F1分析|マクラーレンがF1カタールGPの7周目にピットストップしなかったのは、戦略失敗だったのか? 実はレッドブルの方がリスクが大きかった可能性も

 F1カタールGPの決勝レースは、レッドブルのマックス・フェルスタッペンが勝利。あとは最終戦アブダビGPを残すだけとなったが、ランキング首位のランド・ノリス(マクラーレン)が408ポイント、フェルスタッペンがランキング2番手に上がって396となり、その差は12ポイント。392ポイントのランキング3番手にマクラーレンのもうひとり、オスカー・ピアストリもつけており、どんな結末となるのか、いよいよ分からなくなったといえよう。

 シーズン前半には、こんな大激戦になるとは誰が予想しただろうか?

 さてその最大の原因は、F1カタールGPの決勝レース7周目にセーフティカーが出動した際にマクラーレン勢がピットストップせず、逆にフェルスタッペンがピットストップしたことにあるのは明白。この結果、フェルスタッペンが優勝、ピアストリが2位、ノリスが4位となったことで、前述のポイント差になったわけだ。

 この判断についてマクラーレンのアンドレア・ステラ代表は次のように語っている。

「他の全員がピットするとは思っていなかった。当然、他が全車がピットインするなら、自分たちもピットに入るのが正しい判断になる」

 一方でレッドブルの戦略を司るハンナ・シュミッツも、次のように語る。

「みんな『本当に大丈夫?』という感じでした。『本当にピットインさせるのか?』と尋ねられたので、『私はそうすべきだと思います』と答えました」

■どちらの戦略も、失敗とは言い難い

 つまりマクラーレン陣営もレッドブル陣営も、この7周目の判断はどちらが正しかったのか分かっていなかったということであろう。

 結論から申し上げれば、どちらの判断も正しく、どちらの判断も間違っていたということになるだろう。そして、どちらかといえばレッドブルに”運”が向いたというだけではなかっただろうか?

 いずれの戦略にも欠点があった。マクラーレンの”ステイアウト”戦略には、最小限のタイムロスでピットストップを行なうことができるチャンスを逃すという欠点があったのだ。一方レッドブルが採った戦略には、その後の戦略が固定されてしまい身動きが取れないという欠点があったのだ。

 それぞれを紐解いていこう。

 今回のカタールGPは、通常走行時にピットインすることで失うタイムは26.5秒と推定されていた。一方でセーフティカー中にピットストップすることができれば、15.5秒失うだけで済む計算だった。つまりセーフティカー中にピットストップしなかったマクラーレン勢は、他車に比べて約11秒分のタイムを無駄にしたということになる。現代の超僅差のF1では、この11秒という差は実に大きい。これがマクラーレンが採った戦略の欠点であり、実際これが原因でレースに敗れたわけだ。

 一方でレッドブルの欠点。今回のカタールGPは、タイヤの摩耗に懸念があったため、各タイヤセットで走行できる最大周回数が25周に制限されていた。周回数は57周だったため、この最大25周という規定を考慮してどうレースを組み立てるかというところが非常に重要であった。

 ただセーフティカーが出動したのは7周目。ここでピットストップしてしまえば、残りの50周を25周ずつ割るしか選択肢はない。つまり走行プランが完全に縛られてしまうことになったため、何かイレギュラーがあっても対応できない状況に追い込まれてしまったわけだ。

 たとえば7周目以降25周目までに2回目のセーフティカーが出て、32周目以降に3度目のセーフティカーが出ていたらならば、マクラーレン勢が圧勝することになっていたかもしれない。

■レッドブルの縛られた戦略

F1カタールGP決勝ギャップ推移分析

写真: Motorsport.com Japan

 こちらのグラフは、F1カタールGP決勝レースにおける、上位勢のギャップの推移を折れ線で示したものである。

 これを見ると、21周目もしくは22周目頃(グラフ赤丸の部分)にセーフティカーが入っていれば、ピアストリはそこでピットストップを行ない、フェルスタッペンとサインツJr.の間でコースに復帰することができたはずだ。ノリスはアンドレア・キミ・アントネッリ(メルセデス)の後方でのコース復帰になっただろうが、タイヤライフの差により、オーバーテイクは比較的容易だっただろう。

 もしこのタイミングでのセーフティカーがなかったとしても、32周目以降、42周目(グラフ青丸の部分)までの間にセーフティカーが出ていれば、ピアストリはフェルスタッペンの約7秒程度後方でコースに復帰できたはずであり、実際のレース終盤のペース差を考えれば、少なくともコース上で激しいバトルが繰り広げられる展開になっていただろう。

 ノリスも、少なくともサインツJr.の前でコースに復帰したのは間違いなく、最低でもマクラーレンは2-3位を確保していたはずだ。

 ライバル勢はこうしたマクラーレンに戦略面で対処することはできず、されるがままの状況だった。つまり、その後セーフティカーが出なかったという”運が良い”展開となっただけであり、実はマクラーレン勢よりも深刻なリスクを負っていたのはレッドブル陣営だったような気がしてならない。もしマクラーレン勢だけでなく、もっと多くのマシンがステイアウトを選択していたら、フェルスタッペンとて中団グループのマシンの隊列に埋もれてしまい、下位に沈んでいた可能性もある。

 そういう意味では、マクラーレンを「戦略ミス」と断罪するのは、あまりにも酷であろう。強いて言うならば、2台ともにステイアウトさせるのではなく、1台のみステイアウトさせ、1台だけはピットインさせるという戦略も可能だったかもしれない。しかしながら、チームとして勝てばいいという状況だったならまだしも、ピアストリとノリスは今季のタイトルを争っている間柄……そこでふたりの戦略を分けてしまえば、チーム内に火種を抱えることになってしまっていたはずだ。

■レースペースはレッドブルに軍配?

F1カタールGP決勝レースペース分析

写真: Motorsport.com Japan

 さてもうひとつ気になることがある。それはレースペースである。

 こちらのグラフは、レース中の上位勢各車のペース推移を折れ線で示したものだ。ご覧いただくと、オレンジ色で示されたマクラーレンふたりの折れ線(グラフ赤丸)は右肩下がりもしくは横ばい……つまり、タイヤのデグラデーションが比較的大きかったということだ。戦略に幅があるはずなのに、それをまったく活かせていないということになる。

 一方で紺色で示したフェルスタッペンのペースは右肩上がり(グラフ青丸)。つまりマクラーレン勢とは対照的にデグラデーションの傾向があまり見られないということだ。戦略が完全に固定され、タイヤ1セットで25周を走り切らねばいけなかったにもかかわらずだ。

 これを考えると、決勝レースでのパフォーマンスは、フェルスタッペンの方にあったということ。7周目も含めてセーフティカーが出動していなかったなら、僅差の大激戦が繰り広げられたかもしれない。

 最終戦アブダビGPは今週末。ノリスは表彰台を獲得した段階で無条件でタイトル獲得が決まることになる。また、フェルスタッペンとピアストリの前でフィニッシュしたとしても、彼のタイトル獲得が決まる。そういう意味では、ノリスの絶対的優位は揺るがない。

 しかしノリスが表彰台を逃し、フェルスタッペンが優勝すれば、フェルスタッペンの5年連続での載冠が決まるということになる。

 レッドブル勢としては、ここで重要になるのはもう1台のマシン、角田裕毅の存在だ。角田が表彰台を獲得すれば、フェルスタッペンの逆転チャンピオンの可能性がひとつ高まることになる。その期待がかかるのは間違いないだろう。

 レッドブルのローレン・メキーズ代表は、カタールGP決勝の終了後に、次のように語っている。

「ユウキが100%の状態であることが非常に重要になる。彼は力強い週末を過ごした。そしてアブダビでも力強い週末を過ごす必要がある。すべてが重要になるからね」

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