日印首脳、投資拡大などで経済協力推進に意欲-経済フォーラム

石破茂首相は29日、官邸でインドのモディ首相と会談した。その後の共同記者発表で総額10兆円の目標を設定して日本企業による同国への投資を促す方針を明らかにした。

  記者発表で石破首相は今後10年の協力について意見交換したことを明らかにした。その上で、「インドの広大な市場は潜在力にあふれ、その活力を取り込むことは日本経済の成長につながる」と述べ、対印民間投資を後押しする考えを強調した。インドの高速鉄道事業の実現に協力継続で一致したことも明らかにした。

  モディ首相は向こう5年で50万人の交流を促進するとし、インドから5万人の技能者が日本経済に貢献すると語った。両国は自由で開かれた平和でルールに基づくインド太平洋の実現に全面的にコミットしているとも発言。防衛産業面でも協力を強化する考えを示した。

  2024年のインドの国内総生産(GDP)は約3兆9127億ドルと、日本(4兆262億ドル)に次いで世界第5位。GDP成長率は6.5%と高く、高度人材の受け入れ拡大も含め、連携強化が日本経済の支えとなり得る。トランプ米政権から高い関税率を課されるインドにとっても、日本からの投資受け入れが経済のてこ入れにつながる。

  24年度の日本の対インド直接投資実行額は約9608億円だった。インドの高速鉄道に関しては、JR東日本が開発中の東北新幹線の新型車両「E10系」を採用する方向で両首脳が確認する見通しと朝日新聞が報じていた。

  両首脳はこのほか、防衛産業や経済安全保障などの分野で協力を進める方針でも一致。17年ぶりに安全保障協力に関する共同宣言を改定した。重要物資の供給網強靱(きょうじん)化に向けては、日印経済安全保障協力イニシアティブを立ち上げる。

  モディ氏の首相としての訪日は8回目。石破首相との会談は24年10月の東南アジア諸国連合(ASEAN)関連首脳会談の際以来、2回目となる。

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経済フォーラム

  首脳会談に先立ち、両氏は経団連や日本貿易振興機構(ジェトロ)などが都内で開いた日印経済フォーラムに出席した。モディ首相は日本はテック大国、インドは人材大国だと指摘。日本の優れた技術とインドの規模で完璧なパートナーシップを構築可能で、新世紀のテック革命を主導できると同時通訳を介して語った。

  石破首相もインドについて「法の支配など普遍的価値観を共有する戦略的パートナー」との認識を示した上で、トヨタ自動車スズキが新たな大規模投資を進めるなど両国間の強じんなサプライチェーンの構築が進んでいると述べた。

民間協力

  フォーラムでは、日本貿易振興機構(ジェトロ)の石黒憲彦理事長が日印民間企業間の覚書(MOU)で150件以上の協力関係が形成されたと報告した。インドに進出する日本企業の80%以上が投資拡大を志向しているとも述べた。

  石破首相は民間協力文書が結ばれたことについて「日本がインドに一層投資をし、連携を強化していく決意の表れだ」と指摘した。

  自動車分野では、スズキが北西部グジャラート州の新工場建設に3500億ルピー(約5900億円)を投じることなどで州政府と昨年基本合意した。8月26日には鈴木俊宏社長が、インドで7000億ルピー余りを投資する計画を明らかにしたが、詳細には言及しなかった。

  トヨタ自動車は南部のカルナタカ州の工場増設に330億ルピー、西部マハラシュトラ州の新工場建設に2000億ルピーを投じる覚書を締結している。

  半導体分野では24年9月に東京エレクトロン、25年5月に富士フイルムタタ・エレクトロニクスと半導体エコシステムの形成に向けたMOUをそれぞれ結んでいる。

  他にも、鉄鋼・金属、エネルギー、航空・宇宙、人材、スタートアップなど幅広い分野でMOUが発表された。

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