「仕事の相談相手にオフィスへ連れ込まれ、レイプされました」男性からの性的暴行で“精神崩壊”…女性起業家が語った、今も苦しむ被害のトラウマ
起業と同時に新しい市場やビジネスモデルを生み出そうとするスタートアップ業界で、女性起業家の多くがセクハラ被害を受けているという。
自身もセクハラを受けた経験があり、被害者のための団体「スタートアップユニオン」を立ち上げた松阪美穂氏に、セクハラに苦しむ中でのレイプ被害、深刻な二次被害、いまだに続くフラッシュバックなどについて、話を聞いた。(全3回の2回目/3回目に続く)
セクハラ被害者のための団体「スタートアップユニオン」を立ち上げた松阪美穂氏 ©山元茂樹/文藝春秋◆◆◆
「ビジネスの相談に乗ってもらっていた」人から性被害に遭った
ーー2019年に多くのセクハラ被害を受けただけではなく、2021年にはレイプ被害にも遭ったそうですね。
松阪美穂(以下、松阪) 立て続けにセクハラされたことで体調を崩してしまって、スタートアップから完全に離れていて。それでも「もう1回頑張ってみよう」と思って。まだ苦しかったけど、動き出したんです。
ベンチャーキャピタルや投資家を回ったことでセクハラを受けたので、その方法は取らないようにしようと。それで、日本政策金融公庫から融資を受けることにしたんです。その場合でも事業計画書を書くんですけど、その書き方をアドバイスしてくれると言ってくれた人がいたんです。
ーーその人から被害を?
松阪 そうです。経験者からアドバイスをもらったほうが融資金額が高くなることや、そのときすでに私が業界から孤立していたこともあり、その人にビジネスの応援をしてもらえるなら良い話かなと思いました。
それにその人は、以前から「女性起業家を応援しているんだ」と言っていて。女性起業家からも実際にそういった話を聞いたことがあったので「手伝ってくださるのであれば、お願いします」と。
その後、昼間にカフェで何回か会って、コーヒーだけ飲んでビジネスの相談に乗ってもらっていました。「この人は大丈夫な人だ」と安心していた頃にアポを取って会ったら、レイプされたんです。
レイプ被害後、加害者から来た連絡(写真=松阪美穂さん提供、プライバシー保護のため一部加工しています)ーーどこかへ連れて行かれて被害に。
松阪 その人のオフィスだと言うので行ったら、別邸みたいなところだったんです。住居兼オフィスといった感じで入った瞬間に「仕事をする場所じゃないな」っていうのがわかるんですね。
ソファが、オフィスに置くようなものではなく、ほんとにくつろぐようなソファで。完全に、そういう目的だったんだなって。これは後で知ったのですが、某ジャーナリストも指摘しているように意外と“あるある”なケースなんです。
被害に遭ったあとは、もう自分自身が壊れてしまって。我を忘れて大泣きしながら逃げて、数時間悲鳴のように泣き続けたことは覚えています。レイプのショックだけでなく、今までのセクハラ被害や夢を失った悲しさなどが全て重なって、感情が爆発してしまいました。
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ーー警察に被害届を?
松阪 やっと気力を取り戻して動き出した矢先に、そういう被害に遭って、本当に動けなくなってしまったんです。それと2019年から2021年までの間に、加害者から悪い噂を流されたり、いろんな嫌がらせをされたことで人脈がゼロになってしまったんですね。
そうしたなかで、話を取り付けることができたのが、その人だけだったんです。唯一の人脈まで失うのが怖くなってしまって、それで黙ってしまいました。
ーー被害後も、その人物が近づいてきたりは。
松阪 電話が掛かってきたり、「大丈夫かい?」ってメッセージが送られてきて。SNSをフォローされたりもしました。
私は最近になってようやく起業家の集まりに呼ばれるようになってきたのですが、行ったら、その人がいて。起業家の世界は狭いので、そういうことがあるんです。また、向こうの人脈を使って、私に圧力を掛けてくるみたいなところもあるので。
ーーセクハラしてきた人たちは、松阪さんの情報を共有しているとか?
松阪 2019年のスタートアップのときに私に会ってセクハラした人たちが、後々になって一緒に仕事をするようになったんですよ。いじめもそうですけど、セクハラの加害者同士も一致団結するんです。これは他の被害者の方も同じことを言っていました。
もし、その人たちの間でセクハラ加害が常態化しているとしたら、手を組んで身を守ろうとするところがあるのかもしれないなって。
「精神的に問題を抱えている」と噂を流され…深刻な二次被害も経験
ーー力を合わせて、口封じ的なことをするのですか。
松阪 私はマーケティングの会社をやりながらスタートアップに向けて動いていたんですけど、急にクライアントと連絡がつかなくなったということがあって。たぶん、良くない噂を流されたんだろうなと。
ーー流されたと思う噂とは、どんなものですか。
松阪 私が失踪したとか、精神的に問題を抱えているとか、体を売っているとかそういったことを言われていたらしくて。
また、そういった噂が二次被害にも繋がるんです。もちろん、セクハラ被害のダメージは大きくて重いんですけど、二次被害もかなり深刻なので。もちろん被害の感じ方は人それぞれなのですが、他の被害者の方と「二次被害のほうが辛く感じるときもある」といった話をすることもあります。
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ーー具体的に言うと。
松阪 私の場合もそうですけど、セクハラの被害者が周りを敵に回す形になってしまう。加害者に同調する人が多いんです。被害者なのに、敵を作りたくないのに、平和に生きたいのに、敵対関係が生まれちゃうんですよ。
被害者のことを「嘘をついている」「あいつ、ヤバいぞ」とみんなで潰そうとしたり。そうした二次被害は加害する側の数が圧倒的に多くなるので、ひとつひとつ対応できないんですね。民事で戦うにしても数が多いから、全員に内容証明を送ったりするのは難しいし。
私は二次被害もひどかったので、ほんとになにもできませんでした。2020年からはコロナ禍もありましたし。友人がものすごく心配してくれて、いろいろ助けてくれて。女性起業家の友達がアルバイトで採用してくれて、なんとか生活を立て直すことができたので、今でも彼女にはとても感謝しています。
ーーひょっとして、その間はうつ病などに。
松阪 なりました。貯金もゼロに等しくなって。記憶がなくなるくらい辛い時期でした。
加害者の情報を見ると、フラッシュバックしてしまう
ーー被害を受けているのに、自分を責めてしまったり?
松阪 自己肯定感がガクンと下がるんです。「舐められやすい性格なんじゃないか」とか「自分は何もできない無力な人間なんじゃないか」といったことを考えるようになって。しまいには「そもそも起業なんか目指すんじゃなかった」って、めちゃくちゃ後悔して。夢が後悔になってしまったのは、ほんとに辛かったです。
私はほんとに起業するのが夢で生きてきたし、起業家への憧れみたいなものがすごくあったんですよ。起業家の方々が書いた本も読んできたけど、そのなかには後に加害者になる人の本もあって。なんか、そういうのも含めて一気に崩れ落ちてしまって、夢を持てなくなりましたね。
ーーいまもフラッシュバックなどが。
松阪 セクハラをしてきた人が経営する会社の社名を見たり聞いたりすると、すごくつらくて。セクハラの加害者が有名だと、しょっちゅうニュースでその人の顔や会社名が出てくるんですよ。もう顔なんて見たくないのに、Xのタイムラインなどで「その人が活躍している」情報を見ちゃうと、フラッシュバックしてしまうんですね。
つらい体験をして心身に深いダメージを受けた人が回復するためには、心理的安全性というのがすごく大事だと言われていて。加害者と一線を引くことで、自分の安心な居場所を確保するんですね。でも、加害者が有名だったりすると、それが難しくなるんです。
私の場合、セクハラを受けたのは数年前ですが、その後、嫌がらせをされたり、あらぬ噂を流されたりして、今もその対応にも追われているんです。そのせいで、フラッシュバックや体調不良が長引いているのかなとも思います。
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ーー著名な人物だと、こちらが物理的に距離を置いたとしても、メディアなどを通じて目の前に現れる。
松阪 そうなんです。あと、加害者と会わなくても、近しい人物と会ってしまったりとか。やっぱり、それなりの規模の会社の経営者だと、関係者に遭遇する機会が多いんですね。この前も、たまたま加害者の部下に遭遇してしまって。その部下に、嫌がらせをされたこともあったんです。
私も「やめてください」と意思表示をしたし、時間が経てば嫌がらせはおさまるだろうとも思っていたのですが、逆に相手がヒートアップしてしまって。そうなると、いつまで経っても自分の傷が癒えないので、嫌がらせをやめさせるために法的な対応をしたこともあります。
ーーフラッシュバックすると、動悸などが起きる?
松阪 とにかく、気持ちが不安になります。そこから、怖くなっていく。頭もボーッとしてきて、なにも考えられなくなるんです。
ーー社会人になる以前に、セクハラをされたことは。
松阪 学生時代はほんとに平和に過ごしてきて。セクハラなんて受けたことなかったし、いじめなんかも見たことがなかったです。会社員をやっていた時期もあるけど、さっきも話しましたけど、保険の営業をやってた頃は、セクハラっぽいことに遭うのはほぼなくて。
起業してから、とにかく異常な頻度でセクハラに遭うようになって。常識では考えられないようなことが、当たり前のように行われていることに愕然としましたね。
「これは黙っているわけにはいかないな」セクハラ被害公表を決意した理由
ーーセクハラをされても「やりすごすことが賢い」と考えていたとのことですが、そこから声を上げようと思ったきっかけは。
松阪 セクハラをしてきた人に「エロは正義だ」って言われたんです。その人はセクハラ的な会話が日常的だったので、その人自身や経営している会社のためを思って「あなたは普段から結構セクハラをしていて、それに傷つく人もいますよ。止めた方があなたのためになりますよ」と遠回しに優しく伝えたんです。
そしたら「エロは正義だから、誰のことも傷つけないんだよ」みたいなことを言ってきて。言われた瞬間、ここまでセクハラを理解できない人が、投資家として多くの起業家を支援している事実に危機感を感じました。また、当時私が受けていた二次被害も深刻だったので、「これは黙っているわけにはいかないな」「この社会問題を変えないと苦しむ人が増えるだけだ」って。
自分の職や財産、人間関係などすべて失ったのに黙っている必要はなく、間違っていることに対しては「間違っている」と言わなくてはダメだと思ったんです。
それで2024年2月から、セクハラに対する法整備をしてほしいと署名活動を始めて。NHKの番組でも私が受けた被害を取り上げてもらいましたけど、その後も誹謗中傷を受けました。
撮影=山元茂樹/文藝春秋
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