「証拠捏造」認定せず…静岡県警「事実や証言得られず」、最高検「時系列とも矛盾」と批判

 強盗殺人罪などで死刑確定後に再審無罪となった袴田巌さん(88)を巡る捜査と公判の検証結果が26日、最高検と静岡県警から公表された。再審無罪の根拠として今年9月の静岡地裁判決が指摘した「証拠 捏造(ねつぞう) 」についての見解が注目されたが、最高検、県警ともに捏造を認定しなかった。袴田さんの弁護団からは、「不十分でがっかりさせる内容だ」との批判が上がった。

最高検の検証などについて話す弁護団の小川事務局長(26日、静岡市葵区で)

 「もっと時間をかけて、どういう観点で捏造が行われたか、しっかり調査すべきだった」。1966年の静岡県一家4人殺害事件で、袴田さんに再審無罪判決が言い渡されてから3か月。26日午後に静岡県庁で記者会見した弁護団の小川秀世事務局長はこう強調した。

 9月の判決で検察と警察は、犯行着衣とされた「5点の衣類」など三つの証拠について「証拠を捏造した」と認定された。これについて、県警は当時の捜査員6人と、5点の衣類が見つかったみそ製造会社の元従業員6人に対する聞き取りを実施。報告書では「捏造を行ったことをうかがわせる具体的な事実や証言は得られなかった」と説明しつつ、「捏造が行われなかったことを示す事実や証言も得られなかった」とした。

 一方、最高検の報告書では、捜査機関は当初、犯行着衣はパジャマだと確信して捜査しており、これと矛盾する5点の衣類を入手し、証拠として捏造することは非現実的だと強調。捏造認定の前提事実について「客観的な時系列とも矛盾している」と批判した。

 袴田さんの支援者、山崎俊樹さん(70)は「我々は捜査機関の捏造があったと思ってきた。検証には市民による第三者の目が入ってもよかったのではないか」と話した。

 県警は報告書で、5点の衣類が見つかったみそタンク内の捜査が不十分だったことなど、初期の捜査不徹底が捏造認定の要因になったとも言及した。県警OBの男性も「みそタンクを全て調べなかったことは大きな失敗だった」と語った。

 県警の津田隆好本部長は報告書の公表後、県警本部で報道陣の取材に応じ、「不適正な取り調べ、初動捜査の不徹底など、大変重く受け止めている」と述べた。捏造の有無を確認できなかったことについても、事件から長期間経過し、当時の捜査員らも多くが死去していることなどを挙げ、「残念ながら、ここまでしかできなかった」と語った。

 最高検の山元裕史・次長検事は記者会見で、「捏造がないと主張してきた立証活動に問題はなかった」と説明。ただ、「袴田さんを犯人視しているわけではない」とも述べた。

  畝本(うねもと) 直美・検事総長は、捏造認定について「到底承服できない」と批判する談話を発表していた。検証に携わった検察幹部の一人は「主張は一貫しているが、改めて事実関係を精査して『捏造はない』と結論付けた。検察にとっては譲れない部分だ」と明かした。

 再審制度に詳しい大阪大の水谷規男教授(刑事訴訟法)の話「当時の捜査員らに聞き取りして『捏造』の有無を確かめようとした警察の検証は一定の評価ができる一方、資料のみに基づき不十分な根拠で捏造を否定した検察の姿勢には疑問が残る。問題を認めることこそが出発点であり、不利な点をおざなりにしていては教訓にはならない」

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