バイコヌール宇宙基地の発射台損傷でソユーズ打ち上げ困難に ISS運用への影響は?
ロシア国営宇宙企業ロスコスモスは2025年11月28日、カザフスタンのバイコヌール宇宙基地にある「ソユーズ」ロケット用の発射台で、損傷が見つかったと発表した。
前日27日に行われた有人宇宙船「ソユーズMS-28」の打ち上げ後に実施した点検で確認されたという。被害の状況や復旧に要する期間は現時点で分かっておらず、復旧が長期化した場合には、国際宇宙ステーション(ISS)の運用に影響が及ぶおそれがある。
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ソユーズMS-28を搭載したソユーズ2.1aロケットの打ち上げ。打ち上げは成功したものの、発射台の一部が損傷したとみられる (C)NASA/Bill Ingalls
ソユーズ打ち上げ用発射台で何が起きた?
ソユーズMS-28は、ソユーズ2.1aロケットに搭載され、日本時間27日18時27分(現地時間同日14時27分)に、バイコヌール宇宙基地の第31地区にある第6発射台(31/6)から打ち上げられた。
打ち上げから約3時間後にはISSに自動ドッキングし、搭乗していたロシアのセルゲイ・クド=スヴェルチコフ宇宙飛行士、セルゲイ・ミカエフ宇宙飛行士、米国航空宇宙局(NASA)のクリストファー・ウィリアムズ宇宙飛行士の3人を送り届けた。
ロスコスモスは打ち上げ後、発射施設の点検を行った際に、複数の部品に損傷を確認したと明らかにした。声明では、発射施設全体の状態評価を進めているとしたうえで、復旧に必要な予備部材は確保しており、修復は近く完了するとの見通しも示した。
しかし、現地で撮影されたとされる映像では、ロケット下部にアクセスするための移動式プラットフォームが外れ、発射台下部の煙道(排気を逃がすための空間)付近に落下している様子が確認できる。
このプラットフォームは、正式名称は8U216と呼ばれ、エンジンの着火装置を装着する作業や、ロケット下部の点検などに用いる足場として機能する。打ち上げ前には全体がスライドして退避し、エンジンの燃焼ガスが直接当たらない仕組みになっている。
損傷の原因は明らかになっていないが、オペレーションのミスや老朽化などによって、打ち上げの前後に何らかの不具合が生じ、発射台の下へ落下したものとみられる。
バイコヌール宇宙基地はカザフスタン共和国にあり、ロシアが運用しているロケット発射場だ。同基地の1/5発射台は、ユーリィ・ガガーリンが飛び立った発射台として知られ、のちに「ガガーリン発射台」とも呼ばれるようになった。同発射台はその後も、有人のソユーズ宇宙船や、無人のプログレス補給船の打ち上げに長らく用いられてきたが、老朽化やロケットの世代交代などにより、2019年に廃止された。
こうした経緯から、近年はバイコヌールからのソユーズ・ロケットの打ち上げは、31/6発射台のみで行われている。
このため、同発射台の復旧が終わるまで、ソユーズ宇宙船とプログレスはいずれも、打ち上げることができない状況となった。
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ソユーズの発射台にある移動式プラットフォーム(写真下部)。打ち上げ準備の際に使用し、打ち上げ前にはスライドして退避する (C)Roskosmos
バイコヌール以外からのソユーズ宇宙船打ち上げは可能か
ロシアはバイコヌール宇宙基地以外に、北西部にプレセツク宇宙基地を、極東部にはヴォストーチュヌイ宇宙基地を有しており、ソユーズ・ロケット用の発射施設もある。ただし、立地上の制約があり、そもそもソユーズ宇宙船の有人打ち上げに必要な地上設備や運用体制が整っていないことから、バイコヌール宇宙基地の代替として用いることはできない。
ただし、無人のプログレスに限れば、ヴォストーチュヌイ宇宙基地からの打ち上げは、条件次第で成立する可能性がある。
その可否を左右するのが、射場緯度とISS軌道との関係だ。射場緯度が目標軌道の傾斜角を上回る場合、打ち上げ時に飛行経路を横に曲げる「ドッグレッグ・ターン」や、軌道投入後の軌道面変更が必要となるが、これらの補正量が増えるほど打ち上げ能力が低下するためである。
ヴォストーチュヌイ宇宙基地は北緯約51.88度にあり、ISSが周回する軌道傾斜角51.6度の軌道へ打ち上げるためのドッグレッグ・ターンや軌道面変更は必要になるものの、必要な補正量は比較的少なくて済む。そのため、物資の搭載量などを調整すれば、打ち上げが成立する可能性がある。
もっとも、これまでヴォストーチュヌイ宇宙基地で、プログレスへの物資や燃料の搭載などの地上運用が行われたことはない。設備の整備や手順の確立が必要になることを踏まえると、実施のハードルは高い。
一方、プレセツク宇宙基地は北緯約62度にあり、ISS軌道へ打ち上げるには、ドッグレッグや軌道面変更による打ち上げ能力の低下が大きく、そもそも実施は現実的ではない。
こうした事情から、バイコヌール以外からソユーズ宇宙船やプログレスを打ち上げるのは容易ではない。このため、損傷した発射台の一日も早い復旧が求められる。復旧が長引けば、ISSの運用にも影響が及ぶおそれがある。
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ソユーズMS-28を載せたソユーズ2.1aロケットの飛行 (C)NASA/Bill Ingalls
ISS運用への影響はどうなる?
ISSの運用のうち、宇宙飛行士の打ち上げや交代については、ソユーズ宇宙船以外にも、米国の「クルー・ドラゴン」が担っているため、ISSの滞在人数や期間の調整などで運用を続けることは可能と考えられる。
プログレスが担っている物資補給についても、米国の「カーゴ・ドラゴン」補給船や「シグナス」補給船、日本の補給機「HTV-X」と複数の手段がある。物資のやりくりやISSでの実験計画の調整は必要になるだろうが、ただちに運用が困難になることはない。
また、プログレスは、ISSにドッキングした状態でエンジンを噴射し、ISSの軌道を定期的に上昇させる「リブースト」を行っている。現時点では、リブーストはロシア・モジュールの推進系とプログレスが中心となって担っている。
ただ、近年ではシグナスが限定的なリブーストを実施し、カーゴ・ドラゴンもリブースト能力の実証を進めてきた。さらにNASAは、カーゴ・ドラゴンに「ブーストキット」と呼ばれる新しい推進モジュールを搭載し、より長時間の燃焼を定期的に行うことを計画している。そのため、運用上の制約やリスクはあるものの、米国の補給船を代替手段として活用できる余地がある。
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カーゴ・ドラゴン補給船。まもなく定期的なリブーストを行えるようになる見込みだ (C)NASA
一方で、大きな問題となり得るのが、ISSのコントロール・モーメント・ジャイロ(CMG)のアンローディング(角運動量除去、デサチュレーション)だ。
CMGは、回転する円盤体(フライホイール)の角運動量を利用して姿勢を制御する装置で、ISSには4基が装備されている。CMGにより、推進剤を消費するスラスターの使用を抑えつつ姿勢制御や姿勢変更が可能となる一方、空気抵抗や太陽光圧、重力傾度といった外乱の蓄積で角運動量がたまり、CMGだけでは姿勢を保ちにくい状態に近づく。
そのため、定期的にスラスターを噴射して、角運動量を減らす作業が必要となる。現在の運用では、この作業はロシア・モジュールの推進系、もしくはプログレスによってのみ実施されている。
しかし、ロシア・モジュールへの推進剤補給はプログレスが担っており、米国や日本の補給船からロシア側へ推進剤を移送することはできない。また、NASAは将来的に、カーゴ・ドラゴンのスラスターを使ってISSの姿勢制御を行うことを計画しているが、現時点では実現していない。
したがって、プログレスの打ち上げ停止が長期化し、ロシア・モジュールの推進剤残量が低下してアンローディングが行えなくなれば、ISS運用が困難になるおそれがある。
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国際宇宙ステーション(ISS) (C)NASA