「地獄に落ちる」発言で支持者を動員、投票者へ約77万円の“お金配り”も…トランプが欲しがる「レガシー」米中間選挙でアメリカ・日本はどう変わるのか(ABEMA TIMES)|dメニューニュース
投票日まで2ヶ月を切ったアメリカの中間選挙を前に、トランプ大統領が異例の行動に出た。中間選挙前としては史上初となる党大会を開催し、上下両院で共和党が多数を維持できた場合、すべての成人に1人5000ドル(およそ77万円)を支給すると表明したのだ。ロイター通信によると、この「トランプ配当金」には日本円で200兆円を超えるコストがかかるとみられる。
【映像】トランプ大統領が宣言した“仰天公約”(実際の様子)
イラン攻撃に伴うガソリン価格高騰や物価高などを受け、トランプ大統領の支持率は3割台に低下。上下両院で過半数を維持できるかどうか、与党・共和党内では危機感が高まっている。もし共和党が過半数を失った場合、アメリカは、そして日本はどう変わるのか。『ABEMA Prime』では、今回の米中間選挙について専門家とともに考えた。
■中間選挙とはどんな選挙か――「大統領本人が出ていないのに、最初から赤点」
そもそも中間選挙とはどのような選挙なのか。現代アメリカ政治外交が専門の上智大学・前嶋和弘教授は「日本で言えば“衆参ダブル選挙”のようなもの。下院435議席すべてが改選され、上院は約3分の1が改選される。さらに50州のうち36州の知事選があり、市長や町長、場合によっては消防のトップや裁判官を決める州もある。ただし“大統領選挙”だけが行われない」と仕組みを解説する。
よく“大統領の中間テスト”と表現されるが、前嶋教授はこの言い方に疑問を呈する。「本人が出ていないのに、テストで本人が欠席なのだから最初から赤点なわけだ。大統領選の投票率は最近6割を超えているが、中間選挙は10ポイントほど下がる。その10ポイントは、大統領の応援団が行かない分だ」。つまり、大統領の支持者が投票に行きにくい構造になっているため、現政権与党が不利になりやすいという。
過去20回の中間選挙を見ると、うち18回は現職大統領の政党が議席を減らしている。前嶋教授は「第2次大戦後から、大統領の政党は下院で平均してマイナス26議席になる」と説明。議席状況についても「初めと比べて微妙に数字は変わっているが、下院では共和党220対民主党215とわずか5議席差。上院も共和党53対民主党系・無所属は47と6議席差しかない。下院はかなりひっくり返る可能性がかなり高い。上院は平均マイナス4議席なので、6議席差があることを考えると微妙だ」と前嶋教授は展望する。
■「ゲリマンダー」は防波堤になるか――選挙産業が生み出す「常に競る」構造
今回の中間選挙では、9つの州で選挙区の区割りが再編された。いわゆる“ゲリマンダー”だ。区割り変更だけを踏まえた試算では共和党が5議席程度の上積み効果があり、選挙結果まで含めると最大15議席の上積みに繋がるとの見方もある。前嶋教授はその仕組みをこう解説する。
「下院は基本的に人口比で議席が割り当てられる。10年に1回、ゼロがつく年に国勢調査をして議席を見直す。テキサス州では共和党が有利になるよう選挙区の区割りを動かした。これがゲリマンダー。最近はソフトウェアを使って、巧みに行われている」。
ただし、このゲリマンダーが防波堤になり切るかは別問題だ。「最大15議席まではいかず、増えるのはおそらく10議席程度だろう。それでもマイナス26の平均値には足りない。ゲリマンダーがあっても今回の波は超えてしまいそうだという見方が強い」と語る。さらに前嶋教授は、ゲリマンダーが分断を深めるという側面も指摘。「共和党と民主党の選挙区がはっきり分かれることで、選ばれる人がより“赤か青か”になっていく。これも分断の一因だ」と持論を述べた。
米選挙はなぜ毎回いい勝負になるのか、という小説家・室井佑月氏の問いに対し、前嶋教授はアメリカ独自の“選挙産業”の存在を挙げた。「日本と違って選挙産業が盛ん。家に行って説得する、投票所が遠ければ車を出してみんなで行く、老人ホームで郵便投票を取りまとめるといったことをやっている。候補者は有権者のデータも持っていて、過去に誰に投票したか、所得がいくらかまで分析できる。投票に行きそうにない人を探し出してピンポイントで働きかける。こうした取り組みを両党がやるから常に競る」と述べた。
■「地獄に落ちる」と言ってでも動員を図るトランプ
今回、トランプ大統領が中間選挙の前に党大会を開催したのは史上初めてのことだ。本来、党大会は4年に1回、大統領候補を決めるために行われるもので、すでに大統領である今回は開催する必要がないはずだった。なぜあえて開いたのか。
前嶋教授は「今回の党大会という名の選挙集会の一番のポイントは、『私の名が投票用紙に載っていると思って投票してほしい』というメッセージだ。トランプ大統領はさらに『投票しなかったらどうなると思うか』とも語り、そして『地獄に落ちる』という表現を使った」と説明。「トランプの基礎支持層はキリスト教福音派が多い。彼らにとって“地獄”や“サタン”という言葉はドキッとする」と背景を説明した上で、やっぱり日本では考えられないレベルの分断がある」と語った。
2日連続、で計2時間弱にわたって演説したトランプ大統領。前嶋教授はこの行動を「合理的な戦略だ」と見る。「中間選挙ではトランプ大統領の応援団は行かない。その応援団を動かしたい。5000ドル配当も、党大会も、すべて自分の支持者を少しでも動かすための手段だ」と思惑を分析した。5000ドルの配当金については「以前も政府を小さくするから配当を出すと言い、関税収入から2000ドル配ると言ったが、いずれも配っていない。財源については副大統領のバンス氏が関税からと言っているが、具体的にどこからかは不明だ」と評価する。
仮に下院で共和党が過半数を失った場合、前嶋教授はこう見通す。「実は今でもすでに弱い。議席差がわずかで、上院も60票ないと物事が動かない制度なので、今でもトランプがやりたいことはほとんど議会でできていない。だから過去の法律を解釈して大統領令を出している。移民対策に1790年代の法律を持ち出したりしているのはその典型だ。下院を失えば共和党主導で新たな法案を成立させることはさらに難しくなる。ただしムードが変わり、民主党が多数になれば、弾劾の動きが出てくるだろう。3回目の弾劾という話になっていくかもしれない」。
日本への影響について問われると、前嶋教授は「何がベストか言いにくい」と述べた上で、アメリカの国内政治が行き詰まった場合、外交・安全保障面にも影響が及ぶ可能性に言及した。「もし『北朝鮮と大きなディールをした』といって、核保有を認めてしまうことになれば、安全保障が変わる。あるいは韓国から大きく米軍を撤退させ、日本もそうだ、みたいなことになっていくとかなり痛い」と懸念を示した。そのうえで高市総理にはトランプ大統領にうまく働きかけてほしい」と語った。
元経産省官僚の宇佐美典也氏は日本の半導体産業への影響を懸念する。「5000ドルを本当に配るとなれば財源が必要で、半導体産業は儲けすぎていると言われやすい。韓国・台湾・日本の半導体産業は狙われる可能性がある」と述べた。
前嶋教授は「トランプ大統領がレガシーとして欲しいのは、誰もが議席数を落とすと思っていた中間選挙を『自分のおかげで勝った』という実績だ。共和党支持者の中でのトランプ支持率は8割を超えていて、もう上がりようがない。いかにその人たちを動かすか、それが今回の党大会であり、5000ドルの配当金なのだ」と締めくくった。
(『ABEMA Prime』より)