「日本の音楽を世界へ」転換点となるか──YOASOBI、Ado、新しい学校のリーダーズが躍動したLA音楽イベントの裏で行われていた売り込みとは #アジア文化最前線
3月、米ロサンゼルスで、CEIPA(一般社団法人カルチャーアンドエンタテイメント産業振興会)らが主催する音楽イベント「matsuri '25: Japanese Music Experience LOS ANGELES」が開催された。日本の音楽業界のグローバル化を目指して行われたイベントには、YOASOBI、Ado、新しい学校のリーダーズが出演。イベントに先駆け現地では音楽関係者の交流会が行われ、B’z の松本孝弘氏ら、日米を代表する音楽業界人たちが親睦を深めた。今、日本の音楽を世界に売り出そうという機運がかつてないほどに高まっている。その現場を取材した。(取材・文:宮本香奈/撮影:MICAFOTO/Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)
YOASOBI、Ado、新しい学校のリーダーズという日本のトップアーティストの対バンが話題を呼び、完売で当日を迎えた「matsuri '25」。ライブ公演前には同会場で、JETRO(日本貿易振興機構)ロサンゼルス主催の「the matsuri'25: JP Music Industry Mixer&Panel」が開催されていた。 ミキサー(交流会)ではまずCEIPAの活動と、今年5月に京都で行われる国内最大規模の国際音楽賞「MUSIC AWARDS JAPAN」(以下「MAJ」)の概要について紹介。
CEIPAは、「日本の音楽を世界へ」を目指し、音楽をはじめとする日本のエンタメを世界にプロモートする団体。音楽業界の主要5団体が垣根を越えてつながり、日本の音楽を世界に発信することを目指す、過去に例のない新しい存在だ。海外からの視点では日本の音楽業界の大きな窓口となる。
「MAJ」は、CEIPAが主催し、「世界とつながり、音楽の未来を灯す。」をコンセプトに、日本の音楽を海外へ発信する日本最大規模の国際音楽賞だ。3月に発表されたエントリー作品は、その数3000作品。全部で62にも及ぶカテゴリの中から、主要6部門のアワードを選出する、日本では過去最大規模のアワードとなる。規模もさることながら、このアワードが類を見ないと評価されるのは、選考方法にも理由がある。 アーティスト、クリエイター、レコード会社スタッフ、コンサートプロモーター、音楽出版社、海外音楽賞審査員など、各分野の音楽関係者で構成される5000人以上の投票メンバーが厳正なる投票を行い、アワードを決定する。音楽を愛するすべての人を巻き込みながら、音楽に携わる人の総意で選ばれるアワードなのだ。
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Spotifyのプレイリスト「museum」では、すべてのエントリー作品が配信されており、その年を代表する楽曲が集められた壮大なプレイリストとなっている。 「matsuri ‘25」に登場した、YOASOBI、Ado、新しい学校のリーダーズの3組も、それぞれ楽曲やアルバムなどでエントリーされている。彼らが公演のため渡米する直前、「MAJ」のエントリー作品発表会が行われ、新しい学校のリーダーズが登壇した。アーティスト自身も投票できるという「MAJ」の投票制度について「自分たちに投票します!」と堂々と答え、会場の笑いを誘っていた。「中の人」も投票でき、フェアで透明性のある選考方法もまた、新世代アワードの形と言えるのかもしれない。
会場では、CEIPAと「MAJ」の紹介に続き、日本の音楽業界のグローバル化を目指すパネルディスカッションと交流会が行われた。パネルディスカッションでは、日本人アーティストが国際的に成功するための秘訣について熱い議論が交わされた。
ワッサーマン・ミュージックのEVPであるトム・ウィンディッシュ氏は、日本人アーティストの海外進出について、好調なチケット販売や、「COACHELLA(コーチェラ)」や「Head in the Clouds(ヘッドインザクラウド)」といったアメリカの人気フェスへの出演を高く評価する。日本のアーティストが、アメリカに進出するためには、ビザや予算の負担といった課題はあるものの、日本の自国からのサポートは他国に比べて手厚いこともポジティブに働いていると考察する。 ゴールデンボイスのVP、エレン・ルー氏は、日本のアーティストがアニメやゲームとのコラボレーションに積極的であることは、大きな強みになると語る。コロナ禍にオンラインで海外の映画やドラマ作品などのコンテンツを外国語のままで楽しむ人たちが増え、彼らは「海外の言葉を翻訳せずにそのまま聞くことに慣れているし、楽しんでいる」。言語を言い訳にできた時代は完全に終わっているのだろう。 またクリエイティブマン・プロダクションのディレクター、ロブ・ケルソー氏も、日本のトップアーティストたちは、すでに言語の壁を乗り越え、大きく進歩していると力強い言葉で続けた。 コロナ禍にネットコンテンツの楽しみ方は拡大し、日本の音楽の海外進出は大きく変化をとげた。プラットフォームが増え、ストリーミングで広がる成功論が確立し、ある意味「誰でも」「どこにいても」世界へ発信できる準備が整っている。
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交流会には、音楽関係者を中心としたエンタメ業界のリーダーが集まり、B’z 松本孝弘氏、そして参加作品がグラミー賞を受賞したチェロ奏者の松本エル氏の姿もあった。それぞれの分野で日本から飛び出してきた面々が、日本の音楽を世界に発信するこのプロジェクトに関心を寄せていることがうかがえる。 日本の音楽業界をリードする日本人と、アメリカに暮らす日本人、そしてアメリカのエンターテインメントやコンテンツビジネスにかかわるプロフェッショナル集団が、日本のアーティストの未来について議論し、交流する──新しく刺激的な時間だった。 文化的背景が異なる多様性の国アメリカで、大きな熱狂を生むことは決して簡単なことではない。また、J-POPというジャンルは、エンターテインメントの分野で一歩先を進んでいる感のあるK-POPほど、明確なジャンルとして確立しているとも言いづらい。たとえば日本で多くの人に聞かれている音楽の総称をJ-POPと定義しても、サザンオールスターズのファンとAdoのファンが異なる世界線にいることは明らかだ。 このような簡単ではない状況においても、「日本の音楽をグローバルに誇れるカルチャーにする」という同じ志を持った仲間たちが、つながりあって未来を目指すことができたら、きっと倍速で成功に近づけるに違いない。 「#アジア文化最前線」はYahoo!ニュースがユーザーと考えたい社会課題「ホットイシュー」の一つです。新たな才能が生み出すエンターテインメントや豊かな歴史に根ざした伝統芸能など、最新のトレンドや伝統の再発見をお届けします。日本を含むアジア文化への理解を深め、世界とのつながりを広げることを目指します。