焦点:トランプ政権が「規制凍結」、大混乱に陥る米国漁業

トランプ米大統領の規制凍結により、収益性の高い米国漁業の多くに混乱と不確実性が広がっている。写真は、商業漁船でフカセとヒラメを荷揚げする船員ら。 3月13日、ロードアイランド州ポイントジュディスで撮影(2025年 ロイター/Brian Snyder)

[23日 ロイター] - トランプ米大統領の規制凍結により、収益性の高い米国漁業の多くに混乱と不確実性が広がっている。東海岸でのタラやハドックを獲る漁船団の漁期開始の遅れが懸念され、大西洋クロマグロ漁でも乱獲が起きている。漁業団体や連邦政府当局者へのロイターの取材で明らかになった。

米国漁業の規模は3200億ドル(約48兆円)。沿岸漁業を管理しているのは、連邦政府機関である米国海洋大気庁(NOAA)だ。1976年制定の法律に基づき、NOAAの海洋漁業局は、連邦政府所属の科学者や各地の漁業従事者との協議を通じて、45カ所の漁種について管理計画を策定し、漁獲割当量と漁期の開始・終了時期を決定している。

ロイターの取材によれば、トランプ大統領が1月20日に60日間の規制凍結を宣言したため、複数の漁種においてこのプロセスが中断し、重要な会合が延期され、新たなルールの発表をめぐって混乱が生じたという。

マサチューセッツ州選出の連邦議会議員、漁業団体、連邦政府職員によれば、規制凍結はノースカロライナ沖漁場での大西洋クロマグロの乱獲に道を開いてしまった。今年の夏、クロマグロがさらに北上しても、ニューヨーク州とニューイングランドの漁業従事者にとっては漁獲枠が減らされる恐れがあるという。

「協会内外で大混乱だ」と語るのは、メーン州沿岸漁業協会のベン・マーテンス事務局長。「漁師からは、これからどうなるのかという問い合わせの電話がひっきりなしにかかってくる」

解雇されたNOAA上級職員の1人によれば、先月には、漁業関連の業務を担うNOAAの試用職員の約5%に当たる163人が解雇された。事務方スタッフ、魚類学者、漁業管理専門家などが含まれる。こうした職員は、資源の健全性監視や年間漁獲量に関する規制の協議といった規制プロセスに関わっていた。

NOAAの広報担当者レイチェル・ヘイガー氏は、メールで、規制凍結に関する大統領覚書に従っていると述べたが、運営や人事面の問題についてはコメントを控えた。一方、ホワイトハウスからの返答は得られていない。

規制凍結が解除され新たなルールが発表されたとしても、漁期の遅れにより、特に回遊魚を対象とする漁師や小型漁船で操業する漁師に影響が及ぶ可能性がある。

<「死活問題」>

「出漁機会が減少したり時期がずれ込んだりすれば、漁業にとっては死活問題だ」と語るのは、全米の商業漁業従事者や団体にアドバイスを提供するコンサルタント会社ホマラス・ストラテジーズのノア・オッペンハイム代表だ。

ロイターは、アラスカから大西洋にかけての漁期規制の遅れや人員削減による影響について、2つの業界団体とNOAAの13人の職員に取材した。

解雇されたNOAA職員のうち12人は、裁判所命令により3月17日に復職したが、休職処分のままだ。トランプ政権は、すべての連邦機関に対してさらなる人員削減計画を提出するよう指示している。

規制凍結が漁期に及ぼす影響や、NOAAの水産業担当部門における人員削減の範囲については、これまで報道されていなかった。米国で商業漁業で生計を立てている漁師は3万9000人。NOAAの事例は、現在進められている連邦政府の規制の凍結や人員削減が、米国経済に実際にどのような影響を及ぼすのかを示す例の一つだ。

マサチューセッツ州選出のビル・キーティング民主党下院議員がNOAAに送った2通の書簡によると、今月、中部大西洋でクロマグロが漁獲量を超過したのは、1月中旬に漁獲割当量に到達した後もNOAAが漁期終了の規制を発動しなかったためだという。

キーティング議員の事務所によれば、NOAAの議会連絡担当者に連絡したが、担当者は解雇さて連絡がつかず、暫定的な管理者にも連絡を入れたが回答がなかったという。

クロマグロの漁獲割当量の125%相当量が水揚げされた後、NOAAは2月28日にようやく中部大西洋での漁期終了を宣言した。だがニューヨーク州でクロマグロ漁に従事するジョン・マクマリー氏は、同州の漁場で漁期が始まる6月頃に、この希少種がどれだけ獲れるかは確信が持てないと述べている。

「ニューヨークやニューイングランドの私たちにしわ寄せがくるのは間違いないだろう」

第1期トランプ政権では漁業と狩猟は規制凍結の対象外とされたが、現政権のもとではそうした例外は発表されていない。

ホワイトハウスは、規制緩和がインフレ抑制と雇用成長を促進すると主張している。

<「魚を獲れなければ仕事はない」>

1990年からロードアイランド州沖でイカなどを獲る商業漁業に携わってきたジョン・エインズワース氏は、漁業に対する無秩序なアプローチが水産資源を壊滅させるのではないかと懸念している。

「イカ漁を担当する連邦機関の当局者は解雇されるらしいが、彼らなしに漁期の開始をどう知ればいいのか、漁獲割当量の残りがどれぐらいあるかいつ分かるのか」とエインズワース氏は憤る。

ニューイングランド漁業管理協議会によると、規制プロセスの遅れにより、ニューイングランド州の一部漁場では漁期の開始が遅れる見込みだという。

メーン州沿岸漁業協会のマーテンス氏によれば、タラやハドック、ヒラメを含む北東部の4100万ドル規模の底引き漁業は、NOAAや商務長官が緊急措置を取らない限り、通例の5月1日の開業に間に合わないと述べた。4億ドル規模のニューイングランドのホタテ産業は、4月1日から一部でしか操業を開始できない。新しい規制の発表は4月下旬までかかる可能性があると、マーテンス氏は指摘する。

アラスカ延縄漁業協会のリンダ・ベンケン事務局長は、解禁が遅れれば漁期が短縮され、漁船乗組員の仕事も減り、市場に出荷される魚も減ってしまうと懸念する。

「魚を獲れなければ仕事がなくなってしまう」

アラスカのクロダラ(またはギンダラ)とオヒョウの漁業は、3月20日に予定通り開業できた。アラスカ州のリサ・マカウスキ共和党上院議員のXの投稿によれば、これは議員がラトニック商務長官と直接話した後に決まったという。NOAAのスタッフは、予定通り漁場を開けるために週末を通して働いたとベンケン氏は語った。

NOAA職員の1人は、規制凍結に伴い、漁業管理協議会の会合が中止されたため、太平洋沿岸のサケ漁シーズンに向けた準備も遅れているという。

魚類生態学者のレベッカ・ハワード氏は、貝類やスケトウダラ、タラなど底引き漁の対象となる種について個体数調査の準備を進めていたが、2月27日にアラスカ水産科学センターから解雇されてしまった。こうした調査データは、漁獲量が持続可能な範囲に収まるよう魚やカニの漁獲割当量を設定するために活用される。

こうした資源量評価は、クリストファー・ウィリ氏をはじめとする漁師にとっては不可欠だ。漁師による自主規制は難しいとウィリ氏は言う。

ロードアイランド州沖のブロック島でチャーター漁船のガイド業やレストランを営むウィリ氏は、「漁獲量を規制するには連邦政府が必要だ」と語る。「NOAAの資源量評価に基づいて漁獲割当量を維持・規制・監視しなければ、無法状態になり、既存の資源は枯渇してしまうだろう」

(翻訳:エァクレーレン)

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Valerie Volcovici covers U.S. climate and energy policy from Washington, DC. She is focused on climate and environmental regulations at federal agencies and in Congress and how the energy transition is transforming the United States. Other areas of coverage include her award-winning reporting plastic pollution and the ins and outs of global climate diplomacy and United Nations climate negotiations.

Washington-based award-winning journalist covering agriculture and energy including competition, regulation, federal agencies, corporate consolidation, environment and climate, racial discrimination and labour, previously at the Food and Environment Reporting Network.

Gloria Dickie reports on climate and environmental issues for Reuters. She is based in London. Her interests include biodiversity loss, Arctic science, the cryosphere, international climate diplomacy, climate change and public health, and human-wildlife conflict. She previously worked as a freelance environmental journalist for 7 years, writing for publications such as the New York Times, the Guardian, Scientific American, and Wired magazine. Dickie was a 2022 finalist for the Livingston Awards for Young Journalists in the international reporting category for her climate reporting from Svalbard. She is also an author at W.W. Norton.

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