その親切、相手を傷つけてない?アドバイスモンスターの正体(TED)

「もっと人の役に立ちたい」「あの人の力になりたい」と思うこと、よくあると思います。

でも、その親切心が、かえって相手を追い詰めてしまうことがあります。

今回紹介するTEDトークは、Michael Bungay Stanier(マイケル・バンゲイ・スタニエ)さんによる How to Tame Your Advice Monster(どうやって“アドバイスモンスター”を飼いならすか)。

マイケルさんは、カナダを拠点に活動するビジネスコーチ、著者、スピーカーです。

人から相談されると、つい「こうすればいい」とアドバイスしたくなるもの。でも、それが習慣になると、

✔ 相手の話を本当には聞いていない

✔ 本質からズレた問題を解決しようとする

✔ 無意識のうちに相手の力を奪ってしまう

こんなことが起きてしまいます。

アドバイスしすぎる状況を見直すきっかけになるトークです。

アドバイスしたくなる心理とその落とし穴

収録は2020年2月、動画の長さは14分。英語字幕あり。

☆トランスクリプションはこちら⇒Michael Bungay Stanier: How to tame your advice monster | TED Talk

☆TEDの説明はこちら⇒TEDの記事のまとめ(1)ミニマリスト的生き方の参考に

とてもユーモアのあるトークです。

口をはさみたくなる瞬間

先日、友人に会いました。

コーヒーを買って、軽い雑談をしたあと、友人のシャノンが私を見て言いました。「マイケル、あなたっていい人よね。ちょっと助けてほしいんだけど、アドバイスしてくれない?」

すると、私の中のアドバイスモンスターが大喜びしました。

友人が話始めたとき、私は聞いているふりをしました。実は私のアドバイスモンスターは、彼女に言うべきことをすでに完全に思いついていたんです。

でも私は、なんちゃってアクティブリスニングが得意です。ちょっと首をかしげて、うなずいて、関心があって、思いやりがあって、心配しているように見せかけました。

「うんうん、そうなんだ、なるほど、わかるわかる、そのとおり」みたいな、意味のない相づちも添えて。

でも心の中のアドバイスモンスターは叫んでました。「もう早くしてくれないかな? 時間がないんだけど」

ようやくシャノンの話が終わったので、ついに私は自分の「素晴らしいアドバイス」を披露することができました。そして間違いなく、それは素晴らしかったんです。

今度はシャノンが、首をかしげて、関心があって、思いやりがあって、心配しているふうに見せかけて、うなずきながら、意味のない相づちを打ち始めました。

「うんうん、そうね、なるほど、うん、いいアイデアね」って。

正直なところ、私のアドバイスや私の助けは、まったく相手に届いていませんでした。アドバイスモンスターがまたしても会話を台無しにしたんです。

これは私や男性によくある上から目線で話す問題ではありません。誰にでもアドバイスモンスターはいます。

人は皆アドバイスモンスターを飼っている

誰かが何かについて話し始めたとしましょう。

状況もよく知らないし、関係者のこともよくわからない。背景だって完全にはつかんでいないし、技術的な詳細なんてもちろん知らない。それでも、話し始めて10秒もすると、あなたのアドバイスモンスターがうずうずし始めます。

「ねえねえ、私にも言わせて!」と。

研究によると、医師、つまりアドバイスモンスターたちは、患者の話を聞いてからわずか11秒で口をはさむ傾向があるそうです。でもこれは、医療の問題というより、人間全体の問題なんです。

さて、今この話を聞いて「マイケル、それは本当だ。他人のアドバイスモンスターって本当に厄介でイライラするよね」と思っている人もいるでしょう。でも同時に、こうも思っていませんか?

「でもね、私のアドバイスは、正直、かなり素晴らしいんだ」

そして、「そもそもアドバイスの何が悪いの?」と。

アドバイス自体は、悪いものではありません。アドバイスは文明の重要な一部です。というか、TEDやTEDxなんて、巨大なアドバイスの祭典みたいなものですよね。

問題は、アドバイスそのものではありません。アドバイスをすることが人のデフォルトの反応になってしまっていることです。

私たちの多くは、アドバイスをすることが体に染みついています。それはすでに習慣になっています。

アドバイスの3つの問題

アドバイスにある問題には、3つのパターンがあります。そのうち最初の2つは、ちょっと関係しています。

間違った問題を解決しようとしてしまう

最初の問題は、間違った問題を一生懸命解決しようとしてしまうことです。

これは本当によくあります。最初に相手が語った悩みが本当の問題だと思い込んでしまうんです。でも実際は、そうであることはほとんどありません。

それは相手の現時点での最善の見立てで仮説にすぎません。最初に出てくる問題が、核心であることはまれです。

そのアドバイスはそれほど良くはない

仮に奇跡的に、本当の問題をちゃんと見つけ出して、それに取り組めたとしましょう。それでも、アドバイスには次の問題があります。

あなたのアドバイスは、思っているほど良くありません。

もし今、「いやいやマイケル、私は別。私のアドバイスは素晴らしいの」と思ったなら、TEDにある認知バイアスに関する動画をぜひ見てください。

それらの動画を見れば、あなたがどれだけ自分のアドバイスを過大評価しているかよくわかります。特に「自分のアドバイスは優れている」と信じている人ほど、実はそうではないことが多いんです。

まあ、この最初の2つの問題に関して言えば、あなたがしているのは、人の時間、人生、リソース、お金を、ちょっと無駄にしている程度の話です。

アドバイスが人を無力にし、自分を消耗させる

アドバイスの3つ目の問題は、もっと深いところに関わっていて、受け手にも与え手にも影響します。

まず、アドバイスを受け取る側にとってはどうでしょうか。

誰かのアドバイスモンスターの餌食になっていると、常にこんなメッセージを受け取ることになります。

「あなたには、自分で解決する力がない」。

このメッセージは、あなたの自信や、自分の人生を自分でコントロールしているという感覚(自律性)をむしばみます。

一方でアドバイスを与える側、つまりアドバイスモンスターを抱えるあなたにとっても、問題は深刻です。

他人の力を奪ってしまうとか、あなた自身が周囲の障害になってしまうといった問題はさておき、

「いつもすべての答えを持っていなければならない」

「相手を救わなければならない」

「すべてを解決しなければならない」

こんな責任を背負ってしまい、疲れて、イライラして、途方に暮れます。

貪欲なアドバイス・モンスター

ここまで話すと、皆さんの顔には「うんうん、マイケル、よくわかった。納得した。理解できたよ、なるほどね」と書いてあります。

私もわかっています。理論的には、あなたはこの話を完全に理解しています。

でも実際は、日々、あなたはまだアドバイスモンスターを暴走させています。

どうしてでしょう? 

これも、アドバイスモンスターの仕業です。

あなたはこのモンスターに、せっせとエサを与え続けており、モンスターは底なしに食欲旺盛です。

誰かが話し始めたとたん、モンスターが闇の中から現れてこう言います。

「おっ、これはチャンスだ。この会話に価値を付け加えちゃおうっと。任せて! いくぞ~!」

アドバイス・モンスターの3つの顔

このモンスターを手なづけるためには、まず正体を知る必要があります。

実は、アドバイス・モンスターには3つの顔(ペルソナ)があります。

あなた自身にぴったり当てはまるものが、きっとひとつはあるでしょう。

1. 「言ってやれ!」タイプ(Tell It)

このタイプは、3つの中でいちばん声が大きいモンスターです。

それは、あなたにこう信じ込ませています。

「あなたが人に価値を与える唯一の方法は、答えを持っていることだ」

「すべての答えを持っていなきゃダメだ」

「すべての物事に対して完璧な答えを持っていなきゃ、あなたは失格」

心当たり、ありますか?

2. 「助けてあげなきゃ!」タイプ(Save It)

こちらはもう少し控えめですが、それでも強力です。

このモンスターはあなたの肩に腕を回し、ささやきます。

「あなたの役目はみんなを救うことよ。それだけ」

「誰もつまずかせちゃダメ。困らせちゃダメ。落ち込ませても、失敗させてもいけない」

「誰かがちょっとでも苦しんだら、あなたの失敗よ」

このタイプにピンとくる方いますか?

特に親御さんなんか、よくご存知かもしれませんね。

3. 「コントロールせよ!」タイプ(Control It)

3つ目のモンスターは、いちばんこっそりと、巧妙に現れます。

このモンスターは、あなたにこうささやいています。

「勝つためには、すべてを自分の支配下に置いておかなければならない」

「手綱をゆるめてはいけない」

「誰かがコントロールを握るようなことがあれば、それはもう失敗だ」

コントロールタイプは、私に一番当てはまります。

アドバイスが優劣の関係を生むとき

実は、この3つのモンスターに共通するある重要なことがあります。

ここはとても大切なポイントです。

それは、あなたのアドバイスモンスターが主導権を握っているその瞬間、あなたは自分は相手より優れているというメッセージを発してしまっていることです。

つまり、こう言っています。

「あなたには無理でしょう」

「あなたは十分じゃない」

「あなたは賢くない、知識も経験も足りない、行動力もない、倫理観もない」

要するに、「あなたはダメな人だ」と、無意識のうちに伝えてしまっているのです。

自分自身も傷つく

でも、傷ついているのは相手だけではありません。

あなた自身も、同じように傷ついています。

アドバイスモンスターが主導権を握ると、あなたは自分自身の人間らしさとのつながりを失ってしまいます。

共感や思いやり、そして自分の弱さを認める力とのつながりが、弱くなってしまいます。

そしてあなたは、自分の「答え」や「正しさ」をまるで鎧(よろい)のようにまといはじめてしまうのです。

本当はここで、共感や思いやり、そして弱さの力について手短にお話ししようと思っていたんです。

でもふと思いました。

「ブレネー・ブラウンがいるしな」

「ダライ・ラマもいる」

「イエス・キリストもいるし」

このテーマについては、偉大な人たちがすでに語り尽くしています。

アドバイス・モンスターの手なずけ方:質問をする

そこで、今回は、アドバイス・モンスターを手なずける基本のステップをお伝えします。

やるべきことは、単純です。

「アドバイスをすぐに与える」という従来の習慣を、「もう少し長く好奇心を持ち続ける」という新しい習慣に置き換えましょう。

ほんとうにそれだけです。

ただ、シンプルですが、実行するのはとても難しい。

どうすれば好奇心を保てるでしょうか?

それは「質問」です。

質問こそが、好奇心の火種です。

アドバイスモンスターの暗闇を照らしてくれる光なんです。

私がカフェで友人に聞けばよかったと思っている3つの質問を紹介します。

1つ目の質問:あなたにとって、本当の課題は何だと思う?

これはフォーカスのための質問です。

会話の最初は、実はお互い何が本当の問題なのかよくわかっていません。なんとなくわかっているつもりでいるだけです。

だからこの質問を投げかけて、アドバイスモンスターが口を出すのを防ぎつつ、相手と一緒に本当に取り組むべきことを見つけていきます。

2つ目の質問:それから、他には?

これはAWEという頭文字で覚えられる質問で、And What Else?(それから他には?)という意味です。

これは、私が特におすすめしたい魔法のような質問です。

なぜなら、人が最初に答えることは、たいていそれが唯一の答えでもないし、ベストな答えでもないからです。

だから、「それから他にある?」と聞き続けると、アドバイスモンスターを黙らせながら、どんな話題でも、より深く、より本質に近づくことができます。

質問の効果を体験する

3つ目の質問を紹介する前にすでに紹介した2つの質問がどれほど効果的か、実践を通してお見せしたいと思います。

今、自分が直面している本当の課題をひとつ思い浮かべてください。

小さなことでも大きなことでもかまいません。

仕事に関することでも、人生全般でも、プロジェクトのことでも、人間関係のことでもOKです。

なんでもいいので、「これが今の自分の課題かな」と思うものをひとつ思い浮かべてみてください。

紙に書き出してもいいですし、心の中で思い浮かべるだけでも構いません。

では、その課題が思い浮かんだところで、次の質問です。

「あなたにとって、本当の課題は何ですか?」What’s the real challenge here for you?

はい、考えている方がたくさんいらっしゃいますね。

何かが動き出していますね。

「たぶん、これが本当の課題なんじゃないかな」

そんなふうに、少しずつ見えてきた方もいるかもしれません。

でも、これで終わりじゃないんです。

では、もう一つ質問させてください。

「で、他には?」

あなたにとって、本当の課題は、他に何がありますか?

きっと一つだけではありません。

「他には?」

他に、あなたにとっての本当の課題は何ですか?

どうでしょう?

新しい気づきがポンポン浮かんできて、思考が広がっているのを感じませんか?

いいですね。でも、まだ終わりじゃないんです。

もう一つ、質問があります。

「他には?」

他に、あなたにとっての本当の課題は何でしょう?

まだ掘り起こせるものがあるはずです。

中には、「えっ、こんなものが自分の中にあったの?」と驚いている人もいるかもしれませんね。

では、最後の質問です。

ちょっと赤い丸の端まで歩いてみます。ドラマチックにいきましょう。

ここまでいろいろ考えてみたところで、もう一度聞きます。

「あなたにとって、本当の課題は何ですか?」What’s the real challenge here for you?

はい、今、頭がパーンとなった方もいるかもしれません。

「えっ、なんでこんなに見えてきたの? さっきまで気づいてなかったのに、どこから出てきたの?」

そんなふうに感じた人もいるでしょう。

実はここがとても重要なポイントなんです。

最初に答えた「本当の課題」と、今、最後に答えた「本当の課題」は、違っていませんでしたか?

この違いこそが大切なんです。

もし、私が最初の「本当の課題」だけに取り組んでいたら、私は、ちょっとイマイチなアドバイスで、間違った問題を解決しようとしていたことになります。

そういうことは、現実には常に起きています。

3つ目の質問:あなたは何を望んでいるのか?

カフェで友人に聞けばよかったと今でも思う3つ目の質問があります。それは、

「あなたは、何を望んでいるの?」What do you want?

自分が本当に何を望んでいるのか明確になると、行動が始まります。

そこから前進が始まるんです。

「自分は何を望んでいるのか」がはっきりすれば、先ほどお話しした自律性や自信を手に入れることができます。

そうなれば、アドバイスモンスターの入り込む余地は、もうほとんどありません。

私たちがすべきことは、「アドバイスをすぐにしてしまう」という古い習慣を、「もう少しだけ好奇心を持って問いかける」という新しい習慣に置きかえることです。

すると、人に答えを与えるのではなく、「自分で答えを見つける力」を引き出すことができます。

人を助けるのではなく、自分の道を見つけられるようにサポートすることができます。

すべてを自分でコントロールするのではなく、コントロールの一部を手放して、相手に一歩踏み出す機会を与えることができます。

それが可能になるのは、アドバイスモンスターを飼いならしたときです。

//// 抄訳ここまで ////

補足

ブレネー・ブラウンのプレゼン⇒不安な心(ヴァルネラビリティ)に秘められたパワー:ブレネー・ブラウン(TED)

マイケルさんの著書です。

コミュニケーションに関係のあるプレゼン

過去に紹介したTEDトークからコミュニケーションの向上に役立つものをリンクします。

劇的に会話が変わる!科学に基づく会話術(TED)

聞き上手になる。よく聞くための5つの方法・ジュリアン・トレジャー(TED)

5つの椅子と5つの選択、もっと上手にコミュニケーションをとる方法(TED)

伝え方よりも話す内容~戦略的コミュニケーション(TED)

自分の問題に集中する

アドバイスしすぎることが、相手にも自分のためにもならないと伝えるトークを紹介しました。

誰かに相談されたとき、つい「こうしたほうがいいよ」とアドバイスしたくなる人。自分が何とかしなきゃと、相手の問題を引き受けてしまう人。

そういう人は、きっとやさしくて責任感があるのだと思います。

でも、そのやさしさが、特に相手のためにもならず、自分をすり減らし、生活を複雑にしてしまうことがあります。

相手が困っているときこそ、「それは誰の問題か?」を考えることが必要だと思います。

私たちは人の役に立ちたいと思っています。でも、他人の人生の課題は、基本的にはその人自身が解決するものです。

アドバイスも、手助けも、やりすぎると、相手のちからを奪ってしまうので、適切な距離を保つべきです。

頼まれごとを断れない人は、「これは本当に私の問題なのか」と考えるようにすると、引き受けすぎないでしょう。

自分の問題に集中すると、ぐっとラクになりますよ。

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