「下手なのか」と相手に聞くのは難しい。でも“話してよかった”と言える日が来るかもしれない。レスからの再出発の道|4ページ目|OTONA SALONE
リキヤさんが感じたもうひとつの大きな変化は、友人とのコミュニケーションにも現れていました。以前は「性の話題は場が凍るから避けるもの」と感じていた彼が、ある日、友人たちとの飲み会で自ら率直に話を切り出せるようになったのです。
「同年代の男性の友人3人と居酒屋で飲んでいた時、『実は俺、性のことでかなり悩んでた時期があってさ……』と何気なく切り出したんです。そしたら周りも『え、マジ?俺も似たようなことあるよ』って驚くほど素直に反応してくれて」
最初は冗談まじりで話し始めたものの、いつの間にか会話は真剣なトーンになり、互いがどんなふうに悩んで、どんなふうに工夫してきたかを共有する場になったそうです。
「ひとりが打ち明けたことで、その場にいた全員が口を開けるようになりました。『正直、夫婦でどう話せばいいか分からなくて困ってる』、『自分が下手なんじゃないかと不安だ』というような、まさに僕と同じ悩みを抱えている人もいた。こんなに近くにいたんだって驚きました」
「みんな同じように悩みながら生きているんだ」
と、より安心できるようになったとリキヤさんは振り返ります。
「妻と安心して話せるようになったことで、自分の内側にあるプライドや見栄も少しずつ消えていったんだと思います。男性同士で悩みを話すのは恥ずかしいことじゃないと気づけたし、むしろ話すことでお互いが楽になると実感しましたね。もちろん行為そのものの話ではなく、あくまでも自分のメンタルの話であることは強調しておきますね(笑)」
こうしてリキヤさんは、自分の悩みを友人たちと共有することで、さらに自分自身への理解を深め、夫婦関係にも良い影響があったと話してくれました。
インタビューの最後にリキヤさんはこう振り返りました。
「自分ひとりでは抱えきれない問題でも、ふたりでなら必ず乗り越えられる。その気持ちを実感できただけでも、勇気を出して教室に参加した価値があったと思っています。僕たちはこれからもふたりで変わっていきます。大切なのは『うまくいく』かどうかではなく、『一緒に向き合える』ことなんだと、心から思えるようになりました」
取材を終えて
今回リキヤさんへの取材を通じて私が最も強く感じたのは、「パートナーを大切に思う気持ち」と「自分の弱さを認める勇気」が、いかに夫婦のコミュニケーションを深めるかということでした。
実は想像以上にプライドが邪魔をして、男性同士が性にまつわる悩みを口に出すことには心理的な壁があります。「男がリードすべき」「自分が下手かどうか分からない」「下手であることは恥」という根深い価値観が、誰にも相談できない孤独を生み出しています。しかし、リキヤさんが体現してくれたように、その壁を自分から一歩乗り越えることで、想像を超えた新たな世界が広がっていくのです。
私自身、男性にこうしたテーマでインタビューをするときには常に慎重になります。しかしリキヤさんの場合、取材が進むにつれて、彼の表情がどんどん柔らかくなり、自分の経験を誰かに役立ててほしいという前向きな気持ちが伝わってきました。
性の話題は、センシティブで扱いにくいものだと思われがちですが、リキヤさん夫妻が辿ったように、一歩踏み込んで素直に話し合うことで、夫婦間の関係性だけでなく、家族や友人関係までが自然と良い方向に広がっていくのだと気づかされました。
今回の取材をきっかけに、もしこの記事を読んでいるあなたが、似たような悩みを抱えているならば、「勇気を持ってパートナーに相談してみる」、あるいは「同じ悩みを持つ誰かと共有してみる」という小さな一歩を踏み出してほしいと思います。
リキヤさんが語ってくれた「うまくいくかではなく、一緒に向き合えるかどうかが大切」という言葉は、多くの人にとって大きな励ましになると私は信じています。
<<本記事の前編:「俺ってもしかして『下手』なのか?」夫婦生活に自信を失った夫が、ひとりで悩み続けてしまった理由とは編集部より:
「最近、妻との距離がどんどん開いている気がする」 「レス状態が続いていて、もうどうしていいかわからない」
そんな悩みを抱える男性の声を、私たちは取材し、記事にしています。
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オンライン教室は月に数回、配信で性に関するコミュニケーションをテーマに専門家が講義をするというものでした。具体的なテクニックはもちろん、パートナーとの心理的な安心感やコミュニケーションに重点を置いていたことが印象的だったそうです。
「実は僕は、『技術やテクニック』を学ばなければとばかり考えていましたが、教室の先生は『技術よりも大切なのは安心感とコミュニケーション』と何度も強調していました。その言葉に、かなり救われた気がします」
オンライン教室に参加する時間が定期的にあることで、「しっかりと課題に取り組んでいる」という実感も強くなり、リキヤさんは「自分ひとりの責任」という重圧からも徐々に解放されていきました。
「なによりもよかったのは、講座を受けたあとに妻と姓について自然と会話が生まれることでした。『あの話、私たちに当てはまるよね』『こういう考え方があったんだね』と感想を話し合うだけで、お互いの理解が深まっていきました」
そうした学びの中でリキヤさんが得た最大の気づきは、「夜の営みとは、自分が一方的に努力するものではなく、ふたりが一緒に作り上げていくものだ」という、考え方の基準だったと言います。
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