話題の1人乗り「mibot」に1000台以上の予約 ユーチューバーがゼロから開発した超小型EV 2025秋の量産に向け新工場へ移転【広島発】
もとは車づくり素人のユーチューバー。「車が大きすぎる」という発想から1人乗り用の超小型電気自動車(EV)の開発を進め、その予約台数は1000台を超えた。夢が現実となり始めた今、量産化への挑戦を追った。
狭い坂道もスイスイ~
幅が狭い坂道をものともせず、スイスイと下っていく車。広島・東広島市のスタートアップ企業「KGモーターズ」が開発を進める1人乗り用の超小型EV「mibot(ミボット)」なら、軽自動車の走行が難しい場所もヘッチャラだ。
“開発の原点”は細い坂道が多い呉市両城地区 この記事の画像(16枚)2024年秋、“開発の原点”である呉市両城地区を走破した。KGモーターズの楠一成社長は呉市出身。「細い道をおばちゃんが車のミラーをたたんでタイヤを半分を落としながら走っているのを見て、もう明らかに車が大きすぎると漠然と考えるようになった」という。
開発のきっかけとなった場所で性能を証明し、「スムーズに走れた印象はあります。呉という特殊な場所ですが、調べてみると全国にもこういう細い道や坂道の町はたくさんある。それに、車がないと生活できないような地域の人がたくさんいて…。その方々のためにいち早く確実なものを届けられるように頑張っていきたい」と思いを新たにした。
これまで開発の様子を“ありのまま”YouTubeに発信KGモーターズは2021年のプロジェクト発足以降、楠社長をはじめ素人同然だった初期メンバーが開発の様子を“ありのまま”動画投稿サイトYouTubeに発信してきた。プロセスを透明化して多くのファンを作り、今では40社以上の企業とプロフェッショナルが協力。まさにゼロから駆け上がってきた「時代の申し子」的な存在だ。車検と車庫証明がいらない原付ミニカー規格の「ミボット」は、1台100万円(税込)で2024年8月に一般販売予約をスタート。すでにネット上から1000台以上の予約申込を受けている。
10倍規模の「新工場」で量産準備
2025年秋を目標に掲げる量産開始に向け、過去最大のプロジェクトが待っていた。
家具を製造していた東広島市内の工場を改造本社工場の移転だ。もともと家具を製造していた東広島市内の工場を借り受け、建物の規模はこれまでの10倍以上になった。広島県の内外から技術者が集まって量産に必要な機械の配置などを考えていく。
「一番向こうの端から組み立てラインがスタートして、ここらへんで完成というイメージ。全くの素人で勉強している段階なので、毎日かなり胃が痛いんですけど、楽しみながらやっています」と笑うのは、KGモーターズ・松井康真さん。
2024年12月、白と黒に塗り替えられた新工場と大きな「KG」の二文字を見上げて、楠社長は「今の状態では大きすぎるんですけど、生産していくとなるとすぐに手狭になるかなと思います。既存の建物を改造させてもらってちょっとKGっぽくなったかなという感じですかね」と話す。
試作車の設計・製造は遠隔でやり取り
工場内には新たな車体フレームが運び込まれていた。今後の量産を見据え、進化した試作車である。
量産を見据えて新たな車体を開発フレームのデザイン自体はこれまでと変わらないように見えるが、量産体制に近づけるために問題点の修正を重ねた「技術の結晶」だという。
ガランとした新工場で試作車に挑む松井さん製造責任者の松井さんも自動車整備士の資格を持っているが車づくりの経験はなかった。まだガランとした新工場で、情報共有ツールを駆使し3Dの立体的な図面を見ながら溶接などの作業を進める。そのかたわら、広い新居に引っ越してきたマスコット犬のボスが小さなあくびをした。
松井さんは「設計者がここにいるわけじゃないんで。いないからこそ誰が作業をしているかわかるように共有しながら」と言い、パソコンの画面を見つめる。静岡・浜松市の設計担当者が遠隔で指示を出し、送られてくる3D図面を基にミリ単位の調整まで緻密な作業が可能だという。培ったノウハウの「見える化」が量産を実現させる大きな一歩になる。
資金調達に奔走する仲間たち
製造部門以外のメンバーは資金調達と協力企業探しに奔走していた。
KGモーターズ・奥野慎一郎さんは広島市中区で開かれた展示会に出展。車で移動する人の約7割が使用距離10キロ未満の「1人乗り、チョイ乗り」の傾向が高いことが国土交通省の調査で示されたことを前提に「日本の実態として7割が1人で移動をしています。軽自動車が移動の最小単位になっていますが、短距離の移動にフォーカスしたときにどうしてもコストが高くなるので…」と説明した。
また、広島市内の商談イベントではKGモーターズ・横山文洋さんがさらなる投資を呼びかけた。調達できている資金は累計で6億3000万円。 「試作車の製造に資金を使っているのでまだ残っているんですけど、次の投資が量産なんですよ。かかる費用の桁が変わってくる」 講演が終わると多くの人が横山さんの周りに集まってきた。参加者は「非常に期待をして、拝見しています」と投資に前向きな姿勢。次々と名刺を交換し、1人1人の声に耳を傾け、横山さんは改めて超小型EVの市場開拓に自信を深める。
「みんな自分事として考えてくれていますね。ユーザーとして興味を持ってもらえる声が実は多かったりします」