スイスが急ぐ第二の防空システム導入、フランスと韓国の一騎打ちか
スイスはパトリオット納入に関する米国やドイツとの協議が決裂して第二の防空システム導入が急務になり、スイスメディアのSolothurner Zeitungは9月4日「依然としてフランスのSAMP/Tが最有力候補だが、国防省内では韓国のL-SAMも有望な選択肢として検討されている」と報じ、フランスと韓国の一騎打ちになる可能性が高い。
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スイスは2021年6月末にパトリオットシステムの調達を決定して契約(約20億スイスフラン/2026年納品開始)を締結したものの、バイデン政権は2024年6月「ウクライナ向けの需要を優先するためパトリオット迎撃ミサイルの納品停止=納入順位を変更する」と、トランプ政権も2025年7月「スイス発注分のパトリオットシステム納入を延期し、これをウクライナもしくはウクライナを支援している国に優先供給する」と発表、スイスは有償軍事援助(FMS)契約の権利(自国の安全保障に影響を及ぼす事情があれば合意された武器取引の条件から逸脱することができる)を行使されたため、この決定を受け入れる以外に選択肢がなかった。
出典:Lockheed Martin
スイス発注分はウクライナにパトリオットシステムを移転したドイツ納入が決定しており、スイス国防調達庁のウルス・ローハー長官は新たな納入予定の見通しについて「2030年代初頭より前に納入されるとは考えていない」と、スイスが負担しなければならない納入遅延に伴う生産コストの上昇分についても「納入遅延に伴う追加費用は17億スイスフラン~43億スイスフランの間になる」と言及し、スイス国防省も「新たな契約を締結するまで何も確実なことは言えない」といい、スイス公共放送=SRFも9月4日「パトリオットシステムの調達コストは最良の場合でもほぼ2倍、最悪の場合は3倍になる」と報じている。
但し、スイス発注分のパトリオットシステムはドイツ発注の構成と異なる部分(オープンソースで確認できる違いはシステムを搭載する車両の大きさ)があり、ここに希望を見出して米国やドイツと協議を行っていたものの、ドイツは一刻も早くウクライナに移転した分を再取得することを優先したため交渉が決裂し、SRFも「ドイツとの取引は納入遅延に伴う追加費用を圧縮し、スイスへの早期納品を実現できるはずだったが、この交渉が失敗に終わったため追加費用はどんどん嵩んでいる」と嘆いている。
出典:Eurosam
フランスの軍事ブログ=Zone Militaireも9月11日「この状況は第二の防空システム取得をより切迫したものにするだろう」「政治的事情でイスラエル製の採用は可能性が低く、この入札は実質的にフランスと韓国の一騎打ちになるだろう」と報じ、これはスイス連邦評議会が2026年6月に「第二の長距離地上配備型防空システム導入に向けて国防省が交渉を開始した」と発表したことを指しており、こちらの状況も中々興味深いことになっている。
スイスメディアのAargauer Zeitungは2026年5月「スイス連邦国防調達庁が追加の防空システム調達を検討するため4ヶ国(ドイツ=IRIS-T SLX、フランス=SAMP/T、イスラエル=ダビデ・スリング、韓国=L-SAM)に情報提供を要請した。この調達で重視されるのは納期、コスト、性能、欧州での生産もしくはスイスにおける共同生産だ」と報じたが、スイス連邦評議会の発表に含まれていた交渉対象はフランス、イスラエル、韓国だけでドイツの名前は含まれていない。
出典:public domain
スイスの主要メディア=SRF、20Minuten、NZZなどは「イスラエルからの購入は政治的にほぼ不可能」「国際人道法を侵害している国から防空システムを買うことはできない」「イスラエル製を選べば左派がジェノサイドの棍棒だ(イスラエルのジェノサイドに加担しているという意味)と攻撃するだろう」と報じているため、消去法で「フランスのSAMP/Tと韓国のL-SAMの一騎打ちになる」という見方は妥当だと思うが、非常に面白いのは「SAMP/Tが必ず勝利するとは限らない」とZone Militaireと指摘している点だろう。
スイスメディアのSolothurner Zeitungは9月4日「本紙が入手した情報によれば国防省はフランスのSAMP/T、イスラエルのダビデ・スリングとバラクMX、韓国のL-SAMを検討中で、欧州諸国から高い評価を受けているSAMP/Tは依然として最有力候補だが、国防省内ではL-SAMについても有望な選択肢として検討されている」「この検討結果は9月18日までに連邦参議院に提出される見込みで、国防省は年末までに契約を締結したい意向だ」と報じている。
出典:Hanwha Aerospace
ポーランドメディアは韓国のL-SAMについて「L-SAMは最大射程は150km、迎撃高度は最大60kmという驚異的な性能を誇るものの実戦での使用実績が乏しい」「ただし、韓国は既に欧州域内で製造拠点を築いており、ポーランドが導入した複数の兵器システムで現地生産能力の構築を支援している」と評価しており、ドイツのラインメタルは2026年6月「LIG D&A製の中・長距離防空ミサイルシステムを組み合わせて全防空レイヤー対応のソリューションを提供する」「短距離防空をカバーする新型ミサイルをLIG D&Aと共同開発する」と発表している。
この中・長距離防空ミサイルシステムは「長距離をカバーするハンファ・エアロスペース製のL-SAM(LIG D&AがL-SAM向けの長距離地対空誘導ミサイル製造を担当)」と「中距離をカバーするLIG D&A製の天弓2=Cheongung-II/M-SAM II」である可能性が高く、韓国では防衛装備品の知的財産権は政府に帰属し、政府は国家機関を通じて防空システムの統合も担当しているため、政府の承認さえあればハンファ・エアロスペースとLIG D&AはL-SAMやM-SAMの主契約企業として振る舞うことができる。
出典:LIG Defense&Aerospace
ハンファ・エアロスペースもL-SAMをドイツに売り込む足場として2026年4月21日にHanwha Defence Deutschlandを設立し、手始めにドイツ国内で火薬生産(おそらくポーランド向け)を立ち上げてドイツ人雇用や産業界に貢献し、ドイツ軍にL-SAMを売り込みながら、EuroPULSに欠けている射程500kmの長距離攻撃能力の解決策として「Chunmoo向けのCTM-XをEuroPULSに統合してもよい」と提案するつもりだ。
スイス国防省がL-SAMについて「有望な選択肢」と考えているのは「納期の短さ」だけでなく「L-SAMの欧州生産に向けて具体的な話が動いている」という点も加味しているからだと思われ、ラインメタルもLIG D&Aと手を組むことで製品ポートフォリオに欠けていた中・長距離防空ミサイルシステム分野を埋めることができ、これを組み込んだ全防空レイヤー対応のソリューションを欧州諸国やNATO加盟国向けに売り込んでいくらしい。
出典:LIG Defense&Aerospace
スイスの第二の長距離地上配備型防空システム導入を巡って「フランスのSAMP/Tと韓国のL-SAMが一騎打ちになる」という構図はイラクの防空システム導入時の再演で、この時はSAMP/TにCheongung-IIが勝利した。
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※アイキャッチ画像の出典:Hanwha Aerospace