「あのおじいさん、お金はあるのに哀れね…」高級老人ホームの職員たちが陰で辟易する“75歳の裸の王様”。家族から見捨てられた現実から目を背ける、偽りの〈孫自慢〉(THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン))

「うちの孫は優秀でね。東京の有名な私立に通っていて、将来は医者になるんだよ。こないだも電話で『おじいちゃんに会いたい』っていわれちゃってねぇ」 月額費用が数十万円を超える高級老人ホーム。そのホテルのようなロビーの特等席で、上質なジャケットに身を包んだユタカさん(仮名/75歳)は、いつものように周囲に聞こえるような大声で話していました。 手元にあるのは、スマートフォンの画面。そこには数年前、まだ中学生だったころの初孫の姿が映し出されています。周囲の入居者たちも「あら、男前ね」「うちは今度、ひ孫が生まれるのよ」などと返し、ロビーは和やかな空気に包まれています。 ただ、毎日同じ話を何十分も、ときには業務中のスタッフを呼び止めてまで熱心に語るユタカさんに対し、職員たちのあいだでは「話が長くて自慢好きなおじいさん」として見られていました。資産家であるからか、職員に対して横暴な態度も散見され、陰で少々辟易とされている部分もありました。 しかしある日を境に、スタッフルームでのユタカさんを見る目は変わります。

ある日の午後、ユタカさんは自室で激しい胸の痛みを訴え、専門病院へ搬送される事態に。 苦しそうに息を吐くユタカさんを救急車に乗せたあと、施設側はすぐに入居申込書の緊急連絡先へ電話を入れました。相手は、都内で暮らすユタカさんの実の息子です。 「一刻を争う状況ですので、すぐに病院へ向かっていただきたいのですが」 フロントの責任者が緊迫した声で伝えたのに対し、受話器の向こうから返ってきたのは、感情の起伏のない事務的な言葉でした。 「……そうですか。搬送費用や治療費、今後の手続きにかかる費用はすべて、父の口座から引き落としにしてください。私たちは病院に行けません。今後、生死に関わる事態になっても、我が家には連絡をしないでください。それでは失礼します」 電話を切った責任者は、小さくため息をつき、そばにいたスタッフにその内容を伝えました。施設にはさまざまな家庭環境の入居者がいるため、家族と疎遠なケース自体は珍しくありません。しかし、ユタカさんが毎日、誇らしげに語っていた「息子夫婦が心配して毎日電話をくれる」「来月は孫が私を迎えにくる」という話が、すべて彼自身の切ない嘘だったのだとわかり、スタッフルームにはなんともいえない静かな沈黙が流れました。 その日の夜、事務所の片隅で、張り詰めた声が漏れました。 「あのおじいさん、お金はあるのに哀れね……」 それまで「また自慢話につき合わされて業務が止まってしまった」と陰で辟易していた職員たちの目は、この日を境に、一転して深い「憐れみ」へと変わっていきました。


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幸いにも症状は軽く、数日後に施設に戻ってきたユタカさんは、何事もなかったかのように、また仕立ての良い服を着てロビーに現れました。そして、ほかの入居者たちといつもどおりに孫の写真を出して談笑しています。 その姿を少し離れた場所から見つめる職員たちの胸には、いたたまれないような憐れみの目を向けながら、「元気になられてよかったです」と、静かに見守るしかありません。 ユタカさんの銀行口座には、多額の資産が眠っています。しかし、その大金をもってしても「じいじに会いにいこう」という、家族の自発的な言葉を1回分すら買うことはできませんでした。 ほかの入居者たちの笑い声が響くロビーで、鳴ることのないスマートフォンを大切そうに握りしめているユタカさん。お金ですべてを支配しようとして、家族を省みなかった人が、老後に手に入れたのは、誰にも本当の素顔を明かせない、偽りの栄華と底なしの孤独でした。

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