体育館に1人いたらうつる…極めて強い感染力「はしか」都市部中心に急増、全国で116人

はしかの予防にはワクチン接種が効果的だ=12日、京都府宇治市の宇治徳洲会病院(塚脇亮太撮影)

感染力が極めて強いはしか(麻疹)の患者が増加している。今月11日までに報告された今年の感染者数は全国で116人に上り、昨年1年間の45人を上回った。新型コロナウイルス禍の収束に伴い海外でも流行しており、国内では海外渡航者の症例が増えている。開幕から1カ月を過ぎた大阪・関西万博など国内外の旅行者らが多く集まる場所では特に警戒が必要だ。国立健康危機管理研究機構(JIHS)は感染リスクの拡大に注意を呼び掛けている。

空気感染…死亡に至ることも

「麻疹がはやり始めているので、子供にはワクチンを早めに打たせたいと思っていました」。5月中旬、京都府宇治市の宇治徳洲会病院で5歳の娘の麻疹・風疹混合ワクチン(MRワクチン)の定期接種に訪れた母親(47)は、無事に注射を済ませられたことに安堵(あんど)しつつも「特効薬がなく、大人でもかかると聞いて怖い」と話した。

麻疹は39度以上の高熱や全身の発疹が特徴。せきなどの飛沫(ひまつ)や接触による感染だけでなく空気感染もすることから感染力が非常に強い。肺炎や中耳炎のほか、まれに脳炎などを引き起こし重篤な状態や死亡に至ることもある。特別な治療法はなく対症療法が中心となるため、予防には乳幼児期のワクチンの定期接種が重要とされている。

若年層に集中する感染

日本は2015(平成27)年、世界保健機関(WHO)にはしかの排除達成認定を受けた。ただ、その後も海外の流行地域への旅行者らの感染が確認され、令和元年の感染者数は744人に上った。新型コロナ禍の2~4年は年間6~10人と大きく減少したものの、コロナ対策の緩和に伴って5年は28人、6年は45人と増加傾向にある。

今年に入って確認された感染者のうち、約半数の55人が海外で感染したと推定され、国・地域別ではベトナム44人▽タイ3人▽フィリピン2人-など。年齢別では20代が34%を占め、0~19歳が同じく34%となるなど、若年層の感染が顕著だ。

人の動きが活発化、リスク増

宇治徳洲会病院内では昨年、ベトナム国籍の成人女性が高熱や発疹などの症状を訴えて入院し、その後、はしかと診断された。同病院の篠塚淳医師は、人々の動きが活発化する夏にかけて「どこで感染が広がってもおかしくない状況だ」と警鐘を鳴らす。

都道府県別の感染者数では茨城(20人)に続き、大阪と東京(各13人)、兵庫(10人)など都市部での報告が目立っている。

JIHSは4月に公開した感染症の動向調査リポートで、増加傾向が明らかなはしかを注目すべき感染症と言及。万博について「感染症の発生リスクが増加することが予想される」と指摘する。空気感染するはしかは、手指消毒やマスクのみでは予防することができないため、予防接種歴を確認するよう求めている。

マスク予防は困難、2回の予防接種が重要

大阪健康安全基盤研究所、本村和嗣・公衆衛生部長の話

はしか(麻疹)の感染力は極めて強い。閉め切った体育館に1人でも感染者がいたらワクチン未接種者は感染の恐れがあるほどだ。有効な治療法はなく、患者1千人に1人の割合で死亡者が出るほか、同様の割合で重症者も出る。回復しても、5~10年が経過すると、まれに脳炎を発症するケースがあり、危険な感染症だ。

国内では現在、感染者の報告が100人を超えており、新型コロナウイルス禍が始まった令和2年以降では最多となっている。はしかが流行しているベトナムなど東南アジアからの帰国者や、帰国者と接触があった人の感染例が目立つ。

懸念されるのは、感染源不明の報告数が増えることだ。感染力が強いはしかはマスクでも予防が困難なので、2回の予防接種が最も重要だが、国内では数%の未接種者がいる。接種済みか不明の人は母子手帳で調べてみてほしい。

国内では外国人観光客が過去最多ペースで増えており、感染が広がるケースも懸念される。感染動向に注意し、感染が疑われる場合は、まず医療機関に電話で症状を伝えた上で指示を仰いでほしい。

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