〈目撃〉ホホジロザメが下から一撃、釣り人の魚が一瞬で消えた 「食害」が米国で日常に

ホホジロザメの幼魚が釣り針にかかった魚を奪う様子を水中で捉えた。(BRIAN SKERRY)(BRIAN SKERRY)

 米マサチューセッツ州ケープコッドの沖に船を出す漁師たちは、釣り上げる魚に異変が起きていると話す。海から引き上げた魚の体が食いちぎられていることがあるのだ。頭しか残っていないケースもあった。

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 チャーター船の船長ハプ・ファレル氏は45年にわたり、マサチューセッツ州オーリンズのロックハーバーを拠点とした釣りツアーを続けてきた。食いちぎられた魚に初めて遭遇したのは8年くらい前だったが、この3年ほどは日常的に起こるようになったという。それが意味するところは一つ。サメが戻ってきたのだ。「魚を襲うサメがどんどん増えています。海中から頭だけが上がってくるのですが、サメたちはさらに、残っている魚を追ってボートから1.2〜1.5メートルまで近づいてきます」とファレル氏は言う。 針にかかっている魚や、引き上げている最中の魚を、サメが横取りしたり傷つけたりする行動は「食害」(デプレデーション)と呼ばれる。ファレル氏はこの夏だけで、少なくとも50回の食害があったと聞いている。氏自らも、サメの幼魚が魚の真下から勢いよく急上昇して、海面から飛び出すのを目撃している。 北大西洋のホホジロザメは、かつて大幅に減ったが、この20年で特にケープコッド周辺の海域を中心に数が回復している。ホホジロザメの目当ては、急増しているハイイロアザラシだ。 ハイイロアザラシは、以前は狩猟の対象だったが、1972年に制定された海洋哺乳類保護法で守られるようになった。2017年の研究では、ケープコッド周辺には3万頭から5万頭のハイイロアザラシが生息すると推定されている。 サメも人間と同じように、5月から10月までケープコッド周辺の沿岸域に滞在する。人間を襲う可能性はまだ低いが(この海域でサメによる死亡事故が最後に起こったのは2018年で、マサチューセッツ州では82年ぶりの死亡事故だった)、ホホジロザメは今では、これまでになく簡単に見つかるようになった。 食害が目撃されるのは海面の上からが一般的だ。そこでナショナル ジオグラフィックのエクスプローラー(探求者)である写真家のブライアン・スケリー氏は、地元の釣り船の船長たちの協力をあおいで、サメが魚を横取りする瞬間の水中撮影に挑んだ。マサチューセッツ州出身で、海中撮影の潜水時間が1万時間を超えているスケリー氏は、この夏の数日間、ホホジロザメが海中で魚に食いつく様子の撮影を試みた。 6月29日、スケリー氏はとうとう目当てのシーンを撮影した。動画には、濁った水中でホホジロザメのメスの幼魚が突然現れて、下から急上昇するとわずかに向きを変え、「まるでパンをつかむように」魚を横からひったくる様子がおさめられている。「本当にあっという間でした。1秒もないくらいです。サメが飛び出してきたら、それで終わりでした」 ホホジロザメ研究の第一人者で、この動画を確認したグレゴリー・スコマル氏も、サメが魚を横取りする様子を海中で撮影した動画を見るのは初めてだった。 この貴重な動画を撮影するため、スケリー氏は地元の漁師らと密接に連絡を取り合って、食害がいつ、どこで起こっているかの情報をリアルタイムで受け取っていた。「目的は、ここケープコッドとメーン湾では、獲物を捕食する大型サメ、特にホホジロザメの健全な個体群があり、回復しつつあると人々に知らせることでした」とスケリー氏は説明する。「海水浴客にとっては心配の種ですが、海にとってはよい話です。地球全体にもよいことです」 サメは海の設計者だ。サメが十分な数を保っていることは、海洋生態系が健全であるサインだと言える。頂点捕食者であるサメは、獲物となる動物の数の調整や、栄養分の輸送から、弱い個体や病気の個体を狙うことによる病気の抑制まで、さまざまな役割を果たす。 ケープコッドのサメは新参者に思えるかもしれないが、かつてこの海域に豊富に生息していた。4月に発表された研究は、サメによる食害は1世紀以上にわたって、米国の大西洋沿岸で釣り人や漁師に影響を与えてきたと報告している。 作家のアーネスト・ヘミングウェイも1930年代に、はるか南のバハマ諸島で起こったサメによる食害の初期の事例について書いている。20世紀初期を通じて、サメはひどく嫌われていて、北大西洋で漁の対象になっていた。 そうした考え方は少しずつ変化した。1997年には米国海洋大気局(NOAA)海洋漁業局が大部分の連邦水域でホホジロザメの捕獲と保持を禁止し、マサチューセッツ州でも2005年に禁止された。それ以来、北大西洋西部のホホジロザメは着実に増えてきており、特にマサチューセッツ州周辺の海域では回復が顕著だ。 サメの保護活動家は、人間とサメの新たな衝突を引き起こしかねないとして、食害を懸念している。食害が地元産業に与える影響についての公式の統計データはない。しかし漁師たちの間には、サメによる食害が漁獲物の喪失や漁具類の破損、釣り船の客離れを招き、商業漁業や遊漁に経済的損失が出るのではないかという不安がある。「東部沿岸の漁師は誰もがそれについて不安を訴えています」と、マサチューセッツ州海洋漁業局の上級漁業研究員でもあるスコマル氏は言う。さらに、多くの漁師はサメを自分たちの生活を脅かす存在と見ていると説明する。「彼らはサメが悪いと言っていますし、サメの数の回復は問題だとしています」 こうした懸念に対処するために、2026年9月に署名された大統領令は、サメとアザラシなどによる食害に対応する省庁横断のタスクフォースの設置と、食害をリアルタイムで報告する仕組みづくりを指示している。これは、サメの食害の調査と抑制を目指して7月に設置された、NOAAの戦略委員会に追加する対応だ。 NOAAはメキシコ湾の「食害のリスクが高い海域」のサメに音響発信タグを取り付けて、その動きを1年間追跡し、特定地点での食害回数のモニタリングや、電磁気などを利用したサメよけ装置の検証などを計画している。 こうした食害を減らす取り組みは、それ自体が難しさを伴う。「基本的には、人間への襲撃を減らすのと同じことなので、かなり難しい作業になるでしょう。特効薬的な方法はありません」とスコマル氏は言う。 ただし、戦略委員会を設置するのはいい方法だと同氏は考えている。いくつかの州機関や民間研究機関、大学で働く科学者の専門知識を集約できるだけでなく、釣り船の船長たちに、自分たちの懸念の声がきちんと届いていると感じてもらえるからだ。 解決策が見つかるまでは、人間とサメは同じ海で魚を捕り続けることになる。2023年の調査では、2015年から2018年までの期間に、ケープコッド沖合の海域には約800匹のホホジロザメがやって来たと推定された。この結果は、ケープコッド沖が世界最大級のホホジロザメのホットスポットであることを示している。 ケープコッドの漁師たちは、漁の対象である魚を捕食するホホジロザメは、体長が3メートル未満の幼魚が中心だとしている。ハイイロアザラシのおとなのオスは体長が最大で約3メートル、体重は360キログラム以上になる。若くて小さいホホジロザメには、そんなアザラシを狩る経験も十分な体の大きさもない。 釣り針にかかったストライプトバス(シマスズキ)なら簡単に捕まえられそうだが、ホホジロザメの幼魚はアザラシを狩るのと同じように待ち伏せをする。やはりロックハーバーを拠点とする釣り船の船長で、子どもの頃からケープコッドの沖で釣りをしてきたダグ・ブラウン氏は「サメは横か真下から来て、魚に食いつき、回転してから、尾をこちらにさっと返します」と語る。 ブラウン氏は、ホホジロザメが狩りをするときに水中からジャンプするのを見たことがあるという。「そしてそうするときには、すっかり空中に飛び出すことが多いです。体全体が海から出ると、身を翻します」。ブラウン氏自身は今年の夏、食害を15回ほど経験している。 最近では、一部の種のサメが、エンジン音や規定サイズ以下の魚の投棄といった漁業活動を、楽に餌にありつける機会と結びつけている可能性を示す証拠が見つかっている。「サメは習慣性の強い生物なので、魚の捕獲をエンジン音などと結びつけられる海域でうまく餌にありつけば、まるで訓練された犬のようになります」とスコマル氏は言う。「そうした機会が何度も得られる海域に自分でやって来るようになるのです」 ブラウン氏はそうした海域で、その行動を直接目にしてきた。「とても狙いやすいんですよ。サメたちは私たちのディーゼルエンジンの音を聞けば、すぐに気づきます。ディナーの準備ができたとベルを鳴らすようなものです」 ファレル氏とブラウン氏によれば、ケープコッドの釣り船の船長たちは、今では1年のうち5カ月間はホホジロザメが日常生活の一部になることをおおむね受け入れているようだという。それでも不満はある。「みんなが腹を立てているのは、釣り道具をたくさん失っているからです。サメは魚がかかっていないルアーや金属製の仕掛けまで攻撃します。特にルアーによく食いつく傾向があります」とブラウン氏は説明する。ブラウン氏は釣りに出かけるたびに、イカに似せたプラスチック製のルアーを買い足さなくてはならなくなった。 サメと日常的に遭遇するようになったことで、商才に長けた地元の人の間では、サメの目撃情報を活用して、活況を呈するホホジロザメのエコツーリズムを後押ししようという動きも出ている。すでにいくつかの会社が、頂点捕食者であるサメを間近で見るための専用チャーター船を運航している。 ファレル氏の釣り船の客にとっては、シマスズキをホホジロザメに奪われるのはぞくぞくする体験だ。釣りの最中にサメを見られるかと、ファレル氏にしきりと聞いてくる釣り客も多い。そして実際に目にしたときの様子を、ファレル氏はこう語る。

「みんなとても興奮しますよ。釣りのいい思い出になりますから。サメを目撃するなんて地球上で最高の体験だと思っているんです。みなさんすごく喜びます」

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