投資家945人調査。ADHD特性が強いと取引多くて儲け少なめ
- ADHDの特性が投資行動に影響すると言えるのですか?
- ADHDの特性は短期の投機リスクを高める傾向があるが、因果関係は証明されておらず横断的調査の結果である。
- 不注意と衝動性のどちらが投資に影響しますか?
- 不注意の方が投資行動に影響が大きく、取引回数が増える一方で成績は下がる傾向がある。
- ADHDが強い人に有効な対策はありますか?
- 事前の根拠とリスクを書き出す、通知を減らす、取引の見直しタイミングを決めるなど環境整備が有効と示唆されています。
ADHDと投資の関係を調べた新しい研究が発表されました。 調査を行ったのはドイツ・ボン大学の研究チームで、対象となったのはオンラインで株の売買を活発に行っている945人の投資家でした。
平均年齢は34歳で、全体の約4分の3が男性でした。
この研究は「ADHDの特性が、投資行動や成果にどのように影響するのか」を明らかにすることを目的として行われました。
ADHDとは、不注意や衝動性といった特性を持つ発達特性のひとつです。 診断を受けるほどではなくても、特性の傾向が強い人は日常生活に影響が出ることがあります。
お金の使い方や投資行動は日常に直結するものですが、これまでADHDと投資の関係を具体的に調べた研究はほとんどありませんでした。 とくに株式投資のように短期的な決断を迫られ、利益と損失の幅が大きい場面では、その影響が顕著になる可能性があります。
今回の調査では、ADHDの特性を測るために22問の質問票を使いました。 ここでいうADHD特性とは、「不注意(集中を続けるのが苦手で、計画から外れやすい傾向)」と「多動性・衝動性(じっとしていられない、思いつきで行動してしまう傾向)」のことです。
さらに、投資におけるリスクの取り方を測定しました。 この「リスクをどのくらい取れるか」の指標は金融リスク許容度(FRT:Financial Risk Tolerance)と呼ばれます。
FRTは三つに分かれていて、短期的で不確実な取引に前向きかどうかを示す「投機リスク」、ギャンブルのような確実性の低い選択をどう考えるかを示す「ギャンブルリスク」、知識や感情の安定性も含んだ「投資リスク」です。
結果として、参加者の5.7%がADHDの特性が強いと判定されました。 この割合は一般的に推定されている成人ADHD(約2〜3%)より高めでした。
ADHDの特性が強い人は、FRTが高く、とくに「投機リスク」が大きいことがわかりました。 つまり短期で不確実性の高い売買に積極的な傾向が強かったのです。
ただし「ギャンブルリスク」や「投資リスク」では差はみられませんでした。
また、ADHD特性の強さは実際の投資リターンと弱い「負」の関係を示しており、特性が強い人ほど成績がやや低くなる傾向がありました。
さらに詳しい分析では、ADHD特性の強さと関連していたのは、取引回数が多いこと、投機的なリスクを好むこと、そして将来の利益に対して過度に楽観的な期待を持つことでした。
一方で、実際に良い成績を出している人や、長期的に安定した投資リスクを取る人はADHD特性が低い傾向にありました。
つまり、ADHDの特性は「取引回数は多いが成果は伸びにくい」というパターンとつながりやすいことが示されたのです。
興味深いのは、「衝動性」よりも「不注意」が投資行動に大きく関係していた点です。 不注意の特性は「最初の計画から外れやすい」「注意が散りやすい」といった傾向を持ちます。 これが市場のノイズや目先の動きに振り回されやすさにつながり、結果的に投機的な行動を増やしてしまう可能性があるのです。
そのため、衝動性よりも「集中力を持続できるかどうか」のほうが投資結果に影響しやすいと考えられます。
性別の違いについても分析されました。 一般に投資では女性のほうが慎重と言われますが、この研究では男性のほうがFRTが高く、実際のリターンも良好でした。 一方で女性でADHD特性が強い人は、FRTが低く、成果も不利になる傾向がありました。
ただし、アクティブに投資を行う女性自体が少ないため、この結果は一部の偏りが影響している可能性があります。
研究チームは、今回の結果は「因果関係」を証明したものではないと強調しています。 横断的な調査であるため、ADHDの特性が投資行動を変えるのか、あるいは投資の経験が特性の表れ方に影響しているのかは分かりません。
また、自己記入式の調査で正式な診断をしていないこと、参加者の多くが教育水準や所得の高い層であることなどの制限もあります。 それでも、「不注意という特性が投資行動に影響しやすく、短期的な取引を増やし、成績を下げる可能性がある」という傾向は一貫して示されました。
この研究が示す実生活への示唆は、投資に取り組む際に「自分の特性をどう環境で補うか」という点です。
たとえば、価格の通知を減らして取引の誘惑を少なくする、週に一度など取引を見直すタイミングをあらかじめ決める、売買前に「根拠とリスク」を書き出してから決断するなど、手順を固定化する工夫が役立ちます。 期待値に関しても、近い過去の値動きに振り回される「近時性バイアス」を意識して避けるために、事前に「期待できる範囲」を文章化しておくことが有効です。
ADHDの特性を持つ人にとって投資は不利になる可能性もありますが、工夫によってその影響を軽減することは可能です。
今回の研究は、投資行動を理解するうえで「注意の持続と戦略の一貫性」が大切であることを教えてくれます。 投資を通じて生活や心の安定を損なわないよう、自分の特性を理解し、無理のない仕組みを整えることが重要だと示しているのです。
(出典:Nature scientific reports DOI: 10.1038/s41598-025-17467-3)(画像:たーとるうぃず)
- ADHD特性の強さは実際の投資リターンと弱い「負」の関係を示しており、特性が強い人ほど成績がやや低くなる傾向がありました
- 実際に良い成績を出している人や、長期的に安定した投資リスクを取る人はADHD特性が低い傾向にありました。
- ADHDの特性は「取引回数は多いが成果は伸びにくい」というパターンとつながりやすい
重要なポイントです。
当たり前のことですが広告などを見ると、儲かるかもと魅力的に思えますが、投資には損をするリスクも大いにあります。
投資するならそれを忘れず、そして、自分の特性を気にしてみてもいいと思います。
(チャーリー)