イギリス、フランスに不法移民を送還する枠組みを発表、数週間以内に試験実施

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画像説明, 記者会見に臨むキア・スターマー英首相(左)とエマニュエル・マクロン仏大統領(10日、ロンドン)

イギリス政府は10日、英仏海峡を渡って小型ボートで到着した移民をフランスに送還する新たな試験的枠組みを、数週間以内に開始する方針を明らかにした。キア・スターマー首相が発表した。

この「1人受け入れ、1人送還」方式の合意に基づき、イギリスは到着した一部の移民をフランスへ送還する一方で、同数の難民を安全審査を経た上で受け入れるという。

スターマー首相は、フランスのエマニュエル・マクロン大統領の3日間にわたる国賓訪問の締めくくりとして共同記者会見に臨み、英仏のこの計画によって、小型ボートで英仏海峡を渡ろうとしても「無駄に終わる」と示すことになると述べた。

一部報道では、週あたり最大50人が送還される見通しとされているが、スターマー首相は具体的な人数については言及を避けた。

首相は、この「画期的な」計画が人身売買組織の「手口を打破する」助けになると述べ、計画が成功すれば規模を拡大する意向を示した。

また、不法移民は「世界的な危機、欧州連合(EU)の危機、我々両国にとっての危機だ」と強調した。

イギリス政府が統計を取り始めた2018年以降、小型ボートでイギリスに到着した移民は17万人を超えている。2025年上半期には約2万人が到着し、過去最多を記録している。

マクロン大統領は、この枠組みが送還人数以上に「抑止効果」をもたらすだろうと述べた。

一方でマクロン氏は、ブレグジット(イギリスのEU離脱)によってイギリスが不法移民対策を講じることが難しくなったと指摘し、イギリス国民は「問題の原因はヨーロッパだという、うそを信じ込まされた」と批判した。

スターマー首相とマクロン大統領は記者会見の中で、両国が以下の分野で協力を強化すると発表した。

・核抑止力の連携。攻撃を受けた場合には、両国が共同で核兵器を動員する体制を整える

・スーパーコンピューターおよび人工知能(AI)分野での協力強化

一方、小型ボートによる移民送還計画の詳細については、イギリスがフランスへ送還する人物の選定方法など、依然として不明な点が残されている。ただし、試験的枠組みは成人から開始される見通しだとされている。

フランスに居住し、イギリスへの移住を希望する者は、オンラインプラットフォームを通じて難民申請の意思を示せるようになる。

優先対象には、人身売買の被害を受けやすい国の出身者や、イギリスとのつながりを持つ者が含まれる予定だ。

記者会見後に発表された声明の中で、イギリス政府は今回の合意について、「欧州委員会およびEU加盟国の理解と、完全な透明性の元での法的審査を完了することを条件として」署名されると明らかにした。

一方で、スペインやイタリアなどの一部EU加盟国は、送還された移民がさらに自国へ移される可能性について懸念を抱くとみられている。EUの規則では、フランスに送還された個人は、最初に到着した欧州の国で難民申請を行う必要があるとされており、多くの場合、それは地中海沿岸の国々だ。

スターマー首相は、「万能薬はないが、団結した取り組み、新たな戦術、そして新たな決意によって、ついに形勢を逆転できる」と述べた。

送還の試験的枠組みに加え、同首相は不法就労に対する「取り締まり強化」を約束。人身売買業者が移民に約束する仕事が「もはや存在しなくなる」ようにすると語った。

政府は、配達員などの不法就労が集中する地域に対して、重点的な対策を講じる計画を明らかにしている。

マクロン大統領は、出身国および経由国における両国の「共同対策を強化する」と述べた。

スターマー首相は、試験的枠組みの発表に際し、「なぜ我々が誰かを受け入れなければならないのか、と疑問を抱く人々がいることは承知している。だからこそ、率直に答えたい」と述べた。

「我々が本当の難民を受け入れるのは、最も支援を必要とする人々に安息の場を提供することが正しいからだ」

「しかし、それだけではない。もっと実際的な理由もある。小型ボートの流入を止めるという課題は、我々だけで解決できるものではなく、同盟国に協力を拒む姿勢では乗り越えられない」

最大野党・保守党のクリス・フィルプ影の内相は、今回の合意について、「到着した不法移民のうち、送還されるのは17人に1人に過ぎない」と批判した。

フィルプ氏はさらに、「不法移民の94%を国内にとどめることになれば、何の効果もなく、抑止力にもならない」と述べた。

野党・リフォームUKのナイジェル・ファラージ党首は、小型ボートによる渡航は「国家安全保障上の緊急事態だ」と表現した。

また、イギリスがフランスの警備強化のために支払ってきた資金に言及し、「率直に言って、フランスは我々に金を返すべきだ」と語った。

ファラージ氏は、今回の試験的枠組みが機能するとは考えていないとし、「仮に英仏海峡を越えて移民を送還しようとしても、すぐさま欧州人権条約に直面することになる」と述べた。

労働党政権と、それ以前の保守党政権はいずれも、小型ボートによる移民の流入を抑えることに苦慮してきた。

保守党は、移民をルワンダに送る計画を提案していたが、法的な異議申し立てにより実施が遅れ、総選挙前に実現には至らなかった。

スターマー首相は、就任直後にこの計画は見せかけにすぎないものだとして撤回し、自分の政権は英仏海峡の渡航を組織する密航組織の取り締まりに重点を置くと表明している。

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