アングル:戦火のウクライナで銃規制緩和論、乱射事件受け
事件では、男がキーウのスーパーに人質を取って立てこもり、7人を射殺した。事件直後から、ソーシャルメディアには身を守るための銃の所持を認めるべきだとの投稿が相次いだ。
「今日テロリストに遭遇した人々が武装していたなら、これほど多くの犠牲者は出なかっただろう。拳銃の合法化こそが、この悲劇的な出来事から導き出される唯一の正しい結論だ」と、ウクライナの第3軍団副司令官のマクシム・ジョリン氏は通信アプリ「テレグラム」で述べた。
ウクライナでは民間人の銃器携帯は認められておらず、武装による自己防衛を規制する包括的な法律も存在しない。
だが2022年のロシアによる侵攻を受け、軍や警察が侵略者を撃退するための武器を市民に配布し、行列ができた。その際、戦争が終われば武器を返還するという条件が課されていた。
<法案は議会に>
22年に第一読会を通過した民間人の銃器所持に関する法案の共同起草者である与党所属のイゴール・フリス議員は、犯罪者が何とか武器を入手できる状態にあるのに対し、ウクライナの民間人には身を守る手段が全くないと主張。議員や内務省、専門家が近い将来、第二読会に向けた法案の準備について協議すると話した。
「ウクライナ国民が家庭での自衛用として短銃身の銃器を所有することを認めるべきだ」とフリス氏は述べ、法案が可決されれば1年後に施行されるべきだと付け加えた。
銃撃事件への警察の不適切な対応を巡る批判を受け、 クリメンコ内相は「国民には武装した自己防衛の権利があるべきだと考える」と述べた。
歴史的に見て、ウクライナ市民の大半は銃規制緩和を支持してこなかったが、戦争以降、その姿勢は変化しているようだ。22年半ばに政府が実施した170万人が対象の大規模世論調査では、回答者の59%が公共の場での拳銃携帯権を支持し、22%が全面的に反対。19%が銃の所持権には賛成だが、公共の場での携帯には反対だと回答した。
<銃乱射事件はまれ>
「正直なところ、一般市民の銃所持には強く反対だ」と、銃撃事件が起きたホロシイフスキー地区に住むダリーナさん(31)は話す。「米国で何が起きているか見れば分かる。銃の所持が認められていて、乱射事件が多発している」
米ルイジアナ州では19日、男が自分の子ども7人と別の未成年者1人を殺害し、その後、警察の追跡を受け射殺された。
米国とは異なり、ウクライナでは銃乱射事件は極めてまれだ。内務省によると、戦争前の21年には爆発物が使用されたものも含めた武器による暴力事件が273件あった。23年までに、その数は1万1000件以上に増加した。
銃規制緩和に反対する人々の中からは、市民の銃携帯が乱射事件が起きた場合の犠牲者軽減につながるのか、根拠が不明確だと指摘する声もあがる。
「実際に銃を使用し、その結果を理解することはおろか、銃を使うべきかどうかを判断しなければならない状況に一度も置かれたことのない人々から、(銃所持)賛成の意見が多く聞かれる」と、野党所属で議会防衛・安全保障委員会のロマン・コステンコ委員は話す。
豊富な実戦経験を持つコステンコ氏によれば、武器による自己防衛の事例を裁くウクライナの法制度がいかに不向きか、市民の理解が欠けているという。
多くの反対派は、銃器へのアクセスを拡大すれば、危害を加えようとする者たちがより容易に入手できるようになると主張している。
キーウの事件で容疑者の男は、登録済みの銃を所持していた。
「この男は銃所持を認められていた。なぜ、将来は善良な人々にのみ武器が与えられ、悪人から私たちを守ってくれるといえるのか」と、野党所属のインナ・ソブスン議員は述べた。
前出のフリス氏は、運転免許教習所のような厳格な規制の下で、銃所持許可申請者や銃器講習所に対する審査制度を整備すれば、そうしたリスクを最小限に抑えられると主張する。
同氏は、そのようなシステムを構築するには少なくとも1年間の移行期間が必要だと述べた。また、正当防衛の権利と限界を定義するため、刑法を改正することが極めて重要だと指摘した。
<流通する数百万丁の銃>
ロシアとの戦争が続き、心的外傷後ストレス障害(PTSD)を含めたトラウマが極めて深刻な社会において、拳銃の広範な流通を容認することがどのような結果を招くかは、多くの人々が懸念を表明している主要な論点だ。
賛成派は、戦争初期に国が武器を配布したことや、ロシアとの戦闘で数百万丁が使用されたことを踏まえ、銃はすでに広く流通していると主張している。
ウクライナ銃所有者協会の会長を務めるゲオルギー・ウチャイキン氏はロイターに対し、ウクライナ市民は最大700万丁の未登録小火器を所持している可能性があると語った。内務省は、銃の所有状況に関する統計情報の提供を求めるロイターの要請に応じなかった。
「憲法が自分の命を守る権利を保障しているなら、そのための手段を持たなければならない」と、拳銃の携帯権を支持し、長年その権利を求めてロビー活動を行ってきたウチャイキン氏は述べた。
同氏は、18日の銃撃事件で住民を守れなかったとして地元警察を批判した。事件では現場から逃げる警官たちの様子が撮影され、これを受けて警察署長が辞任し、刑事捜査も始まっている。
しかし、多くの議員は銃規制法の緩和に慎重な姿勢を示しており、急激な変更に反対している。
与党のオルガ・バシレフスカスマフリウク議員は、「悲劇の直後に感情に流されて銃を合法化してはならない」と述べた。
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