米大統領の代理人ウィトコフ氏、外交手腕に世界が注目-政権で存在感
ホワイトハウスの西棟ウェストウイングにある椅子に立てかけられている写真は、ニューヨークの不動産ビジネスマン、スティーブ・ウィトコフ氏の人生が急展開したことを示している。
同氏がアンドルーズ空軍基地に自家用ジェット機で降り立ったところを捉えたこの写真に一緒に写っているのは、麻薬関連容疑で2021年からロシアで拘束されていた米国人のマーク・フォーゲルさんだ。ウィトコフ氏はクレムリン(ロシア大統領府)と交渉し、フォーゲルさんの解放を実現させた。
トランプ大統領の中東特使に指名され、大統領補佐官を務めるようになったウィトコフ氏(67)の役割が政権内で急拡大している。
同氏はイスラエルとイスラム組織ハマスのデリケートな停戦交渉を支援し、パレスチナ自治区ガザを巡り物議を醸したトランプ氏の復興構想の推進を図るトップ会合について協議した。
ロシアのプーチン大統領と先月会談したウィトコフ氏は、再びプーチン氏と会う予定。米国はロシアとウクライナの戦闘停止を目指している。これまで外交経験のなかったウィトコフ氏が広範囲に及ぶ大きなリスクを伴う重責を担う。
高級不動産を扱うウィトコフ・グループを率いる同氏は、資金力のある国際的な投資家から多額の資金を確保し、不動産を販売してきた。トランプ氏のディール(取引)を重視する世界観と一致する経歴だ。
しかし、政権内での高い地位は、トランプ氏の財務を巡り生じる疑問と同様、外交で重要な役割と自身のビジネスをどう分けるのかとの疑念を生じさせる。
ウィトコフ氏はウェストウイングの執務室からインタビューに応じ、利益相反の可能性を回避するため、不動産会社と暗号資産(仮想通貨)投資から撤退し、保有資産を息子らに移転していると説明。自身の評価について、和平交渉と人質解放の「結果で判断してほしい」と語った。
外交の主導権
1980年代からトランプ氏と親交のあるウィトコフ氏を、各国首脳は米大統領の重要な代理人として見なすようになりつつある。
米国が欧州との歴史的な同盟関係を放棄するのではとの懸念が高まる中で、ウィトコフ氏の活躍を受け一部の欧州当局者はトランプ氏に関する見解をウィトコフ氏に求めるようになった。事情に詳しい関係者が明らかにした。
ウィトコフ氏の存在感が増し、トランプ氏の「米国第一」主義のビジョンを国外で推進するようになったことで、ワシントンの伝統的な権力構造が揺らいでいる。ルビオ国務長官と並んで、あるいはルビオ氏を押しのけ、外交の主導権をウィトコフ氏が固めているためだ。
ウィトコフ氏の資産を巡る状況は、少なくとも1つのケースでトランプ氏と重なる。ウィトコフ氏の親族らはトランプ氏の分散型金融(DeFi)プロジェクト「ワールド・リバティー・ファイナンシャル」に数千万ドルを投資している。
ウィトコフ氏はまたフロリダ州マイアミ近郊に入会費135万ドル(約2億円)の「シェルベイ」というリゾートを所有。トランプ氏が同州パームビーチに持つ「マールアラーゴ」と同等クラスの高級会員制クラブだ。
不動産や仮想通貨との結び付きや、それがたとえ息子たちの世代に引き継がれたとしても、公平性は保たれるのかという懸念は残る。
オバマ政権下で国務省の法律顧問を務めたハロルド・ホンジュ・コー氏は、「特使の役割を利用して、政策を自分に利する形にゆがめていないことをどうやって保証するのか」と指摘した。
ウィトコフ氏は今、自分の人生で最も「価値のある」仕事をしていると考えている。「私は大統領に『あなたは私に人生最大の祝福を与えてくれた。なぜなら、私は自分自身以上の大きなことを成し遂げられるからだ』と伝えた。それが私の特権だ」と述べた。人生最大の祝福には、子どもを持てたことも含まれるという。
外国からの資金
ウィトコフ氏の話では、不動産業界に参入したのは、法律事務所ドレイヤー・アンド・トラウブの弁護士として初めてトランプ氏に会い、同氏のような人物になりたいと思ったからだ。そして、トランプ氏同様、相当な財産を築いてきた。
ウィトコフ氏の資産の大半は、1997年に自身が設立したニューヨークの不動産会社ウィトコフ・グループに関連するものだ。ブルームバーグ・ビリオネア指数は、資産総額を約7億8200万ドルとはじいている。
だが、ウィトコフ氏の財務に詳しい関係者によれば、資産は少なくともその倍はある。トランプ氏の息子たちが同氏の名前を冠した不動産会社を経営しているように、ウィトコフ氏の息子アレックス氏が現在ウィトコフ・グループの日常業務を仕切っている。
外国からの資金が長年にわたり同社の強化に寄与してきた。ウィトコフ氏がニューヨーク市マンハッタンの「パークレーンホテル」の買い手を探していた2023年、カタールの政府系ファンド(SWF)カタール投資庁が6億2300万ドル近くで同ホテルを購入した。
不動産ニュースのリアル・ディールによると、ウィトコフ氏は約10年前、中国の投資会社タイピン・アセット・マネジメントからの株式2億2900万ドルを利用し、マンハッタンのトライベッカ地区にあるマレーストリート111番地を開発したグループの一員だった。
そのグループには、ウクライナ生まれの億万長者レン・ブラバトニク氏が設立したニューヨークに本社を置くアクセス・インダストリーズも加わっていた。同氏は米国と英国の市民権を持ち、404億ドルの資産を保有。ソ連崩壊後のロシアでアルミニウム事業の民営化をきっかけに最初の資産を築いた。
ウィトコフ氏とブラバトニク氏はマンハッタンのウェストチェルシー地区にある物件「ワンハイライン」で協力し、ウェストパームビーチのプライベートゴルフクラブと高級リゾートでも手を組んだ。
ウィトコフ氏と一緒に仕事をした関係者によれば、同氏は交渉のテーブルでは誰もが勝利したと感じられるように努めているという。そうした姿勢は2月後半にウクライナでの戦争終結を巡りロシア政府高官と会合を開いた際にも見られた。
欧州とウクライナの政府高官が協議から排除されたことに憤慨する中で、ルビオ氏とウォルツ大統領補佐官(国家安全保障問題担当)は、合意の可能性について慎重な姿勢を見せた。
一方、ウィトコフ氏は、会合は「前向きで、明るく、建設的」で、「この会合後、これ以上の結果は考えられなかった。極めて確かなものだった」と評価した。
ウィトコフ氏は、フォーゲルさん解放につながったプーチン氏との会談のために自身のプライベートジェットでロシアに飛んだことで、この会合への道筋をつけた。
燃料代は自腹だったと強調したウィトコフ氏によると、トランプ氏からはプーチン氏と「良い会話」をするようにと言われたという。結局、会談は3時間半続いた。
アクセス・インダストリーズの不動産事業責任者ジョナ・ソネンボーン氏はウィトコフ氏について、「私がこれまでのキャリアで出会った誰よりも、ディールをまとめる方法をよく理解している」と述べた。「取引において、さまざまな人が何を必要としているかを理解する彼の能力は本当に重要だ」という。
原題:Trump’s Go-To Broker Takes NYC-Style Dealmaking to World on Edge (抜粋)