雨粒が車のボディを腐食させるメカニズムが明らかに、雨粒から車体に電荷が放出されるのがポイント
雨粒が自動車のボディを腐食させるメカニズムが、最新の研究で明らかになりました。これまであまり注目されていなかった、「雨粒の帯電」がボディに損傷を与えていたことが明らかになっています。
Spontaneously charged water drops induce corrosion | Nature
https://www.nature.com/articles/s41586-026-10941-6Raindrops are tiny lightning bolts, and they’re corroding cars, study finds - Ars Technica https://arstechnica.com/science/2026/08/raindrops-are-tiny-lightning-bolts-and-theyre-corroding-cars-study-finds/ 雨が腐食を引き起こす理由として一般的に説明されているのは、水が溶解した塩分や酸を車体表面に運び、雨粒が絶えず打ちつけることで表面の保護コーティングが摩耗し、酸素が作用するというものです。塗料・ポリマーフィルム・酸化被膜などの腐食を防ぐための手段のほとんどは、この考えに基づいています。しかし、最新の研究では雨が腐食を引き起こすメカニズムにおける、重要な要素が見落とされていたことが明らかになりました。
ドイツのマインツにある高分子科学・ソフトマテリアル分野の世界最高峰の基礎研究機関であるMax Planck Institute for Polymer Researchで働くジョンユエン・ニー氏、リュディガー・バーガー氏、ハンス・ユルゲン・ブット氏らが主導した研究によると、雨粒は絶縁コーティングを貫通するのに十分な電荷を帯びた状態で車体表面に到達することが明らかになっています。つまり、雨粒は車体表面を傷つけたりゆっくり溶かしたりするのではなく、火花が隙間を飛び越えるように電気的に穴を開けていることが明らかになりました。 雨粒が葉っぱや塗装された壁、窓ガラス、プラスチックパネルなどの絶縁面を滑走すると、その表面から電荷を奪います。このような帯電した水滴は、最大9000ボルトの電圧を持つそうです。研究チームはこの帯電した水滴が、何かしらの物体表面に着地したタイミングでどのような影響を与えるかを調査しました。なお、帯電した液滴は雲・雷雨・海の波・噴水・滝といった自然現象だけでなく、静電噴霧やインクジェット印刷などの工業プロセスでも自然に形成されます。
調査のため、研究チームは少量の塩を加えて雨水を模倣した水を準備し、35マイクロリットル(大きな雨粒ほどのサイズ)の水滴を作成し、これを50度に傾けた物体表面に落としています。物体表面に落ちた水滴は約4センチメートル滑り、電荷を帯びた状態で物体表面から落ち、5ミリメートル下の60ナノメートルのテフロン膜でコーティングされた銅板に落下しました。テフロン膜は市販されているコーティングの中でも最も耐薬品性に優れたものだったそうです。
傾斜面は現実世界の雨粒を模倣するために選ばれており、1つ目はトラデスカンティア・スパタセアの葉、2つ目はPVC発泡ボード、3つ目は窓ガラスとして市販されている透明なポリスチレンシート、4つ目はフッ素コーティングされた石英です。水滴は各傾斜面から電荷を集めており、最も電荷を帯びなかったのがトラデスカンティア・スパタセアの葉(0.2ナノクーロン)で、最も電荷を帯びたのがフッ素コーティングされた石英(2ナノクーロン)でした。雨粒ほどの大きさの物体における1ナノクーロンは、数千ボルトに相当する強力な電気量であると研究チームは説明しています。
研究では中程度の雨が降る午後に相当する条件下で、水滴を3000回落下させました。すると、4つのテフロンコーティングされた銅板が、すべて腐食していることが確認されました。原子間力顕微鏡で水滴が落下した部分を調べたところ、場所によっては深さ数ナノメートルのくぼみが確認されています。これはテフロン膜の厚さを上回っており、つまりは損傷がコーティングを完全に貫通して金属(銅板)に到達していることを意味します。一方で、事前に物体表面を滑らずにそのまま銅板に落下した水滴(電荷を帯びていない水滴)は、同じく3000回落下させても銅板表面に全く損傷を与えませんでした。
さらに、研究チームはハイスピードカメラを使い、水滴が落下する際の様子を撮影。中性の液滴が銅板に近づくと、接触するまで液滴の底面が滑らかで丸い状態を保つことが確認されました。一方、帯電した液滴は全く異なる挙動を示しており、銅板に近づくにつれ液滴の底面がテイラーコーンと呼ばれる鋭角な形状に伸びることが確認されました。テイラーコーンは静電気力が表面張力を上回った場合に液体が取る形状で、液滴と金属の間の電場が水を変形させるほど強くなったことを示す兆候です。
研究チームは液滴を導電性の壁の上に浮かぶ導電性の球体としてモデル化し、電界の強さが距離に応じてどのように変化するかを計算。2ナノクーロンの電荷を帯びた液滴の場合、液滴が表面から約10マイクロメートル離れている時点で、テフロンの絶縁破壊しきい値である1ミリメートル当たり60キロボルトに達することが明らかになりました。これは絶縁体が絶縁しなくなる電界強度です。1ミリメートル当たり19キロボルトで絶縁破壊を起こすポリスチレンコーティングの場合、絶縁破壊は50マイクロメートル離れた位置で発生する模様。 コーティングは絶縁破壊しきい値に達すると絶縁体としての機能を失うため、電荷は微小な誘電破壊を起こしてコーティングを突き破ります。これはコンデンサや変圧器の絶縁を破壊するのと同じ現象です。また、研究チームが行った電荷測定では、電荷の伝達がほぼ完全であることが確認されており、2ナノクーロンの電荷を帯びた液滴が銅板に衝突すると、1.8ナノクーロンの電荷が銅板に放出され、液滴自体は0.016ナノクーロン(元の電荷の1%未満)だけを帯びて跳ね返ることが確認されています。 電荷量は液滴の滑り距離に比例し、コーティングの耐水性はその厚さに比例するため、雨粒のコーティング貫通効果には限界があります。12マイクロメートルのポリスチレンフィルムは貫通しましたが、130マイクロメートルのフィルムは貫通しませんでした。ただし、自動車の塗料のほとんどは厚さがわずか数マイクロメートル程度であるため、研究チームはナノクーロンスケールの電荷であれば、基本的に自動車のコーティングを貫通してしまうと指摘しています。研究チームはコーティングが破られると露出した金属が塩水に浸かり、その表面に新たな電位差が生じることを発見。これにより、本来は腐食を防ぐことができるはずの車体表面で、腐食を引き起こす電気化学反応が自由に作用するようになると指摘しています。 さらに、研究チームは水滴でコーティングが破壊された銅板で生成された腐食性成物をラマン分光法およびX線回折法を用いて分析。その結果、酸化第一銅や塩化第二銅といった成分が検出されました。損傷部分の元素マッピングでは、酸素と塩素が流入し、テフロンからフッ素と炭素が流出していることも示されています。研究チームによると、これはコーティングが損傷した際に起こる現象とまさに一致するそうです。 研究チームはコーティングの保護性能がどの程度の速さで劣化するかを調べるために、インピーダンス測定も行いました。帯電した液滴を1万回落下させたところ、テフロンフィルムのバリア性能は塩水に4時間連続で浸漬させた後よりも低下していることが明らかになりました。さらに、一度コーティングの損傷が始まるとその進行は加速し、損傷箇所は水に濡れやすくなり、水が長く留まり、拡大していくようになるため、帯電した液滴を5万滴落下させると腐食部分は1ミリメートル以上の幅になったそうです。 これらの実験に加えて、研究チームは3分の2が石英、残りの3分の1が銅でできた板を作り、全体を均一なテフロン層でコーティングし、凹凸のない表面を作り出ました。この板の上を帯電した液滴が滑ると、埋め込まれた石英と銅の境界に沿って腐食線が発生することも明らかになっています。これは、帯電した液滴は接触した表面とは反応せず、反対の電荷を供給できるほど近くのものと反応するためです。 研究チームは帯電した液滴が複合材料全般に重大な影響を及ぼすと主張。導電性または高誘電率の部品が絶縁性マトリックスに埋め込まれている場所であれば、どこでも滑動する帯電液滴はそれを見つけるはずであると指摘しています。具体的には、橋梁・船体・塗装された鋼材・屋外電子機器のポリマー製筐体・歴史的建造物の金属構造物などが帯電した雨粒の被害にあう可能性があると指摘しました。 なお、テフロンなどの保護層を厚くすることが帯電した液滴から車体を保護するための解決策のひとつだそうです。130マイクロメートルのポリスチレンフィルムなら、帯電した液滴の影響を受けずに済みます。しかし、厚みを増すことが常に可能な選択肢とは限りません。光学フィルムは透明度を維持する必要があり、航空機の保護層は軽量かつ柔軟でなければならず、屋外電子機器の保護層は設計上薄く作られているためです。研究チームは市販されているコーティングのほとんどが化学的耐性に基づいて選ばれているため、「どれだけの電界に耐えられるかが規定されたコーティング」が必要であると主張しました。
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