朝日新聞阪神支局襲撃事件から39年 2記者殺傷「忘れるわけには」

中嶋周平 根本快 岸うらら

朝日新聞阪神支局襲撃事件で犠牲になった、小尻知博記者の遺影に手を合わせる人=2026年5月3日午前、兵庫県西宮市の朝日新聞阪神支局、木子慎太郎撮影

 兵庫県西宮市の朝日新聞阪神支局に目出し帽の男が侵入し、散弾銃を発砲して記者2人を殺傷した事件から3日で39年がたつ。

 殺害された小尻知博記者(当時29)を追悼するため、朝日新聞社は3日、支局1階に拝礼所と記帳台を設け、3階の襲撃事件資料室を一般公開した。

資料室に展示されたワープロなどを見る人たち=2026年5月3日午前、兵庫県西宮市の朝日新聞阪神支局、木子慎太郎撮影

 訪れた人たちに話を聴いた。

 西宮市の保育士、中山正樹さん(70)は「子どもたちには、言論を暴力で封じようとする社会を経験させてはならない。その責務は我々にあるんだと毎年思います」と言葉を詰まらせた。

 日本が近年、「報道の自由度ランキング」で60位台にとどまることを懸念する。「国民の情報のよりどころはメディア。萎縮せず、堂々と発信してほしい」と話した。

阪神支局に飾られた、小尻知博記者の写真を見る人=2026年5月3日午前、兵庫県西宮市の朝日新聞阪神支局、木子慎太郎撮影

 千葉県の高校教諭、沼山尚一郎さん(62)は大学時代に小尻記者の取材を受けたといい、「非常に温厚で、人の話にきちんと耳を傾ける人だった」と振り返った。毎年献花に訪れ、この日は「今年で定年を迎えます。見守っていてくれてありがとうございます」と伝えたという。

 事件から39年が経ち、「自身の主義主張は言っても、人の話を聞けない人たちが増えたと思う」と語った。

 小尻記者と中学の同級生だったという大阪府岸和田市の熊田昌之さん(68)は「遺影を見ると当時を思い出す。小尻は同窓会に一度も来られなかった。なぜ小尻が殺されたのか、理由がわからないままなんて、やりきれない」と話した。

現場で目撃した元支局員「忘れるわけにはいかない」

 当時の阪神支局員で、現場で事件を目撃した高山顕治・朝日新聞ブランド企画部主査(64)も支局を訪れた。

 今夏に定年を迎えるのを前に、この日が社員として最後の5月3日となるのに合わせ、報道陣の取材に応じた。

事件当時、阪神支局に勤務し、現場を目撃した高山顕治さん。今夏に定年を迎えるため、社員として最後の5月3日に報道陣の取材に応じた=2026年5月3日午後、兵庫県西宮市、芹沢みなほ撮影

 高山主査は、自身の事件への関わりを「定年ということでひと区切りにしたい」としつつ、「忘れるわけにはいかない。なぜ阪神支局が襲われなければいけなかったのか。理由がわからないのが一番悔しい」と心境を語った。

 小尻記者については「原稿を書くのが大好きな人だった。もっと小尻さんの原稿を読みたかった」と言葉を詰まらせた。

 事件当夜のことも振り返った。

 犯人が現場に現れたのは、支局で作ったすき焼きの鍋を小尻記者、犬飼兵衛記者(事件当時42、2018年死去)と3人で食べ終え、歓談していたときだった。高山主査は、銃を腰に据えて立つ目出し帽の男の姿に気づいたが、「誰かのいたずらだと思った」という。「自分ひとりが無傷だったのに、ちゃんと見ていなかった。そのことが逮捕につながらなかったのかな」と悔やんだ。

 事件の目撃者として「あの時は散弾銃だったが、SNSでの誹謗(ひぼう)中傷など、闇に隠れて人を攻撃する風潮は今もある」と考える。「おかしいことはおかしい、と声を上げられる社会であってほしい」と語った。

小尻記者の墓前で手を合わせる朝日新聞大阪本社の龍沢正之・編集局長(左)と稲田信司・広島総局長=2026年5月3日午前10時28分、広島県呉市川尻町、相川智撮影

 広島県呉市にある小尻記者の墓前では3日午前、朝日新聞大阪本社の龍沢正之・編集局長らが手を合わせた。龍沢編集局長は、SNSを通して偽情報が拡散されるなど言論を取り巻く状況が危うくなっているとして、「よりよい社会を築くために、理不尽に対し臆せず批判し、社会の信頼に応えていく」と誓った。

 事件が起きた午後8時15分、支局では朝日新聞社員らが黙禱(もくとう)した。

 事件は1987年5月3日の憲法記念日の夜に起きた。支局2階の編集室に侵入した男が散弾銃を2発発砲。小尻記者を殺害し、犬飼記者に重傷を負わせた。

 事件後に通信社に届いた「赤報隊」を名乗る犯行声明文には、「すべての朝日社員に死刑を言いわたす」「反日分子には極刑あるのみ」などと記されていた。

 赤報隊を名乗る事件は、東京本社銃撃(87年1月)、名古屋本社寮襲撃(87年9月)、静岡支局爆破未遂(88年3月)など計8件。警察庁は一連の事件を「広域重要指定116号事件」として捜査を続けたが、いずれも未解決のまま、03年3月までに公訴時効を迎えた。

詩人の故小山和郎さんが詠んだ俳句。阪神支局の編集室に掲げられている=2026年5月3日午前、兵庫県西宮市の朝日新聞阪神支局、木子慎太郎撮影

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この記事を書いた人

中嶋周平
神戸総局
専門・関心分野
格差、貧困
根本快
神戸総局|事件・司法担当
専門・関心分野
事件、政治資金

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