カナダの次はオーストラリア? 保守派が恐れる「トランプ・スランプ」の拡大

豪シドニーにある大聖堂でのミサの後、報道陣の質問に答える自由党のダットン党首/Hollie Adams/Reuters

ブリスベン(CNN) オーストラリアの次期首相の座を狙う人物がここ数週間、トランプ米大統領と比較される状況から距離を置こうと努めている。

「私はあくまでも私だ」。野党・自由党の党首、ピーター・ダットン氏は自身に付けられたトランプ氏絡みの呼称について問われ、そう強調した。ダットン氏に批判的な人々は、同氏を「Temu Trump」と呼んでいる。Temuは格安のコピー商品を販売しているとされる中国の格安オンライン通販サイト「Temu(テム)」にちなむ。

複数の政治分析によれば、トランプ氏との類似性を認識されたことでダットン氏の支持は低下。現職の中道左派、労働党のアルバニージー首相に対するリードは失われた。3日の総選挙を控えて実施された世論調査では、同首相が支持率トップに立っている。

元警察官のダットン氏が中道右派の自由党を率いるようになったのは3年前、同党が政権の座を追われた後だった。ダットン氏は党の中でも右寄りの派閥に属し、妥協を許さない強硬派との人物評が定着している。自由党政権時代には防衛相、内務相、移民国境警備相を歴任した。

同氏を巡っては文化戦争を扇動しているとの非難の声が上がる。本人はオーストラリアが受け入れている移民の数は多過ぎると主張。数日前には国内の公共放送を「ヘイトメディア」と批判した。

トランプ氏に近い政治戦略は自由党の重鎮らから奨励されていたようだったが、当のトランプ氏が世界規模での関税政策を発表したのを受けて戦略自体が裏目に出ている。当該の関税政策は今後のトランプ氏の評価に打撃を与える見込みで、「トランプ・スランプ」と称される低迷状態に陥ることも予想される。

4月2日、ホワイトハウスのローズガーデンで関税政策について演説するトランプ大統領/Brendan Smialowski/AFP/Getty Images

こうした流れの中、カナダでは今週行われた総選挙で野党・保守党が敗北。ポワリエーブル党首は20年以上維持してきた自身の議席も失った。

オーストラリア国立大学の豪州政治研究センターで所長を務めるマリヤ・タフラガ氏は、オーストラリアの現状をカナダでの潮流の「希薄版」と位置づける。

「トランプ氏は実質的に旗下結集効果(訳注:危機や戦争といった状況下で政権や政治指導者への支持が一時的に高まる現象)を作り上げた」「オーストラリアやカナダのような自由民主主義国では、(トランプ氏が)不利な立場にあった現職を有利な立場に転換させた」(タフラガ氏)

ダットン氏は、ホワイトハウスに復帰直後のトランプ氏を想起させるプログラムを提示。4万1000人の連邦職員の削減を約束し、在宅勤務に認めていた特別措置を停止するとした。「woke(ウォーク、意識が高い人たち)」向けの学校政策の見直しも掲げたが、現在こうしたプログラムの一部は縮小を余儀なくされている。

ダットン氏が任命した影の政府効率化相は、最近の選挙集会で自由党が「オーストラリアを再び偉大にする」と語ったが、その後、そうしたコメントを発した認識はないと口にした。

シドニー大学の名誉教授で同大の米国研究センター元最高経営責任者(CEO)、サイモン・ジャックマン氏によれば、1月の時点ではダットン氏の勝利が確実視されていた。

「そこへトランプ氏がくっついてきた。選挙の方向性は一変した」(ジャックマン氏)

4月半ばの党首討論で、司会者からトランプ氏を信頼しているかどうか問われたダットン氏は、同氏から距離を置こうと躍起になっているように見えた。同氏はトランプ氏とは知り合いではないし、会ったこともないと強調した。

支持者に囲まれ自撮りするアルバニージー首相と与党・労働党の候補者/Asanka Ratnayake/Getty Images

世論調査の示唆するところによればアルバニージー首相が選挙戦で勝利する見通しだが、過半数の議席を獲得できるかどうかは不透明だ。専門家らは労働党が少数政党などと手を組み、少数与党政権を立ち上げる事態を見込む。

今年はオーストラリア史上初めて、 Z世代やミレニアル世代の若年層がそれより年長の層を人口で上回る見通し。この世代はより進歩的で既得権益層に反対する投票を行うとみられることから、労働党の議席の喪失をもたらす可能性も浮上している。

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