

 先日、悠仁親王の大学の進学先が決まり、うれしく思っています。私自身の大学時代を振り返ってみると、専門の日本史の研究や部活動としてのオーケストラでの練習などを通じて、年齢の幅もある様々な人と出会うことができたと思います。

 そして、様々な背景や関心を持った先生方や友人たちから多くのことを学びました。高校時代までの友達も大切ですが、大学で知り合った人々との交流も続けています。研究面でも、大学時代に研究した日本中世の瀬戸内海の水上交通の研究は、オックスフォード大学でのテムズ川の水上交通史の研究へとつながり、現在も取り組んでいるより広い分野の「水」問題へと発展していったように思います。

 悠仁親王には、大学生活を通して、本当に自分がやりたいことを見つけるとともに、様々な人と出会い、自身の将来をしっかりと見つめつつ、実り多い学生生活を送ってほしいと願っております。

問4  この1年は明るい話題もあった一方、自然災害が相次ぎ、両陛下は能登地方を3回にわたって見舞われました。皇室では上皇后さまが骨折され、三笠宮妃の百合子さまが亡くなられました。この1年で印象に残っている出来事をお聞かせください。

天皇陛下  この1年も、残念ながら、地震や大雨、台風などの自然災害が様々な場所で発生しました。亡くなられた方々とそのご遺族に心から哀悼の意を表するとともに、被災された方々にお見舞いをお伝えいたします。また、このところの寒波により、各地で大雪となっており、皆さんのご苦労もいかばかりかと思います。

 先月は、阪神・淡路大震災から30年を迎え、雅子と共に追悼式典に出席いたしました。改めて、皆さんが長年にわたって困難を乗り越えてきたことに敬意を表するとともに、若い世代によって震災の経験と教訓をつないでいく取り組みが進められていることを心強く思いました。先ほど、戦争の体験を語り継ぐことの意義についてお話しいたしましたが、大規模な災害の経験と教訓についても、世代を超えて語り継いでいくことが大切だと思っております。

 また、令和6年能登半島地震から1年1か月が過ぎましたが、地域の復旧・復興の途上で豪雨災害に見舞われたことは本当に大変なことだと思います。

 お見舞いに伺った際にも、被災された皆さんの心が 挫 ( くじ ) けそうになっているお気持ちを感じ、私たちの訪問が少しでも力になるのであればと思いました。寒さが続く中、被災された方々が安心して生活できる日が1日でも早く訪れ、復旧・復興が一歩一歩着実に進んでいくことを願っております。

 昨年亡くなった 五百旗頭 ( いおきべ ) 真 ( まこと ) 氏はその著書「大災害の時代」の冒頭で、「われわれは思いもかけず『大震災の時代』にめぐり合わせている」と述べ、阪神・淡路大震災以降、日本列島の地震活動が活性期に入ったと警鐘を鳴らしています。

 同書では、歴史的に見ても、平安時代の9世紀には、東日本大震災と規模が似ていると考えられている 貞観 ( じょうがん ) 地震や南海トラフによるものと思われる仁和地震、そして、播磨地震、越中越後地震、さらには富士山の噴火など大きな自然災害が続いており、同様に災害の続いた時期は、戦国時代や江戸時代にも見られると述べられています。

 阪神・淡路大震災に始まり、能登半島地震に至る近年の地震災害の被害や、復旧・復興の経験などを心にとどめ、将来起こりうる南海トラフ地震や首都直下地震などに対して、今一度私たちの備えを確認する必要があると強く感じます。

 世界に目を転じても、大雨による被害や山火事、深刻な干ばつなど、地球温暖化に伴うと思われる自然災害が、この1年も各地で頻発しています。また、世界各地での戦争や紛争により、子どもを含む多くの人の命が失われてきたことに深く心が痛みます。異なる価値観を尊重して受け入れる寛容な社会と平和な世界を築いていくため、国際社会でのなお一層の協力や協調が求められていると思います。

 皇室においては、昨年11月、崇仁親王妃百合子殿下が 薨去 ( こうきょ ) されたことを寂しく思っております。妃殿下には、長年にわたって私たちを温かく見守っていただき、また日頃から良くしていただいておりました。深く感謝し、改めて心から哀悼の意を表します。

 上皇后陛下には、昨年秋に骨折されて手術をお受けになりましたが、順調にご快復になっておられることに 安堵 ( あんど ) しております。上皇、上皇后両陛下には、私たちを変わらず温かくお見守りいただき、お導きいただいていることに感謝申し上げます。

 国内では、物価の上昇などの経済的な状況を始め、様々な事情により困難を抱えている人も多く、そうした人々の身の上を案じております。

 このような中ではありますが、この1年には皆の心が明るくなるような話題もありました。

 昨年夏に開催されたパリオリンピック・パラリンピック競技大会では、出場した選手たちが、これまでに培ってきた力を尽くして競技に臨む姿が印象に残りました。陸上女子やり投げ決勝では、北口榛花選手がオリンピックのフィールド種目で日本女子選手初となる金メダルを獲得するなど、多くの日本人選手が活躍したことはうれしいことでした。

 さらに、米国メジャーリーグの大谷翔平選手が3度目のMVPに選出されたことや、長年にわたって米国メジャーリーグで活躍したイチロー選手が今年の米国野球殿堂入りメンバーに選ばれたことなど、我が国の人々が、日々の努力の積み重ねにより新たな世界を切り開いていく姿は、私たちに明るい希望と勇気を与えてくれるものと思います。

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