水深2mのホテルプールで大学生溺死、監視員なし 8千万円賠償命令

有料記事

松本江里加 坂本純也

 鹿児島県指宿市の指宿シーサイドホテルで2022年、大学生の女性(当時21)=福岡県=が溺れて死亡したのはホテル側の安全管理に問題があったためだとして、遺族が約1億5000万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が2日、福岡地裁であった。

 加藤聡裁判長はホテル側に計約8千万円の賠償を命じた。

 判決によると、女性は22年7月24日、旅行で母親らと4人でホテルを利用。妹とプールで遊泳中に水深が1.3メートルから2メートルに変わる地点で妹が溺れ、助けに行った女性も溺れた。

 妹は自力でプールサイドに上がったが、女性は搬送先の病院で死亡した。

記事後半では、妹が法廷で「助けを訴えたが、伝わっていないように感じた」と語った証人尋問の様子を伝えています。

 判決ではプールの構造について、「一般の利用者が水深が約2メートルにも及ぶと認識することは困難」と指摘。そのうえで、「溺水(できすい)する危険が相応に高い構造であったというべきである」とし、被告側の「プールを歩いていれば水深の変化を容易に認識できた」との主張を退け、事故を予見できたと認定した。

 プールサイドの水深表示や出入り口の注意書きについて「決して目に留まりやすいものとはいえない」と言及。監視員がおらず、救命具などの備えもなかったことから、ホテル側が注意義務を怠ったと結論づけた。

 判決後、取材に応じた原告で女性の父親(51)は「ホテルの注意義務を認めていただき、亡くなった娘に報告できる。同じような事故が少なくなればと願う」と話した。

 ホテル側は取材に「判決内容が確認できていないのでコメントを差し控える」と回答した。

 事故後は安全対策として、注意書きを大きくし、救命用具を設置したほか、巡回を15分おきに増やすなどしたとしている。

 プールはレジャー用で以前は飛び込み台があり、飛び込みたい人向けに水深のある構造なのだという。深さが変わる地点は現在、黄色い線でわかりやすく表示しているという。

 判決によると、水深2メートル前後のプールを併設するホテルは国内に12カ所ある。

監視員や救命具の配備、法的義務は無し

 プールの安全対策をめぐっては、国が2007年3月に「プールの安全標準指針」を出している。埼玉県ふじみ野市の市営プールで06年に小2女児が吸水口に吸い込まれて死亡した事故を受けたものだ。

 ハード面では、救命具の配備や、注意喚起のための看板や標識の設置を求めている。

 ソフト面では、規模に応じた適切な監視員の配置や、事故発生時の対応マニュアルの作成を求めている。

 今回の事故のあった指宿シーサイドホテルを管轄する鹿児島県の加世田保健所(南さつま市)は朝日新聞の取材に対し、22年の夏休み前にも、この指針を管轄エリアのホテル側に通知していた、と説明した。

 ただ、指針は主に学校に設置されたプールが対象で、民間施設に対しては「参考活用を期待する」にとどまる。また国土交通省によると、監視員の設置を義務づける法律はないという。

 一方で、近年もプールでは死亡事故が起きている。7月には東京都小金井市のスポーツクラブで小学1年の男児が溺れて死亡。また昨年7月には高知市の小学校4年の男児が水泳授業中にプールでおぼれて亡くなり、20年12月には秋田市の民間プール施設で、高校1年の生徒が水中に沈んだ状態で見つかり死亡した。

ごめんなさい 妹はプール脇で…

 今年8月の口頭弁論では、死亡した女性と一緒にプールで遊んでいた妹が証人尋問を受けた。

 現在高校2年生で、当時は中学2年生の14歳だった。

 法廷に立った理由を、こう説…

この記事を書いた人

松本江里加
西部報道センター
専門・関心分野
地方創生、子どもの権利、福祉,など
坂本純也
西部報道センター|平和、司法
専門・関心分野
国内政治、司法、平和・原爆

関連記事: