スイス、防空システムの情報提供をドイツ、フランス、イスラエル、韓国に要請

米国はスイスに2026年2月「パトリオットシステムの納入が4年~5年遅れる」と通知したが、さらに4月「迎撃ミサイルの納入にも遅延が生じている」と通知して納入遅延は最低8年に悪化。スイス連邦国防調達庁はドイツ、フランス、イスラエル、韓国に防空システムの情報提供を要請した。

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スイスは2021年6月末「次期戦闘機にF-35A、防空システムにパトリオットシステムを選定した」と同時に発表し、この次期戦闘機調達と防空システム調達は別々の評価プロセスを経て選定されたものだが、防空近代化プログラム=Air2030の中では一つのパッケージとして扱われているため「F-35Aとパトリオットシステムの組み合わせが選定された」「この2つの選定は実質的にセットだ」と言われており、スイスはロッキード・マーティンと約63億ドル、レイセオンと約20億ドルの契約を締結し、両社は計43億ドル分のオフセットが義務付けられた。

出典:U.S. Air Force photo by Staff Sgt. Zachary Rufus

スイスはF-35Aを次期戦闘機に選定した理由について「技術的優位性が顕著な上、固定価格で調達するため取得費用はプログラムコストの上限(60億フラン)を超えることはない。さらに30年間の運用費用を含めた総コストで見てもF-35Aは他の提案よりも20億フランも安い」と説明していたが、会計検査院は当時から「固定価格という認識は契約条項4.4.1(実際の価格が本契約の記載された見積もり額を超える場合でも支払いに応じることに同意する)を軽視している」と警告。

会計検査院が指摘した通り、フィスター国防相も2025年6月「米国が固定価格について誤解があると主張し、スイスに6.5億フラン~13億フランの追加費用を要求している」と明かし、実際には「米国がロッキード・マーティンに支払う価格と『同じ価格』でF-35Aを取得できる」という意味で、スイスは米国と交渉したものの契約条項4.4.1に基づく追加費用の請求は覆らず、プログラムコストの上限=60億フランで購入可能な範囲に調達数を削減した。

出典:Lockheed Martin

さらにスイスが発注したパトリオットシステムも問題を抱えており、バイデン政権は2024年6月「ウクライナ向けの需要を優先するためパトリオットシステムと迎撃ミサイルの納品停止=納入順位を変更をする」と、トランプ政権も2025年7月「スイスが発注していたパトリオットシステムの納入を延期し、これをウクライナもしくはウクライナを支援している国に優先供給する」と発表し、スイスは有償軍事援助(FMS)契約の権利(自国の安全保障に影響を及ぼす事情があれば合意された武器取引の条件から逸脱することができる)を行使されたため、この決定を受け入れる以外に選択肢がなかった。

ただし、米国は納入順位の変更に伴う通知義務や条件変更に関する説明を怠り、スイス側にパトリオットシステムの納入遅延を通知したのは2026年2月で、スイス連邦国防・国民保護・スポーツ省(DDPS)は「2026年の納入開始は4年~5年ほど遅れる」「この納入遅延によって取得コストが大幅に上昇する可能性(最大50%)がある」と明かし、納入が遅延してもパトリオットシステム取得を維持するものの「納入遅延の影響を軽減し、より広範囲な地域を保護できるようにするため追加システムの調達検討を指示した」「この第2のシステムは欧州で生産されたものであることが望ましい」と発表。

出典:News Service Bund Das Portal der Schweizer Regierung

スイスはパトリオットシステムの納入遅延に伴い取得費用の支払い先送り=事実上の支払い停止措置を講じたが、米国はスイスがF-35A取得のため支払った資金をパトリオットシステム取得の支払いのため勝手に流用し、さらに米国が対イラン作戦で弾薬を大量に消耗したため「契約済みの米国製兵器納入が大幅に遅れる可能性がある」と欧州諸国に通告。

スイス連邦国防調達庁は「米国からパトリオットシステムの迎撃ミサイル=PAC-2 GEM-Tに納入遅延が生じていると通知を受けた」と明かし、スイス軍関係者も「パトリオットシステムは早くても2034年までに到着しない」と予想しており、納入遅延は4年~5年ではなく「最低8年」に悪化した格好で、スイスメディアのAargauer Zeitungは2日「スイス連邦国防調達庁が追加の防空システム調達を検討するため4ヶ国(ドイツ、フランス、イスラエル、韓国)に情報提供を要請した。この調達で重視されるのは納期、コスト、性能はもちろん、欧州での生産もしくはスイスにおける共同生産だ」と報じた。

出典:Hanwha Aerospace

スイス連邦国防調達庁は情報提供を要請した企業名を明かさなかったものの、Aargauer Zeitungは「SAMP/Tを製造するユーロサム、2029年にIRIS-T SLXの製造開始を予定しているディール・ディフェンス、ダビデ・スリングを製造するラファエル、L-SAMを製造するハンファ・エアロスペース、さらにイスラエル航空宇宙産業が製造するアロー2にも情報提供を要請した可能性が高い」と述べ、最も有力なのはSAMP/Tで、ダビデ・スリングについて「実戦で徹底的にテストされた能力が実証されているが、ラファエルとレイセオンの共同開発なので米国依存の問題とイスラエル製という点で政治的論争を引き起こすかもしれない」と指摘。

L-SAMについて「最大射程は150km、迎撃高度は最大60kmという驚異的な性能を誇るものの実戦での使用実績が乏しい」「ただし、韓国は既に欧州域内で製造拠点を築いており、ポーランドが導入した複数の兵器システムで現地生産能力の構築を支援している」と指摘したが、IRIS-T SLXやアロー2については特に言及しておらず、理想的にはSAMP/T、条件次第でダビデ・スリングやL-SAMの調達にも可能性があるといったところかもしれない。

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※アイキャッチ画像の出典:Eurosam

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