妊婦への梅毒スクリーニング、便益を再確認
近年、日本や米国をはじめとする先進国において梅毒の報告数が増加している。母親から胎児への垂直感染(先天梅毒)例では無症候性のケースが少なくないが、妊娠中の検査と早期治療により予防が可能である。米・University of North Carolina at Chapel HillのGary N. Asher氏らは、妊婦への梅毒スクリーニングに関する米国予防医学専門委員会(USPSTF)のレコメンデーションを更新する目的で、最新のエビデンスについてシステマチックレビューを実施。既報と同様、妊娠中のスクリーニングと治療により先天梅毒および母体合併症の低減に関する便益が得られ、害は極めてまれか限定的であったと、JAMA(2025; 333: 2015-2017)に報告した。(関連記事「梅毒流行の深層は?性風俗産業、トー横から」「大幅増!梅毒感染妊婦に対する治療法を周知」)
2021年には2,000件超の先天梅毒が報告
USPSTFの2018年版レコメンデーションでは、①現状のスクリーニングシステムは妊婦の梅毒感染を高精度に検出可能である、②抗菌薬による治療は、先天梅毒の予防および不良な妊娠転帰の減少に有効で有害性は少ない、③全体として健康上の多大な便益をもたらすと考えられる-ことから、「全ての妊娠中の女性に対し、梅毒の早期スクリーニングを推奨する」としている(JAMA 2018; 320: 911-917)。
しかし米国では梅毒が増え続けており、2018~22年には80%増加したとの報告もある。先天梅毒の増加は特に深刻で、2021年には1994年以来最高の2,000件超を記録。米疾病対策センター(CDC)は先天梅毒の約90%は適切なスクリーニングと治療により予防できたと推定し、受診を勧奨している(関連記事「先天梅毒急増、今こそ迅速検査の普及を!」)。
Asher氏らは今回、USPSTFのエビデンスレビューにおいて、取り上げるKey Questions(KQ)を視覚的に表示する分析フレームワーク(図)を用い、3項目のKQについて2018年版レコメンデーションの推奨を更新する目的でシステマチックレビューを実施した。
図. 分析フレームワークとKQ
(JAMA 2025; 333: 2015-2017)
Cochrane Library、Ovid MEDLINE、臨床試験登録簿に2017年1月1日~23年7月25日に収載された文献から、無症状の若年および成人女性を対象に妊娠中の梅毒スクリーニングの有効性と安全性を検討した研究を検索した。スクリーニング法については、米食品医薬品局(FDA)が承認した検査を用いた異なる2段階血清学スクリーニングアルゴリズムの比較、または単一検査と2段階アルゴリズムを比較する研究が含まれた。スクリーニングの便益としては、先天梅毒の減少、新生児または母親の合併症や死亡率の低減などが検討されていた。スクリーニングの有害事象では、偽陽性または偽陰性の結果および心理社会的有害事象を評価。治療はペニシリンを使用した研究に限定し、治療の有害事象にはアレルギー反応、早産、ヤーリッシュ・ヘルクスハイマー反応、胎児の有害事象、その他の母体の有害事象が含まれた。
スクリーニングの有害事象:研究5件・5万1,118例で検証
KQ1について、スクリーニングの有効性に関する新たな研究はなかった。KQ2については、スクリーニングの有害事象に関する研究5件・5万1,118例を抽出。エビデンスを検証した。
その結果、スクリーニングによる梅毒の陽性率は1.0~4.8%、偽陽性の推定値は0~65%と、検査の種類やアルゴリズムにより異なっていた。標準的な2段階スクリーニング〔非トレポネーマ検査の梅毒血清反応(RPR)法→梅毒トレポネーマ(TP)抗原法〕を評価した質の高い前向き研究1件では、初期のRPR法は偽陽性率が31%(11/35例)と報告されていた。
逆順の2段階スクリーニングアルゴリズム(TP抗原法→RPR法)を用いた研究5件では、偽陽性率に大幅なばらつきが見られた(7~65%)。うち3件はエビデンスの質が中等度の前向き研究で、2件(中等度1件、良好1件)は後ろ向き研究だった。TP抗原法と標準的でない複合2段階スクリーニングアルゴリズムを比較した研究1件では、偽陽性(0/15例)と偽陰性(0/301例)の報告がなかった。
治療の有害事象:研究2件・130例で検証
KQ3については、治療の有害事象に関する研究2件・130例を抽出し検証した結果、エビデンスの質が中等度の研究1件(39例)では、対象の5.1%にヤーリッシュ・ヘルクスハイマー反応が報告され、質が高い研究1件(91例)では、標準的なペニシリン誘発試験または脱感作プロトコルに対する有害反応が2.5%に認められた。
反復スクリーニングの有効性については、後ろ向きコホート研究3件と全国登録データ1件で検証した。全米サンプルでは、先天梅毒の約5%が当初の梅毒スクリーニングで陰性だった妊娠において発生していた。コホート研究3件中2件は、第3トリメスターでの再スクリーニングと適切な治療により、先天梅毒の約半数が予防可能であると結論。一方、残る1件では、約4分の1の症例が予防可能であると推定していた。
以上を踏まえ、Asher氏らは「最新のレビューにおいても、妊娠中の梅毒のスクリーニングおよび早期治療により、母体と新生児の有害転帰を減少させる便益が認められた。また、より精度が高いスクリーニング結果を得るには、2段階の血清学検査が必要であることも示された」と結論している。
(編集部・関根雄人)