タイとカンボジアが即時停戦で合意 マレーシアで協議、トランプ氏も関与
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国境係争地での軍事衝突が24日から続くタイとカンボジアの両首脳は28日午後、マレーシアで会談し、即時停戦で合意したと発表した。マレーシアのアンワル・イブラヒム首相が協議を仲介した。
タイのプムタム・ウェーチャヤチャイ暫定首相とカンボジアのフン・マネット首相は、マレーシアの首都クアラルンプール近郊のプトラジャヤにある首相公邸で会談。アメリカと中国の政府代表らも緊張緩和を望むとして同席した。
発表によると、タイとカンボジアの両政府は、マレーシアの現地時間29日午前0時(日本時間同1時)に「無条件停戦」を開始し、同日朝から両国の軍高官らが「非公式協議」に臨むことで合意。さらに8月4日に、東南アジア諸国連合(ASEAN)議長の主催で、タイとカンボジアの国防関係者が協議するという。
停戦合意の一環として、タイとカンボジアは両国の首相、外相、防衛相の間の直接的な情報交換を再開するという。また、この日の停戦交渉後に報道陣に発表された文書によると、マレーシア、カンボジア、タイの国防相と外相らが、停戦の「実施、検証、報告のための詳細なメカニズム」構築に取り組む。「メカニズム」の具体的な内容は不明。
マレーシアのアンワル首相は協議後の記者会見冒頭で、まずタイとカンボジアの両首脳に「深い感謝と敬意」を表した。アンワル氏は、両首脳が「即時停戦への意思と立場を表明した」とも述べた。
両国が合意した「即時かつ無条件の停戦」は、現地時間の深夜から発効するとアンワル首相は説明し、「これは、緊張緩和と平和および安全の回復への不可欠な第一歩だ」と強調した。
続いてカンボジアのフン・マネット首相は、今回の会談を「非常に良い会合」だったと評価し、戦闘を「直ちに」止めたいと述べた。首相は、今回の紛争によって両国合わせて30万人が避難を余儀なくされたと指摘。さらに、仲介に関与したアンワル氏、ドナルド・トランプ米大統領、中国政府へそれぞれ感謝すると共に、タイのプムタム暫定首相に対しても「建設的」な取り組みに感謝した。
タイのプムタム暫定首相は、カンボジア首相の発言後に短くコメントし、停戦は「誠意を持って交渉された」もので、タイは平和の実現に積極的にかかわっていくと述べた。また、トランプ米大統領および中国政府に謝意を示した。
今回の会談は、トランプ氏が両国に対し、米政府との貿易交渉の前提条件として停戦に合意するよう求めたことを受けて開催された。これにより、タイは方針転換を余儀なくされた。タイ政府は当初、第三者による仲介に反対し、紛争は二国間交渉のみで解決すべきだと主張していた。
マレーシアのアンワル首相は24日遅くに仲介の申し出を行い、タイはトランプ氏の圧力を受けてこれを受け入れた。中国も、タイおよびカンボジアと戦略的関係を持つ国として、和平仲介のため代表団を派遣した。
トランプ大統領は26日に、タイとカンボジアの首脳それぞれに電話し、戦闘を即時停止するよう求めたという。
24日朝にタイとカンボジアの国境の係争地で衝突が勃発して以来、兵士と民間人が少なくとも計33人死亡し、タイとカンボジアで数千人が家を追われている。
BBCのジョナサン・ヘッド東南アジア特派員は、タイとカンボジア双方の部隊の撤退が検証できなければ、停戦の実現は難しだろうと指摘している。
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これに先立ちタイのプムタム暫定首相は28日、マレーシアの首都クアラルンプールでの協議へ出発する際、「この問題への対応を見れば、カンボジアが誠実に行動をしているとは思えない」と、バンコクの空港で記者団に述べていた。
カンボジアのフン・マネット首相は28日、クアラルンプールでの和平協議の目的は「即時停戦の実現」だとソーシャルメディア「X」に書いた。同首相はこれに先立ちフェイスブックで、マレーシアのアンワル首相に、協議の仲介を感謝していた。フン・マネット氏によると、協議にはアメリカや中国の政府関係者も出席するという。
カンボジアは26日の時点ですでに、タイとの戦闘の「即時」停止と、平和的解決を呼びかけていた。
トランプ大統領は27日、カンボジアのフン・マネット首相とタイのプムタム暫定首相と、それぞれ協議したと明らかにしていた。タイとカンボジアの首脳に対し、戦闘を停止しない限り、アメリカが課している36%の貿易関税を引き下げる交渉には応じないと伝えたと、自分のソーシャルメディア「トゥルース・ソーシャル」に投稿した。
「私は両首相に電話し、『戦闘を解決しない限り、貿易協定は結ばない』と伝えた」、「彼らも解決したがっていると思う」とトランプ氏は書いた。
両国は「直ちに面会し、すぐに戦闘停止を実現し、最終的には平和を実現することに合意した」、「すべてが終わり、平和が実現した時に、両国と貿易協定を締結するのを楽しみにしている!」ともトランプ氏は投稿した。
さらにトランプ氏は、カンボジアとタイそれぞれとの貿易協議の再開を期待しているとしつつ、「戦闘が停止」しない限り、そうした協議は「適切ではない」と述べた。
トランプ政権は、カンボジアとタイからの輸入品に対して、36%の高率関税を8月1日に課す予定。その期限まで1週間を切る中で、トランプ氏は両国間の衝突に介入した。両国が高関税を避けるには、発動期限の8月1日にまでに、貿易協議で合意に至る必要がある。
タイとカンボジアは、トランプ氏の懸念と働きかけに謝意を示した。しかし、砲撃は27日にかけて夜通し続いた。カンボジアがトランプ氏の戦闘停止要請を受け入れた一方で、タイは両国間で対話が必要だと強調した。
カンボジアのマネット首相は、「私は、カンボジアは両軍の即時かつ無条件の戦闘停止案に同意すると、(トランプ氏に)明確に伝えた」と、トランプ氏との電話協議後に述べた。そして、トランプ氏の仲介は「多くの兵士と民間人の命を守るための、真の助けとなるだろう」と付け加えた。
トランプ氏の介入より先に、カンボジアはすでに戦闘停止を提案していた。軍事力でタイに劣るカンボジアは、タイ軍の砲撃や空爆により、領土や装備を失い続けている。
一方でタイは27日にマレーシアでの協議に同意するまで、戦闘停止を検討する意思はあるとしつつ、カンボジアとの対話を優先すべきだとする主張を崩していないかった。
トランプ氏がどのような経緯で、タイとカンボジアの問題に関与するようになったのかは不明。タイのマリット・サギアムポン外相は26日の時点で、「今のところ、第三国の仲介は必要ないと考えている」と述べていた。
タイとカンボジアは互いに、24日に最初に攻撃を開始したのは相手側だと非難し合っていた。
タイ側は、カンボジア軍が国境付近に展開するタイ軍を監視するためにドローンを飛ばしたことで衝突が始まったと主張。一方でカンボジアは、タイ軍が過去の合意に違反して、国境付近にあるクメール王朝時代のヒンドゥー教寺院へと進軍したことで衝突が起きたとしていた。
タイとカンボジアの係争は100年以上前、フランスによるカンボジアの植民地支配後に、両国の国境が画定された時期にさかのぼる。
両国の関係が正式に敵対的になったのは2008年で、カンボジアが係争地にある11世紀の寺院を、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界遺産に登録しようとしたことが発端だった。この動きに対し、タイ側は激しく抗議した。
それ以来、両国の間では断続的に衝突が発生し、兵士や民間人に死傷者が出ている。
両国の関係は、今年5月の武力衝突でカンボジア兵1人が死亡して以降、過去10年以上で最悪の状態にある。