火星人が見つからないなら、おびき寄せればいいじゃない
微生物が特定の物質に引き寄せられる性質を利用。
地球発のロケットが火星に初めて到達したのは1970年代でしたが、それ以来何回ロケットを飛ばしてもローバーで探し回っても、火星上で生命体は見つかっていません。だから多分火星には何もいないのかもしれませんが、探し方が違うのかも?というわけで、生命体の新たな検知方法が研究されています。そして今、従来とは違う斬新なアイデアが出てきました。
「走化性」を利用した生命体検知手法
学術誌「Frontiers in Astronomy and Space Sciences」に掲載された論文で、微生物がL-セリンというアミノ酸に引き寄せられる性質を利用した生命体検知手法が提案されています。有機体がある種の化学物質に反応して移動する現象は「走化性」としてよく知られているのですが、これが火星など地球外での微細な生命体探索に役立つかもしれません。
初期の地球と火星が大量の炭素質小惑星を浴びせられていたことを考慮すれば、L-セリンが火星に存在する可能性は高い。
と論文にはあります。先行研究では、L-セリンがある種の生命体で走化性を引き起こすことが示されていました。
ということは、「もし火星で生命体が進化し、その生命体が地球上の既知の生命体に近い生理化学的性質を持っているとしたら、L-セリンは火星の微生物にとっても化学誘引物質でありうる」となるわけです。
ただ、火星は地球と違い極寒で酸素も薄いなど、生命体にとっては過酷な環境であるはず。そこで研究チームは、そんな環境でも生き延びることができる「好極限性細菌」というタイプの細菌を「想定上の火星微生物」として実験を行ないました。使われたのは枯草菌とPseudoalteromonas haloplanktisという菌、それから古細菌のひとつである高度好塩菌です。
細菌と古細菌は地球上の生命の最古の形態ですが、それらのふるまいは異なり、運動性システムもそれぞれ別々に進化させてきました。
細菌と古細菌の両方で実験を行なうことで、我々は生命検知手法を、宇宙ミッション向けに信頼性を高めることができます。
ベルリン工科大学の航空宇宙技術者で上の論文の共著者であるMax Riekeles氏はFrontiersのプレスリリースで言っています。
火星の土で微生物の存在を確認する流れ。(Image: 2025 Riekeles, Bruder, Adams, Santos and Schulze-Makuch CC BY 4.0)宇宙ではシンプルさが重要
この手法がこれから宇宙ミッションで使われるために重要なのが、シンプルさです。この実験の道具立ては、マイクロスライドというガラスの容器を、運動性のある微生物だけが通り抜けられる特殊な膜でふたつのパートに分けたものだけです。実験では片方のパートに微生物を入れ、もうひとつのほうにL-セリンを入れて、反応を待ちました。
「微生物が生きていて動ける状態なら、膜を通ってL-セリンに向かって泳いでいきます」とRiekeles氏は説明します。そしてたしかに、実験ではその反応が確認できたのです。つまり、もし火星の土に微生物がいるなら、この実験をしたときにL-セリンに引き付けられ、その存在を確認できるはずです。論文によれば、それは今までどんな高度な顕微鏡を使っても実現できていません。
「この手法は簡単で手頃にでき、結果の分析に強力なコンピューターも要りません」彼は付け加えました。
ただ、この手法を実際に宇宙で試すとしたら、器具をもっと小さく頑丈にしたり、自動化システムを使ったりする必要があるでしょう。それでもこの研究が、より手頃でシンプルに地球外生命体の探査ができる可能性を示したことは間違いありません。