セマグルチド、アドヒアランス不良でCVD1.8倍
武蔵野大学薬学部講師の益戸智香子氏らは、日本の2型糖尿病患者におけるGLP-1受容体作動薬セマグルチドの服薬アドヒアランスと心血管疾患(CVD)発症リスクとの関連を検討するため、約1万7,000例の保険請求データを用いた後ろ向き観察研究を実施。アドヒアランス不良群のCVDリスクは良好群の1.8倍だったことをCureus(2025; 17: e80511)に発表した(関連記事「〔ACC.25速報〕経口セマグルチド、高リスク糖尿病の心血管リスク抑制」)。
実処方日数の割合PDCで評価、80%以上を良好と定義
セマグルチドは2型糖尿病患者のCVD発症リスクを低下させることが大規模ランダム化比較試験で示されている。しかし、臨床試験の結果は一般にアドヒアランス良好な患者の転帰を反映しており、実臨床においてアドヒアランス不良がCVD発症に及ぼす影響は不明である。
そこで益戸氏らは、メディカル・データ・ビジョン(MDV)が提供する診療データベースから、2008~22年にセマグルチドを処方された15歳以上の2型糖尿病患者1万7,663例の保険請求データを取得。セマグルチドの服薬アドヒアランスとCVD発症リスクとの関連を検討した。服薬アドヒアランスの評価には、観察期間(1年間)に対する実際の処方日数の割合であるproportion of days covered(PDC)を用い、PDC 0.8(80%)以上をアドヒアランス良好、0.8未満をアドヒアランス不良とした。
解析対象は平均年齢が61.26歳、平均BMIが29.08で、男性が59.41%、アドヒアランス良好群が92%を占めた。治療の内訳は、セマグルチド単剤療法が8.63%、2剤併用療法が25.08%、3剤併用療法が33.81%、4剤以上が32.48%で、主な併用薬はSGLT2阻害薬、ビグアナイド薬、インスリンだった。セマグルチドは経口製剤が62.15%、皮下注製剤が37.85%で、経口製剤は皮下注製剤と比べて服薬アドヒアランスと継続率が高かった。
女性、ビグアナイド併用例でCVDリスク低い
解析の結果、CVD発症リスクはアドヒアランス良好群と比べてアドヒアランス不良群で有意に高かった〔ハザード比(HR)1.77、95%CI 1.25~2.49、P<0.001〕。セマグルチド単剤療法に限定した解析では、有意差はないもののアドヒアランス良好群と比べてアドヒアランス不良群でCVD発症リスクが高い傾向が見られた(同1.56、0.53~4.57)。
対象の背景別に見ると、CVD発症リスクは男性と比べて女性(HR 0.37、95%CI 0.27~0.51)、セマグルチド単剤療法例と比べてビグアナイド薬の併用例(同0.53、0.41~0.69)で有意に低かった(いずれもP<0.001)。一方、セマグルチドの製剤間で有意差はなかった(経口製剤に対する皮下注製剤のHR 0.92、95%CI 0.70~1.20、P=0.607)。アドヒアランス良好群と不良群に分けた検討でも、両群で同様の傾向が認められた。
経口・皮下注ともPDCは90%以上と良好
益戸氏らは性差について、「今回の解析で観察されたCVDイベントの66%が狭心症で、狭心症は男性に多いという傾向を反映している可能性がある」と説明した。さらに「製剤間で有意差がないのは、経口、皮下注製剤ともPDCが90%以上と高いことに起因する可能性があり、いずれの投与経路でもアドヒアランス向上が可能であることを示唆している」と説明。その上で、「日本人2型糖尿病患者において、皮下注製剤か経口製剤かを問わずセマグルチドの服薬アドヒアランスを良好に保つことはCVDリスク低下のために重要であり、臨床転帰の改善につながる可能性がある」と結論している。
(医学翻訳者/執筆者・太田敦子)