オードリー春日が“夢”を叶えた――誰かの“偏愛”が、番組になる場所(てれびのスキマ)
ついに、あの男の念願が叶った。
4月12日より『オードリー春日の知らない街で自腹せんべろ』が、BSテレ東でレギュラー放送が始まったのだ。
日頃から、「BS大好き」を公言するオードリー・春日俊彰にとって待望の冠番組だと言えるだろう。昨年12月に2回にわたりパイロット特番を経て、「BSテレ東開局25周年記念番組」と銘打たれてレギュラー化された。
第1回のエンディングで春日はこう嘯いて笑った。
春日「なんつったって、BSテレビ東京開局25周年記念番組ですからね。BSの冠だから。ほぼほぼゴールです、私の」
(※『オードリー春日の知らない街で自腹せんべろ』2025年4月12日)
なお、4月12日に放送された第1回はTVerで19日まで配信中だ。
BSメタバラエティ
『自腹せんべろ』は、「お金を使わない」節約家で有名な春日が、「自腹の1000円」を使って飲むお店を探し歩く番組。「いかに時間がかかろうが、へとへとになろうが、安いものを求める」と妥協しないため、「自腹の1000円をどう使うか吟味に吟味を重ねるリアルドキュメンタリー」となっている。
一方で、BS番組好きで、それにリスペクトしすぎて“変”なことになってしまっているのも面白い。パイロット版を見たテレビプロデューサーの佐久間宣行は伊集院光との番組『勝手にテレ東批評』(テレビ東京)で次のように評している。
佐久間:番組自体はどうかって言うと、面白いんですよ。面白いんだけど。これ、ちょっと変わった番組に仕上がってて。春日って実は真面目じゃないですか。で、台本も読み込む。「BS、かくあるべし」がありすぎて「これ、BSっぽくないな」とか言うんですよ(笑)。「これってBSでいい?」って。オープニングで「はい」って始めたら、「これBSっぽいか?」って。“BSメタバラエティ”になっちゃってるんですよ(笑)
伊集院:BSの中で、これはBSなのかを問うてるわけだから。
(※『勝手にテレ東批評』2024年12月28日)
普通に酒飲み&街ブラ番組としても面白いが、そうした視点で見るのも面白い。
大人のYouTube
そもそも春日は以前から、最近は「BSしか見てない」と語るほどのBS番組ファンだった。
たとえば自身のラジオ番組『オードリーのオールナイトニッポン』(ニッポン放送)では次のように語っている。
春日:私もテレビは見るんだけどさ。もうBSばっかり見てるんですよ。毎日、なにかしら録画してる。
若林:ああ、見たいのがあるんだ。
春日:見たいというか……まあ、そうだね。面白いんだよね。お酒飲みながら見たりするとちょうどいいというか。興味があったりするしね。私が見るBSの番組ってグルメの番組がほとんどなんだけど。『町中華で飲ろうぜ』(BS-TBS)とかさ、『(吉田類の)酒場放浪記』(BS‐TBS)とかさ。そういう有名どころももちろんだけど。最近はやっぱり『(飯尾和樹の)ずん喫茶』(BSテレ東)だね。
(※『オードリーのオールナイトニッポン』2022年11月12日)
そうしたBSファンは少なくなく、演者自身もBSで番組を持ちたいと考える人が多くなっているようだ。
『パンサー向井の#ふらっと』(TBSラジオ)では、ケンドーコバヤシが『ケンコバのほろ酔いビジホ泊 全国版』(BS朝日)を、塚地武雅も『ドランク塚地のふらっと立ち食いそば』(BS日テレ)というBSの番組を持っていることに対して、田中直樹が羨ましがるという流れで、こんな話をしていた。
ケンコバ:急いだほうがいい。イスが埋まりつつある、おじさんBS番組の。我々は我々でイス取りゲームをしている。
(略)
田中:そんなに今、BSが熱いの!?
ケンコバ:熱いよ。
塚地:ゆったり見れて。まぁ、我々の年代なんか特に。
田中:そう、もう心地いいね。
塚地:BSこそが、“大人のYouTube”や、みたいな。
(※『パンサー向井の#ふらっと』2025年2月18日)
実際、これまで挙げた番組以外にも、『サンド伊達のコロッケあがってます』(BS-TBS)、『バナナマン日村が歩く! ウォーキングのひむ太郎』、『夢が咲く 有吉園芸』(ともにBS朝日)、『おぎやはぎの愛車遍歴 NO CAR, NO LIFE!』(BS日テレ)などなど第一線で活躍するタレントたちが趣味性の高い番組をおこなっている。
一方で、カズレーザーによる『X年後の関係者たち あのムーブメントの舞台裏』(BS-TBS)や『太田光のテレビの向こうで』(BSフジ)のようにひとつのテーマをじっくり深堀りして語り合うような番組があるのもBSの魅力といえるだろう。
「テレビ番組」である価値
そんな趣味性と深堀り性を両立させた番組が3月に6回限定で放送された『伊集院光の偏愛博物館』(BS-TBS)だ。
世の中には何かを愛しすぎた故、自分で博物館を作ってしまう人がいる。そんな私設博物館を伊集院光が訪問する番組だ。出版元のJTBすら保管していない号まで展示する「時刻表ミュージアム」、日本でもちろん唯一の「糞虫」に特化した「ならまち糞虫館」など極めてマニアックなものばかり。しかし、そこは伊集院光。「好奇心のバケモノ」であり、「知識の紐づけの達人」でもある彼が館長との対話を通じて、そのスゴさと面白さを紐解いていくから抜群に面白い。
こうしたBS番組が活況である背景には、やはりBSが視聴率主義ではないことが背景にあるだろう。
好きなことをやりたいのなら、YouTubeでやればいいという時代。だが、やはり彼らの世代の多くは「テレビ番組」である、ということに価値を持っているのではないか。実際、上記番組を持っているタレントの多くが自身のYouTubeのチャンネルを開設していない。
そしてもうひとつ大きな存在なのがTVerが普及だ。
TVerで変わったのは見逃した番組を見られるようになったことだけではない。
ゴールデンタイムの番組も深夜の番組も、あるいは地方ローカル番組もBSの番組もフラットに並び、見ることができるようになったことだ。
実際、『偏愛博物館』は、BSでの放送は極めて変則的で回によって曜日も時間もバラバラだったが、TVerによって多くの視聴者が見ることができた。面白い番組であればちゃんと見てもらいやすくなったというのは演者にとっても作り手にとっても大きいに違いない。
数字に大きく左右されない自由さと、テレビ番組であるという枠組み。そのちょうどいい塩梅が、第一線のタレントたちを惹きつけているのだろう。