若者が犯罪に手を染める社会のなぜ:「失われた30年」が残した傷痕

社会・一般Group of people jumping outdoors; sunset

カンボジアで日本人の特殊詐欺グループ約20名が拘束され、プノンペンに移送されました。同施設は厳重に警備されていたとされますが、それは部外者の侵入を防ぐより内部の人間の脱走を阻止するものではなかったか、ともされます。数か月前にはミャンマーでも特殊詐欺拠点が摘発され話題になりましたが、捕まった日本人はわずかでその前に逃げたともされます。ミャンマーとカンボジアの両問題で共通なのは拠点がタイ国境に近く、アクセスはタイからのルートを使っていた公算が考えられます。

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悪い奴というのは何処の世界にもいるものです。ただ、その中で私の感じる特徴としてアジア系の犯罪は集団化して行うケースが多いのに対して欧米のそれは比較的少人数、極端なケースでは一人で犯罪を犯すケースがみられます。

その根本的違いは犯罪に限らず、多くの行動を起こす場合、アジアは組織を層状にしてピラミッドのような形にしたうえで代替しやすく、時として「トカゲのしっぽ切り」になるのに対して欧米は厳密な作戦のもと少数精鋭で、組織に対する信頼度は低いのではないかと感じます。例えば犯罪とは真逆の話ですが、ミッションインポッシブルとか007の映画にみられるように能力を持った特定の人間がフォーカスされやすいとも言えます。白人の世界では人海戦術のような組織づくりはあまりないと思います。日本で英雄が生まれにくいのもそのあたりの背景があるのかもしれません。

同じアメリカ大陸でも一歩メキシコに踏み入れればまるで違う世界で、中米の犯罪は組織が主体です。だいぶ前ですが、メキシコの太平洋側リゾート地からメキシコシティまで夜行バスで行くという話になった時、「死にたいならどうぞ」と言われたことがあります。途中でバスジャックされやすいという訳です。もう1つは私の友人がアメリカから南米まで乗り合いバスだけで行く旅に挑んだのですが、コロンビアだけはあまりにも危険で横断するバスそのものがなく、たしかパナマあたりで諦めたという話もありました。

最近、日本のテレビニュースで捕まる犯人の若者の顔を見るとどう見てもそのあたりにいる普通の人なのです。かつては犯罪に手を染める人は極悪非道の姿形から入ったもので見た目に「怖そう」というイメージが重要だったと思います。パンチパーマのお兄さんとかいましたよね。今の時代はまるで普通の若者なのです。

何が若者をそうさせたのか、そしてなぜ組織犯罪に加わるのでしょうか?

個人的には社会の二分化が根本的な背景だと感じます。中学、高校あたりになると勉学というよりクラスに溶け込めない人が出てきます。更に社会人になるともっと厳しく、会社組織について行けず、仕事が出来なければ会社の仲間から叱責されるケースもあるでしょう。個人的には会社組織における陰険ないじめの方がメンタルへのインパクトは強く、やむを得ず退社しても次の就職口がない人がどんどん社会的存在場所をなくしていく、そんな風に見えるのです。

その背景は社会が可視化されるようになり人の表面的判断がしやすく、その印象が瞬時に関係者に伝わるSNS効果はあると思います。そのため排除された人には住みずらい世の中になっているのでしょう。我々一般人はだんだんナローマインド(narrow mind、狭い心)になっていて他人を受け入れるキャパシティが小さくなり、自分とウマが合う人だけを取捨選択するのです。

例えば私が小学校の時はクラスにサラリーマンと共に豆腐屋とか床屋の子供、更には事業を営んでいる家の子供など多種多様だったし、それに対していちいち差別意識は持たず、同じクラスの仲間として遊んだものです。ところが時代と共に親がそうさせなくなったと思います。「〇〇さんの家は良くないおうちだからあまりお友達にならないでね」と子供に囁くのです。子供は他の仲良しに「うちのお母さんがこう言っていたよ」と全部ばらします。するとそこに明白な差別意識が生まれてしまうのです。

成人しても人間、お金がなければ3つしか生きる道がありません。親と同居するパラサイトか、乞食になるか、犯罪に手を染めるか、です。現代社会において乞食はあまりにもみじめでメンタル的ハードルは高いと思います。(ただ一度乞食をやると止められないともいわれます。)要はお金に困った人でも見栄えを気にする中、軽い気持ちで「日当稼ぎ」ぐらいのノリで入り込むのだろうと推測しています。

ではそれら若者の親はどうなのか、といえば成人した子供を面倒見ることが物理的にも精神的にも無理な状態にあるのでしょう。かつては親や親戚による社会道徳教育と抑制効果がありました。ところが親戚づきあいも淡泊になり、若者は誰にも頼れなくなります。親の年齢層は大方40代後半から50代。つまりバブル崩壊後に一番苦労した世代であり、人のことを構っている余裕などない世代です。当然子供も放任だし、子供が犯罪に手を染めてもただ茫然とするだけということではないでしょうか?

もちろんそんな簡単なストーリーばかりではなく、複数の因子が複雑に絡んでいることは確かです。ただ、最近の詐欺行為、あるいは若者による殺人事件を見ていると行動が極めて短絡的で動物的な感じがします。なぜ動物的になったか、これも異論はあると思いますが、スマホの使い過ぎで一部の人に考える能力が失なわれているように感じます。そこまで行くと退化であって、人類の危機とも言えるかもしれません。

はたしてこの問題をどう解決していくか、対処法ばかりではなく、人間の生き方の根本的な検証が必要ではないでしょうか?

では今日はこのぐらいで。

編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2025年6月1日の記事より転載させていただきました。

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