証拠から消えた息子の遺体写真 「誰のための裁判?」残る母の疑問
被告人は無罪――。関西地方に住む女性(63)は、裁判長の言葉に耳を疑った。
次男(30歳で死亡)の体には30カ所以上の内出血があった。だが、判決は暴行によるものと認めず、傷害致死罪の成立を否定した。
重要証拠と思っていた遺体の写真は証拠から除外されていた。裁判員を刺激しないようにとの配慮からだ。
判決から数年たった今も、女性はやりきれない思いを抱える。「裁判って誰のためのものですか」
裁判員裁判と刺激証拠を巡る現状を2回にわたり報告します 16日午前5時公開 惨劇写真を見せるべきか、悩む裁判官
「暴行」と直感して写真撮影
次男には生まれたときから重度の知的障害があった。
小さな頃は3歳上の長男とテレビゲームでよく遊んだ。一生懸命な表情、ニコニコした笑顔がいとおしかった。
成人しても次男は単語でしかしゃべれなかった。ともに年齢を重ねるにつれて女性の心配は膨らんだ。
「私が面倒を見られなくなったらどうなるのだろう」
集団生活に慣れてもらいたいと福祉施設で短期の宿泊入所を始めた。それからしばらくたった2019年3月の深夜、女性のスマートフォンが鳴った。
「息子さんが心肺停止状態です」
施設の担当者は、次男が救急車で運ばれたと言う。病院に向かうと、次男は体中に管を付けられてベッドに横たわっていた。
手の甲を見るとあざがあった。服をめくると、腹部にも多数の赤黒いあざが広がっている。
「なにこれ?」。暴行されたと直感し、とっさにスマホで写真に収めた。
心拍は一度戻ったものの、次男は翌日に亡くなった。死因は脳に酸素が行き渡らない状態が続いた蘇生後脳症だった。
約3カ月後、施設に勤務する男性が傷害致死容疑で逮捕された。腹部に繰り返し暴行し、首を圧迫して死亡させたとする疑いだった。
「裁判員に聞きたい」
男性の裁判員裁判は21年に始まった。女性は被害者参加制度を利用して毎回欠かさず傍聴した。そして、ある事実に気づき、がくぜんとする。
「遺体の写真はどこに行ったの」
検察側と弁護側、裁判所の3者は初公判前に協議して争点を整理し、遺体の写真を証拠から除外すると決めていた。
代わりに写真を基にした…