金正恩総書記が激怒 最新鋭がなぜ?進水式で駆逐艦横転… 存在感高まる娘のジュエ氏

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 北朝鮮のイージス艦とも呼ばれる最新鋭の駆逐艦の横転事故を巡り、幹部らの粛清が始まったという。金正恩総書記が激怒した背景に何があったのだろうか。

■進水式で横転した原因は?

 まずは、進水式で起きた横転事故をみていく。進水式には金総書記も出席していたという。

 アメリカの衛星が捉えた北朝鮮北東部・清津(チョンジン)の事故現場とされる画像を比較してみると、横転前18日の画像で新型駆逐艦の姿が確認できるが、22日事故後の駆逐艦は、海に横転し、船体はシートで隠されている。

 21日に行われた進水式で、金総書記の目の前で駆逐艦が横転する事故が起き、金総書記は「到底あり得ないことであり、許しがたい深刻な犯罪行為だ」と叱責(しっせき)したという。

 北朝鮮メディアによると、この事故を巡り、26日までに朝鮮労働党の軍需工業部副部長ら4人が拘束されたという。韓国の中央日報は「大規模な血の粛清」だと伝えている。

 それにしても、なぜ最新駆逐艦が横転したのだろうか。

 先月25日に別の場所で進水した「北朝鮮版イージス艦」とも呼ばれる駆逐艦「崔賢(チェヒョン)」。横転事故を起こした艦と同型の1隻目で、推定排水量は5000トン、北朝鮮で最大規模の軍艦とされる。

 朝鮮中央通信によると、「チェヒョン」は進水後、超音速巡航ミサイルや戦略巡航ミサイルの発射実験を成功させていて、視察した金総書記は、海軍の核武装化を加速させるよう指示したという。

 「チェヒョン」について、AFP通信によると、韓国軍合同参謀本部の報道官は「公開された武器や装備を見ると、ロシアから技術や資金など支援を受けた可能性がある」と指摘したという。

 そんな最新鋭の軍艦が横転した原因について、アメリカのシンクタンクCSISは、「この造船所は普段貨物船や漁船を造っていて、大型艦の建造と進水に関する知識が不足していた」と分析している。

 AFP通信は、小型船舶に適した旧式技術で大型艦艇を進水させようとしたのが原因で、建造を急がせた金総書記の催促が事故につながったとも指摘している。つまり、船は最新だったが、造船所の設備に問題があったようだ。

 金総書記に急ぐ必要があった理由とは何なのか。2021年に打ち出した「国防5カ年計画」で、今年が最終年にあたる。こうしたなか、北朝鮮はさまざまな最新兵器をアピールしてきた。

 金総書記は、3月に弾道ミサイルを搭載する原子力潜水艦の建造、今月は高い技術を要する空対空ミサイルの発射訓練を視察した。いずれも北朝鮮がウクライナ戦争への派兵の見返りに、ロシアから関連技術を受け取った可能性が指摘されている。

 そして、技術だけでなく、ロシアへの派兵も軍に反映されている。金総書記は13日、特殊部隊などの訓練を視察していて、派兵経験を基にした無人機作戦が取り入れられたという。AFP通信によると韓国・統一研究院の主任研究員は「ウクライナ戦争で得た現代戦の経験を韓国に対して誇示している」と指摘している。

 アメリカ国防情報局は、今月公表した「2025年世界脅威評価」報告書で、ロシアとの協力関係を念頭に、北朝鮮はここ数十年間で最も戦略的に有利な位置に立ったと分析している。

 ロシアとの関係で存在感が高まっているのが金総書記の娘・ジュエ氏だ。外交デビューも果たした。

 北朝鮮のエリート層が注目するサプリメントがあるという。それは、ラジオフリーアジアによると、韓国のサプリメント「テンテン」で1缶およそ2500円。北朝鮮では、成長と発育に必要な各種成分が含まれ身長の伸びに影響するといわれている。北朝鮮ではおよそ1万円で売られているという。

 このサプリメントの需要が高まる背景に、北のエリート社会特有の事情があるという。閲兵式など政治行事で隊列を組む際、背の高い人が一番前に並べられ、一番前は目立つので幹部に選ばれる確率がアップするという。つまり、北朝鮮では身長の高い、低いが出世に関わるという。

 そんな北朝鮮のエリートの層に「子供の身長を伸ばさなければ」と拍車をかけているのが、金総書記の娘・ジュエ氏だという。

 2022年11月、推定9歳の時に初めて姿が公開され、去年から今年にかけて身長がグンと伸び、金総書記と変わらないほどになった。

 ただ、韓国の中央日報によると、そもそも10代半ばから20代の北朝鮮男性の身長は156〜165センチで、同じ年代の韓国人男性よりも10センチ低いそうだ。国連人権理事会の報告書によると、北朝鮮は2020年から3年間で人口の45.5%が栄養失調だという。

 そしてジュエ氏は今月、外交デビューを果たしている。9日、ロシアの対ドイツ戦勝記念日に合わせ、金総書記はジュエ氏とともに平壌にあるロシア大使館を訪問した。外交日程にジュエ氏を同行させたのは今回が初めてのことだ。

 チェ・ソンヒ外相の発表では、ジュエ氏を「最も愛するお嬢さま」と表現。韓国の統一研究院のチョ・ハンボム氏は「“最も”という表現はジュエ氏が後継者だという意味であり、外交デビューは後継者の地位にあることを知らせる公式メッセージだ」と分析している。

 そして、後継者には風貌も関係があるようだ。それが、朝鮮半島情勢に詳しい毎日新聞客員編集委員・鈴木琢磨氏が独自に入手したという、金日成(キム・イルソン)氏から金正日(キム・ジョンイル)氏への世襲について、平壌の意向を受け韓国で地下出版されたとされる本『後継者論』(1984年)だ。

 ここには「後継者の資質と風貌を備えたすばらしい人物であったならば、男性であれ女性であれ、問題にならない」とあり、鈴木氏は、こうした記述がジュエ氏の後継を補強することにつながる可能性があると指摘している。

 現在、北朝鮮と中国との関係はどうなっているのだろうか。

 韓国の連合ニュースによると、先月下旬、中国警察が中国の遼寧省に派遣されていた北朝鮮のIT技術者をスパイ容疑で逮捕したという。

 この技術者は朝鮮労働党軍需工業部の下部組織から派遣され、軍事技術の情報を盗んでいたという。

 この逮捕を受けて、同じ場所で活動していた北朝鮮IT技術者は全員帰国。北朝鮮政府が情報収集活動の露見を恐れていたとみられる。

(「大下容子ワイド!スクランブル」2025年5月29日放送分より)


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