韓国が「核武装」する日 超親米派も「トランプは信用できない。自主国防を」と言い出して…鈴置高史氏が読む

鈴置:実に興味深いインタビュー記事が左派系紙、ハンギョレに載りました。語ったのは代表的な保守の安保専門家、千英宇(チョン・ヨンウ)韓半島未来フォーラム理事長です。  見出しの「韓国は安保を米国のみに依存すべきではない…超党派的な対応と『自強』に努めよ」(12月12日、日本語版)から分かるように、米国離れの主張です。  これを左派が語ってもニュースではありませんが、千英宇理事長は親米保守派の中心的な人物でした。外交官出身で2010年10月から2013年2月まで保守、李明博(イ・ミョンバク)政権の外交安保首席補佐官を務めました。  2010年代に入ると韓国の保守も中国の台頭を見て、一斉に「離米従中」に傾きました。でも、千英宇氏だけは「堅固な韓米同盟こそが国を守る」と言い続け、米国一筋を貫きました。その人の「米国離れのススメ」ですから、「ついに韓国もここまで来たか」と驚愕するほかはありません。

――そんな超・親米保守派がなぜ、今になって離米を語るのでしょうか。 鈴置:突然の関税大幅引き上げに象徴される、トランプ(Donald Trump)政権のあまりに露骨な自国利益の追求が原因です。米国の同盟国はいつ裏切られるか分からない、との懸念を増しています。千英宇理事長もここに至って堪忍袋の緒を切ったのです。発言を引用します。 ・トランプ政権の外交政策の特徴は、強者には弱く、弱者には強い『強弱弱強』だ。とりわけ同盟国に対しては過酷だ。同盟国の安保へのただ乗りはもはや容認しないという執着が、米国の同盟政策を支配している。 ・それに比べて『大国』である中国とロシアとの交渉では、融和的な姿勢を示している。今後は朝中ロの北方三角連帯が東アジアと韓国の安全保障にとって大きな脅威にならざるを得ない。 ・韓国の『死活的利益』を害する恐れのある裏取引を、米国が彼らとする可能性も排除できないため、大韓民国の安全保障を全面的に米国のみに依存するのは危険だ。  千英宇理事長はこのインタビューでは触れませんでしたが、12月5日にホワイトハウスが発表した「国家安全保障戦略(2025年版)」、いわゆる「NSS(National Security Strategy)」は韓国の直接的な脅威である北朝鮮に一切、言及しませんでした。  米国は対中防衛ラインである第1列島線(the First Island Chain)――千島列島、日本列島、琉球諸島、台湾、フィリピン北部、ボルネオ島――は絶対に守ると表明しました。しかし韓国は第1列島線の外側にあり、「死守」の対象外となったのです。  韓国では「米国から見捨てられた」との思いを持つ人が続出しました。千英宇理事長の「米国離れ」への転向も、今回の国家安全保障戦略が最後のひと押しとなったと思われます。


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――濃縮したウランは原子力潜水艦の燃料に充てるつもりでは?  鈴置:李在明(イ・ジェミョン)政権はウラン濃縮の目的にそれを掲げます。しかし、千英宇理事長はそもそも原潜の導入に反対なのです。 ・海軍の潜水艦の元艦長の中でも最高のエリートは、この[原潜建造]計画に反対している。海軍指揮部がやると言っているから、公に声をあげないに過ぎない。  ディーゼル駆動の潜水艦と比べ原潜は大型で、騒音も大きい。敵のミサイル潜水艦を沈めるための攻撃型にしても、ミサイルを発射するための潜水艦にしても、朝鮮半島周辺で運用するには原潜は隠密性に乏しく適切ではない――が千英宇理事長の持論です。 ・核ミサイルを搭載した北朝鮮の潜水艦を捕捉するには、彼らが隠れている可能性の高い北朝鮮の水深の浅い沿岸や内海に入っていかなければならない。そこで待ち伏せし、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)が発射される前に撃沈しなければならない。この作戦には小さな従来の潜水艦の方が有利だ。  北朝鮮が原子力推進型の核ミサイル潜水艦を建造しようとしていることにも千英宇理事長は首を傾げます。 ・北朝鮮の立場からすれば、最も大切な2次核攻撃の手段が潜水艦であり、内海には安全に隠しておける場所が多いのに、なぜあえて米国の[攻撃型]原潜がうろつく危険な外海に出すのか。  北朝鮮が核ミサイル原潜を持つのが不合理なら、同じ条件下の韓国も核ミサイル潜水艦を原子力推進にする必要はありません。にもかかわらず千英宇理事長が「何が何でもウラン濃縮をやりとげよう」と主張するのは、核弾頭の製造――核武装が目的ということでしょう。

――米国から離れたら、中国との関係はどうする?  鈴置:千英宇理事長は「親しくなろうと努める必要はあまりない」と言い切っています。これも核武装が前提です。米国の核の傘が怪しくなっても、自前の核さえ持てば中国を恐れる必要はないのです。  米国の最新の「国家安全保障戦略(2025年版)」で、韓国は第1列島線の外に置かれる一方、その防衛にはさらに貢献するよう求められました。しかし、核を持って事実上、中立化すれば米国のコマとして中国と敵対させられることも無くなります。 「 国家安全保障戦略(2025年版)」が韓国にとって「やらずぶったくり」なものであることから、米国の専門家の中にも「韓国は核武装に走るだろう」と予測する人が出てきました。  中央日報のインタビューに答えたスタンフォード大学のD・スナイダー(Daniel Sneider)氏は「米国が北朝鮮防衛に関心がないならば、韓国がなぜ台湾で起きることに気を遣わなければならないのか」と米国の身勝手さを指摘したうえ「韓国人は核兵器で自らを守らなくてはならないという考えをさらに強く持つようになる」と言い切りました。 「『韓国、独自の核保有渇望するだろう…トランプ政権の安全保障戦略核心を見よ』(1)」(12月14日、日本語版)をご覧ください。

デイリー新潮
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