【東京ヴェルディ マッチレビュー】J1第37節・鹿島アントラーズ戦(11
14位の東京ヴェルディは、30日に味の素スタジアムで行われたJ1第37節で首位の鹿島アントラーズと対戦。9季ぶりのリーグ優勝が懸かる難敵相手のホーム最終戦を0-1の敗戦で終えた。
スタッツ
東京ヴェルディ 0-1 鹿島アントラーズ
【得点者】74分 松村優太(鹿島)
9本 シュート 9本6本 CK 4本14本 FK 16本53% ボール保持率 47%
1.26 XG 1.46
新井に代わって齋藤が復帰。山田がベンチ入り
鹿島戦スタメン東京V(勝点43)は前節、アビスパ福岡とのホームゲームを0-0のドローで終えた。今季17試合目の無失点試合を達成した一方、得点力不足の課題や進化を目指す、より支配的なフットボールという部分では良さを出しきれず。2試合未勝利で2シーズン連続のトップハーフフィニッシュを逃す結果となった。
その前節から3週間を経て挑むホーム最終戦に向けて城福浩監督は先発1名のみを変更。累積警告で出場停止の新井悠太に代えて、サスペンション明けの齋藤功佑を左シャドーで起用。前回対戦の染野唯月に続き林尚輝が古巣初対戦に挑んだ。
ベンチメンバーでは負傷明けの稲見哲行、唐山翔自が白井亮丞、川﨑修平とともにメンバー入りしたほか、長期離脱明けの山田剛綺が3月2日の第4節ガンバ大阪戦以来、約8カ月ぶりに20名のメンバーに戻ってきた。
対する鹿島(勝点70)は前節、横浜FCに2-1の勝利。3戦連続ドローをストップするとともに、13戦無敗(8勝5分)と好調を維持。2位の柏レイソル(勝点69)との勝点1差を維持する首位チームは、今節の勝利かつ柏の敗戦によって9季ぶり9度目の優勝を決められる状況でアウェイゲームに臨んだ。
鬼木達監督は前節の横浜FC戦から先発2名を変更。コンディション不良でベンチ外の小池龍太に代わって濃野公人を右サイドバックに、松村優太に代えてエウベルを左サイドハーフで起用。また、鈴木優磨を右サイドハーフ、2トップに田川亨介とレオ・セアラを並べるなど変化を加えてきた。
攻守に積み上げ示すも…
今季の味スタ開催では最多となる3万8168人の大観衆を集めた東京Vのホーム最終戦。立ち上がりはアウェイのゴール裏を真っ赤に染めたサポーターの強烈な後押しを受けた鹿島が、2トップを目掛けたロングボールを使って勢いを出した。
開始4分に左サイドの崩しから三竿健斗にミドルシュート、8分に小川諒也の左CKを植田直通がヘディングシュートを打たれるが、ここはGKマテウスが正面で冷静にキャッチ。直後には序盤からロングボールを効果的に収めた田川のポストワークを起点に、前回対戦の前半に2ゴールを献上したレオ・セアラに続けざまのミドルシュートを枠に飛ばされるが、DF林の冷静なシュートブロックなどで凌いだ。
理想的な試合の入りには至らずも、早い時間帯の失点を回避したホームチーム。15分を過ぎた辺りからは、攻守両面でこの中断期間に積み上げてきたものをピッチの上で表現していく。
守備では鹿島の4枚回しのビルドアップに対して、左シャドーの齋藤を染野と並べて2センターバックに当てて、サイドバックに対しては右シャドーの松橋優安、左はウイングバックの深澤大輝を縦スライドさせ、ディフェンスラインは左への横スライドで連動。キーマンである右の鈴木が流動的にポジションを取るなか、谷口栄斗と深澤が阿吽の呼吸で受け渡しながら好対応を続けた。
「良い守備から良い攻撃」でリズムを掴み始めると、23分には最初の決定機を創出。ハーフウェイライン手前の左サイドで鈴木からボールを奪いきった深澤が内側にドリブルで運びながら右のスペースに走り込む松橋へ斜めのスルーパスを通す。松橋はオーバーラップした内田陽介をオトリにクロスを選択すると、ファーでフリーの染野がゴール右隅を狙ったヘディングシュート。狙い自体は良かったものの、ややパワー不足のシュートはGK早川友基の好守に阻まれた。
最初の決定機は活かせなかったが、ここからビルドアップ、ボール保持の部分で進化を示す。3枚回しとボランチ1枚を落としての4枚回しの使い分けは変わらずも、「より大胆、より強気」を心がけるボランチの立ち位置の工夫、シャドーから適宜低い位置まで下りてボールを引き出す齋藤のトライアングルでボールを保持。さらに、最前線の染野が効果的に背後を見せたことで、相手ディフェンスラインが後ろに重くなって、松橋や森田、平川らがライン間でボールに絡むことが可能となった。
32分には左サイドに流れた齋藤からの横パスに反応した松橋が森田との絶妙なワンツーでボックス中央に侵入。右への冷静な切り返しでDFキム・テヒョンをかわしてゴール至近距離で右足を振る。確率的にファーを狙えばゴールの可能性は高かったものの、懸命に絞って足を出したDF小川が気になったか、ニア下を狙ったシュートはギリギリまで動かなかったGK早川のスーパーセーブに阻まれた。
以降も背後とへそを効果的に織り交ぜたボール支配で主導権を握り続けた東京V。ただ、良い形でのボール奪取、プレス回避からの勝負所のパスやクロスの質という課題は変わらず。40分には中盤でボールを引き出した齋藤のスルーパスに染野が絶妙なタイミングで抜け出してシュートに持ち込んだが、最後のシュートは枠の右に。結果的にはオフサイドもゴールネットに流し込んでいれば、VARでオンサイドの可能性もあった際どいチャンスを活かし切れなかった。
序盤以降は完全に自分たちのペースで進めたものの、アタッキングサードでのクオリティ、決定力という部分で鹿島を上回ることができず。手応えを実感しながらも、選手交代を含めた後半勝負を得意とする相手の特徴を鑑みれば、少しもったいない形で試合を折り返した。
勝負分けたひとつのミス
ゴールレスで迎えた後半、内容的に変化の必要がない東京Vに対して、鹿島は消えている時間が長かったエウベル、田川のいずれかに代えて松村。機能不全の2ボランチのいずれかを下げてボールの循環にテコ入れを図る可能性も想起されたが、鬼木監督は同じメンバーと並びを継続して臨んだ。
鹿島の戦い方自体にも明確な変化はなかったが、立ち上がりは互いにプレー強度が高く拮抗した展開に。そんななか、前半柏リードという情報を当然のことながら把握する鹿島は勝点3を奪いに行くべく、54分にはエウベルを下げて松村を同じ左サイドに投入。
ここから試合がオープンとなったなか、徐々に鹿島へ流れが傾き始める。小川の左CKをドンピシャのヘディングで合わせたレオ・セアラのシュートはピッチに強く叩きつけすぎたことで枠を外れたが、左の松村や田川を起点にアウェイチームが推進力を増していった。
そんななか、72分には両チームが揃って2枚替えを敢行。東京Vは攻守に出しきった齋藤、松橋の2シャドーを白井、川﨑に変更。対する鹿島は左足を痛めた田川に代えて荒木遼太郎、知念慶に代えて舩橋佑をピッチに送り出した。
すると、この交代直後に試合が動く。74分、ハーフウェイライン付近の右サイドでGKマテウスからの浮き球のフィードを胸トラップした内田がDF2枚に寄せられた状況で内側へのバックパスを選択。これが荒木へのプレゼントパスとなってカウンターに持ち込まれると、ボックス右のスペースでスルーパスを受けたレオ・セアラの決定的な右足シュートはマテウスのビッグセーブで阻止したが、浮き球の形でゴール前にこぼれたボールに対して、宮原和也と内田が少しお見合いのような形になったなかで、ボールへの執念を見せた松村に左足で押し込まれた。
先日の京都戦の土壇場で鈴木が見せた劇的同点ゴールを彷彿とさせる松村の執念のプレー自体は素晴らしかった。ただ、内田に関しては湘南ベルマーレ戦で似たような形から内側への不用意なパスをかっさらわれた経験があったなかでの再びのミス。加えてゴール前で松村に競り勝ってリカバリーできるチャンスでやりきれなかった点は、今後の成長への糧にすべく反省を促したい場面だった。
先制試合で圧倒的な強さを誇る鹿島相手に、今季ビハインドを引っくり返した試合はわずかに2試合のホームチーム。失点直後には森田の鮮やかな右サイド突破からボックス右でボールを受けた白井の鋭いシュートで反発力を示す。だが、以降は前からの圧力を強めたアウェイチームの守備に手を焼く。81分には苦し紛れのビルドアップを食われて、荒木の絶妙なヘディングパスでゴール前に抜け出されたレオ・セアラに左足シュートを打たれるが、これはシュートミスに救われた。
82分には内田を下げて吉田泰授、平川を下げて食野壮磨を同時投入。86分には相手FKを撥ね返してのロングカウンターから決定機。吉田、深澤の連続クロスを撥ね返されたこぼれ球に反応した谷口がペナルティアーク手前から鋭いグラウンダーのミドルシュートを放ったが、ゴール前の密集を抜けたシュートにGK早川も反応できなかったものの、ボールは無情にも左ポストを叩いた。
その後、88分には宮原を下げて約8カ月ぶりの戦列復帰となった山田を投入し、サイドハーフに白井と川﨑が入る[4-4-2]の攻撃的な布陣で同点を目指す。8分が加えられた後半アディショナルタイムには左を起点に途中出場3選手が絡んだ川﨑のシュート、山田のバイシクルシュートとフィニッシュの形を作り出したが、最後までゴールをこじ開けられぬままタイムアップを迎えた。
積み上げを証明する結果を
同時刻開催の柏の勝利によって目の前での優勝決定という屈辱は回避したが、ホーム最終戦での惜敗によって3戦連続無得点で3戦未勝利のチームは、横浜F・マリノスに得失点差で抜かれて15位に転落となった。
「見えないプレッシャーというかそういうものが非常にあったのかなというようなゲーム」と鬼木監督が試合後の会見で語ったように、鹿島が普段どおりの戦いを見せられなかった影響は間違いなくあったが、この数週間の積み上げが首位チームを苦しめたことも事実だ。
開幕2戦目での0-4の惨敗、そこからここまでに至るチームの苦しい歩みを見てきた者としては、監督・スタッフ・選手の献身を称えたい気持ちが強いが、「今の自分たちの力をすべて出して0-1で負ける。これがすべて」と語る指揮官を筆頭に通用した部分よりも、自分たちに足りない部分に目を向けている。
「ヴェルディに来てから、よりサッカーの素晴らしさみたいなのをより感じられています。本当に迷惑ばかりかけているので、周りの人に本当に支えられて200試合を達成できたので、感謝の気持ちが一番大きい」。この試合で節目のJリーグ通算200試合出場を達成した齋藤は前回対戦に比べて着実に力の差が埋まってきている実感を得ながらも、その証明には「結果」が必要だと語る。
「結局、結果がすべてなので、本当にそこに尽きるかなと思います。そこでの悔しさが込み上げますし、せっかく(内容が)良いものだとしても、結果が出なければそれが良いというふうに証明できないですし、だから本当にもっと成長しなきゃなと思っています」
優勝が懸かる鹿島相手に間違いなく“闘える”実感を得たが、これを単なる手応えではなく明確な自信に変えていくにはやはり結果が必要。アウェイで行われる今季最終節のガンバ大阪戦では4試合ぶりの得点とともに勝利で、チームが成長していることを証明したい。
~古巣初対戦を終えて~
2023シーズンにブラウブリッツ秋田から完全移籍で加入し、自身初挑戦となった2024シーズンのJ1では序盤戦以降にディフェンスラインの中心選手の一人として6位躍進に貢献した千田海人。今季の前半戦も引き続き3バックの中央で主軸を担っていたが、今夏の移籍市場で鹿島へ旅立った。
加入後は天皇杯で新天地デビューを果たした一方、リーグ戦ではベンチ入りがありながらも出場機会はなし。今回の古巣初対戦は鹿島ベンチからかつての同僚のプレーを見守る形となった。
試合後、同じく古巣対戦で痛烈な恩返しゴールを決めた松村優太、三竿健斗とともに緑のゴール裏へ挨拶したベテランDFは「複雑ですね」と正直な気持ちを吐露。それでも、試合後のミックスゾーンで厳しい現状、両クラブの違い、東京Vへの想いを短い言葉で語ってくれた。
――自身の現状
「試合に出られていなくても今こういう状況のチームに、この優勝争いに関われているというのはすごい幸せなことですし、それと同時にその舞台で出られているのがベストなわけで、そこに出られていない悔しさもあるので、そこも複雑な感じですね」――ベンチから見た試合の感想「もちろん(今日の鹿島は)苦しんでいたと思います。いろんなメンタル面でのプレッシャーとかもあったかもしれないですけど、それにしてもヴェルディがこのJ1で積み上げてきたものというのは前半を見ていても感じましたし、簡単じゃなかったですよね」
――ゴール裏への挨拶を終えての気持ち「出ていく時に挨拶ができなかったので、ひとつお世話になった気持ちじゃないですけど、それを伝えたいという思いはずっとありました。そこと、(試合出られていない現状もあって)複雑でしたね。やっぱり温かいホームの雰囲気も感じますし、やっぱりヴェルディのゴール裏はすごいですよね。J2の時から見ていたので特に…」
――両クラブの違い「(優勝争いという状況が)そうなのか、鹿島が独特なのかというところはありますけど、ヴェルディにはヴェルディの良さがありましたし、鹿島には鹿島の良さがあります。今この順位にいる理由も感じられたりもするので、そこは細部にこだわるところ。決してヴェルディがやっていないというわけじゃないですけど、そこに対するベースの考え方はひとつクオリティというか、レベルが高いのかなと思います」