アレルゲンを抜く「除去食」で新たなアレルギーになる恐れ、特にリスクが高い人は?(ナショナル ジオグラフィック日本版)
皮膚炎の子どもを持つ親から、「クリーンイーティング」のためにグルテンや乳製品を断つインフルエンサーまで、アレルギーの原因となる食材(アレルゲン)を取り除く「除去食」を実践している人は多い。 「病気を生む顔」になる食べ物とは 画像5点 しかし、研究によれば、特定の食物を除去すると、その食物を再び摂取したときの免疫系の反応が微妙に変化する可能性があるという。特に皮膚炎や食物アレルギーなどがある人は、耐性が失われることにより、命にかかわるアナフィラキシーを含め危険な反応を起こす恐れがある。 除去食が浸透するなかで、このリスクはしばしば見落とされている。米疾病対策センター(CDC)傘下の米国立健康統計センター(NCHS)によれば、グルテンフリーを含む特定の食事法を実践している人の割合は米国でかつてないほど増えている。米非営利団体の国際食品情報協議会(IFIC)の調査でも、その割合は2024年に54%と、2019年の38%から大幅に増えた。 しかし、免疫系にとって、食物のタンパク質にさらされ続けることは耐性の維持につながる。その食物がメニューから長期にわたって消えると、耐性が失われてしまう可能性がある。 このような変化がなぜ、どのように起きるかを理解することは、除去食が助けになるか、リスクになるかを判断するうえで重要だ。
「腸はうらやましいとは言い難い役割を担っています」と米エモリー大学アトランタ小児医療センターのアレルギー・免疫部門長で、食物アレルギープログラムの責任者を務めるブライアン・ビッカリー氏は話す。「絶え間なくやってくる環境刺激には危険なものも有益なものもありますが、それらを識別し、対応しなければならないためです」 ほかのどの部位より多くの免疫リンパ球を持つ消化管は毎年、何兆もの微生物と30キロ以上の食物タンパク質と接触している。そして、無害な食物や善玉菌は無視し、有害な侵入者から体を守っている。 このバランスは「経口免疫寛容」によって保たれている。これは、口から摂取した食物タンパク質への免疫反応を積極的に抑えるしくみだ。その結果、食物アレルギーなどの有害な反応が防がれている。 その根底にある免疫のメカニズムはまだ解明されていないが、近年の研究では、腸内で食物抗原をとらえ、近くのT細胞に身を引くよう指示する特殊な抗原提示細胞が、プロセスの起点となっていることが示唆されている。このシグナルにより、食物タンパク質に対する免疫反応を抑える抗原特異的な制御性T細胞がつくられる。 「腸ははじめに耐性ができるのに重要な役割を果たしています」と米マサチューセッツ総合病院小児科食物アレルギーセンターで食物アレルギーの啓発、教育、予防を担当するマイケル・ピスティナー氏は話す。「まだアレルギーがない場合、早い時期からさまざまな食物を摂取し始めることで、耐性を高め、乳児の食物アレルギーの発症を防ぐことができます」 その保護は子ども時代で終わるものではない。さまざまな食物を摂取し続けることで、生涯にわたって経口免疫寛容を維持できる。 経口免疫療法(アレルゲンの食物を徐々に増やしながら口から摂取する療法)を受けた食物アレルギー患者を対象とする研究では、多くの場合、アレルギー症状が出ない状態を保つには継続的な摂取が必要なことが明らかになっている。一方、除去食が経口免疫寛容を損ない、アレルギーを発症しやすくなるという証拠もある。