トランプ氏の「解放の日」関税差し止め:識者はこうみる

 5月28日、米国際貿易裁判所は、トランプ大統領が「解放の日」と位置付けて4月2日に発表した貿易相手国に対する関税を差し止めた。写真は米国国旗と「関税」の文字、トランプ氏の人形の影。4月撮影(2025年 ロイター/Dado Ruvic)

[東京/シンガポール 29日 ロイター] - 米国際貿易裁判所は28日、トランプ大統領が「解放の日」と位置付けて4月2日に発表した貿易相手国に対する関税を差し止めた。対米貿易黒字を抱える国々からの輸入品に全面的に課税することは大統領の権限を逸脱しているとの判断を示した。

市場関係者に見方を聞いた。

◎リスクオンは一時的、不透明感拭えず

<ナティクシス(香港)のシニアエコノミスト、ゲイリー・ン氏>

株式の一時的なリスクオンを促し、債券利回りを低下させるだろう。しかし、これで関税問題が終わったわけではない。法廷闘争は続き、トランプ氏が世界の貿易秩序を再構築する方法を見いだそうとしている事実にも変わりはなく、不透明感は拭えていない。

◎市場心理にややプラス、政策巡る不確実性残る

<サクソ(シンガポール)のチーフ投資ストラテジスト、チャル・チャナナ氏>

  今回の裁判所判断は関税に関する最終決定ではないものの、当面の懸念を払拭するものだ。トランプ大統領には依然として上訴や、より限定的な特定分野を対象とした関税を課す余地があるため、政策上の不確実性は依然として残る。

  市場は既に解放の日の関税ショックを乗り越え、交渉に期待している。今回の判断はセンチメントにとってわずかにプラスとなり、成長見通しに対する最も弱気な見方を排除するのに役立つものの、不確実性を払拭するものではない。企業は依然として明確な見通しを持っておらず、政策の方向性は依然として流動的だ。

  市場ではドル安など、関税に絡んだ動きの一部が解消される可能性がある。金、ユーロ、円、新興国通貨は下落する可能性がある。景気後退懸念が和らぐにつれ、短期国債の利回りは上昇するとみられる。

◎状況は流動的、持ち高を一方向に傾けにくい

<OCBC(シンガポール)の外為・金利戦略責任者、フランシス・チュン氏>

判決を受けて、一時的にリスク選好度が高まり、株式先物、債券利回り、ドルが上昇した。債券とドルにとっては、直近の勢いを維持する上で都合の良いタイミングとなった。ドルはすでに反発の兆しを見せていたし、長期債利回りにも上昇圧力がかかっていた。

だが、関税や通商関係を巡る状況は依然として流動的だ。投資家は、どちらか一方にポジションを大きく傾けることをためらうのではないか。

◎円金利反応は一時的、市場の焦点は国内財政

<関西みらい銀行 ストラテジスト 石田武氏>

まずは米国際貿易裁判所がどれくらいの権限を持っているかを確認する必要があるが、トランプ関税を巡っては、90日間停止されたとのニュースで米国の金利と株価が元の水準に戻った一方、為替だけが戻れずドル円にも出遅れ感があったことから、けさは為替が最も反応している。逆に、既に関税発動前の水準をほぼ回復している金利と株は、今回の(差し止め)ニュースで追加的に動く必要がない状況だ。

足元の米金利は関税よりもむしろ、財政リスクやタームプレミアムが主な手掛かりとなっており、確かにけさは(米10年債利回りがアジア時間の取引で)上昇して始まっているが、ちょっと反応して終わりかとみている。

円金利については、米金利も少し上がりドル円も上がっているということで、やや売り先行でスタートしたが、一時的だろう。日本に関しても国債発行減額の観測や消費減税議論の行方など国内の財政面の問題で相場が上下動している。

◎危険に満ちた状況、法廷闘争に 政権が判決無視も

<キャピタル・ドット・コム(メルボルン)の金融市場シニアアナリスト、カイル・ロッダ氏>

これは非常に大きなニュースだ。トランプ大統領が関税を導入するために使用した緊急権限は、以前から憲法違反であると指摘されてきた。関税を制定する権限は議会にあるとされているからだ。

これにより、法廷闘争が始まり、恐らく最高裁判所で決着がつくだろう。危険に満ちた状況だ。政権が裁判所の判決を無視する可能性があり、緊張が高まっているこの時期に米国の制度にさらなる負担がかかる恐れがある。

だが、市場の望み通りの展開になれば、裁判所が関税の発動を遅らせ、その後、関税を却下する可能性がある。そうなれば非常に大きなリスクが1つ取り除かれ、間違いなくリスク選好度が高まる。

◎ドル高/円安の持続性に疑問、米政権には打撃

<三井住友銀行 チーフ為替ストラテジスト 鈴木浩史氏>

ヘッドラインをみると「差し止め」という言葉が躍っているが、米国際貿易裁判所の判断であり、これだけで完全にストップするわけではなく、米政権側も控訴に動いている。すぐに落としどころを見いだせるわけではない。瞬間的にはドル高/円安で反応があるだろうが、どこまで持続的なものになるかは疑問だ。

トランプ政策には打撃となり、関税に対するトーンが強まりにくくなったことを受けて、関税の悪影響を懸念したドル安/円高は和らぐ一方、市場もどこまで実効性があるのかはかりかねている動きになっている。

◎トランプ氏の出方や財政問題にも目配り必要

<松井証券 シニアマーケットアナリスト 窪田朋一郎氏>

関税がかけられないとなれば、これまでの懸念が払しょくされるため、ヘッドラインへの反応は大きくなりそうだ。ただ、米連邦裁判所が本当に止められるのかは見極めが必要になる。今後はトランプ米大統領側の反論も予想され、しばらくはヘッドラインに振らされる可能性がある。

関税がストップするとなると、税収見込みが大きく減退する。減税法案の議論が進む中で財政問題につながるリスクもある。金利が上昇を強めるようなら、株安に転じる可能性もある。

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