【藤井風パリ公演】 〝愛〟に包まれた世界に魅了され パリ在住ジャーナリストが見た現地ファンの熱気〈年の瀬スペシャル〉

藤井風のフランス公演が行われたのは世界のトップアーティストがコンサートを行ってきた〝聖地〟オランピア劇場(撮影 太田苗子) この記事の写真をすべて見る

 2025年も終わりが近づいてきました。過去によく読まれた編集部のおすすめ記事を再配信します(この記事は「AERA DIGITAL」で2025年8月22日に掲載されたものの再配信です。年齢や肩書などは当時のもの)。

*   *   *

 昨年、〈死ぬのがいいわ〉が米国レコード協会のゴールドディスク認定を受けるなど世界的に活躍する藤井風。パリ在住のジャーナリストがその人気に迫った。

 今年7月にはヨーロッパ、8月には北米でコンサートを行ってきた藤井風。ヨーロッパツアーはドイツ・ベルリンから始まり、ロンドンやパリなどヨーロッパの主要都市で行われた。

 パリの会場は、1954年にミュージックホールとして創業以来、ザ・ビートルズ、レディー・ガガ、エディット・ピアフ、イヴ・モンタンら国内外の世界的アーティストたちがリサイタルやスペクタクルショーを繰り広げている老舗のオランピア劇場(約2千席)。コンサートが7月10日に開催された。

 パリコンサートは3月に発表され、チケットは即、完売となった。

 当日、オランピア劇場には、開演前に長い行列ができ、開演時には、立ち見の1階席に走るファンたちに、劇場のスタッフも驚き、「ゆっくり入ってください」と声をからしていた。

 会場外と同様に、開演前にすでに劇場内のコンサートグッズの売り場にも長蛇の列。コンサートが始まる前の高揚した雰囲気に圧倒され、勢いのある藤井風の人気に驚くばかりだった。

来場者の年齢層は予想外に幅広く

 ファンは10代を中心とした若者ばかりだと思っていたが、実際の来場者の年齢層は幅広く、予想は外れた。コンサートに来ているファンは藤井風のどんなところに魅力を感じているのか。生の声に触れたいと思った。

藤井風のコンサートに来場し、「ステージでのエネルギーは並々ならぬものだった」と語ったタリックさん(撮影/太田苗子)

 アートディレクターで41歳のタリックさんはこう話す。

「〈死ぬのがいいわ〉をYouTubeで観て藤井風を知ったが、今までに、こんなアーティストを見たことがなかった。そして、彼がYouTubeから発見されたシンガーだと知った」

 ちなみに、タリックさんが今まで、日本のシンガーで好きだったのは山下達郎だという。

YouTubeで観てファンになったというイザベラさん(撮影 太田苗子)

 パリで調理の勉強をしているというエクアドル人のイザベラさん(21)は「今まで日本の音楽は藤井風だけ聴いてきたわ」と話す。

「2021年にYouTubeで〈青春病〉を観てから彼のファンになったの。〈青春病〉は子どもから大人になる時に、子ども時代の思いを後ろに残していく曲。彼のポジティブなメッセージも彼の声もフェイス(顔)も大好き」


Page 2

友人とコンサート会場に来場したマルゴさん。YouTubeで曲を聴いて、彼の世界がとても好きになったという(写真 マルゴさん提供)

 大学で日本語を学んでいる20歳のマルゴさんとアレキサンヌさんは一緒にコンサートに来場。二人は言う。

「今まで、日本のシンガーに興味はなかったの。でも、YouTubeで〈死ぬのがいいわ〉と〈花〉を聴いて、彼の世界がとても好きになったの。私たち、日本語を勉強しているから歌詞もわかるしね」

フランスで日本の紅白歌合戦を観て藤井風をすきになったというタティアナさん’(撮影 太田苗子)

 11歳のときから日本の音楽を聴いているという大学秘書のタティアナさん(47)は、

「フランスのミュージックの音とは異なる、そこがいいのよ。21年にフランスで日本の紅白歌合戦を観る機会があって、藤井風の〈きらり〉に出合った。それまでは米津玄師が一番だったけど、藤井風の歌、彼の声、彼の雰囲気が好きになった」

こう話すと、45ユーロ(約7800円)のコンサートのTシャツも購入し、苦労して手に入れたコンサートチケットをしっかり握りしめながら会場に入って行った。

シンプルなステージに見事な光の演出

パリで行われた藤井風のコンサートの様子(写真 タティアナさん提供)

 ステージは中央に電子ピアノが置かれた、いたってシンプルなものだった。エレクトリックギター、ベース、ドラムのイントロ後、藤井風が登場した。

〈まつり〉からスタートしたコンサートでは、フランス人の観客のエネルギッシュな反応に藤井風が英語で観客に話しかける場面も。

「僕の名前は藤井風。28歳」「あなたたちの名前は?」

「ここで、あなたたちが何をしているのでしょう?」

「あなたたちのエネルギーに困惑しています」

 彼の発する言葉には、日常のどこかで交わされる対話のような優しさが感じられる。

 舞台は、シンプルなセットだが、光の演出は非常に見事だ。藤井風は、舞台の上を軽やかに動き回り、曲に合わせて、素足にサンダルで独特なスタイルで踊る。

藤井風のパリ公演。光の演出は非常に見事だった(写真 タティアナさん提供)

並々ならぬエネルギー

 観客が待ちに待った〈死ぬのがいいわ〉で会場の盛り上がりは最高潮に達し、藤井風は全15曲のラストに新曲の〈Hachikō〉を歌いあげて、かわいく両手で犬の耳を頭の上で作り、軽やかに舞台を去っていった。

 コンサートが始まる前にインタビューしたファンたちに再度話を聞いてみると、コンサート後の感想も熱かった。

 タリックさんは言う。

「藤井風のステージでのエネルギーは並々ならぬもので、ファンとの距離が近いことが感じられた。彼が、フランスのファンからこれほどのエネルギーを受けるとは思っていなかっただろう。コンサートは全体的にとてもよかったが、あっという間だった。もっとたくさんの曲を聴きたかった! 照明デザインは、この種のコンサート形式としては驚くほど良かった」


Page 3

藤井風
2025/12/30/ 08:00

 イザベラさんは、

「コンサートは期待以上でした! とてもエネルギッシュで、音響も照明デザインも藤井さんの衣装デザインも素晴らしかったです。すべてがうまくマッチしていて、愛と感謝の気持ちが一晩中感じられました。ほとんどの曲のスペシャルバージョンを聴くことができ、振り付けされたパフォーマンスも見ることができて素晴らしかったです。彼にこの機会をありがとう、と伝えたい」

コンサートで藤井風の歌声の素晴らしさに感動したと語るアレキサンヌさん(撮影 太田苗子)

 アレキサンヌさんはこう言った。

「アーティストの歌声の素晴らしさに感動し、とても温かく情感あふれる雰囲気に包まれ、私たち(観客)が一体となって歌えたことにとても感謝しています」

 そして、タティアナさんからは藤井風への熱いメッセージが続く。

「藤井風は素晴らしいステージを見せてくれた。彼は優れたシンガーでありミュージシャンであり、ライブでは膨大なものを与えてくれる。最初から最後まで魅了されました。〈きらり〉〈grace〉〈damn〉といった彼の曲が大好きだった。〈死ぬのがいいわ〉は、本当にみんなが待ち望んでいた曲だった。彼がフランスに戻ってくることを願っている!」

 藤井風のパリでのコンサートは、藤井風の揺るぎのないアイデンティティー、そして、彼の〝愛〟に包まれた世界が、フランス人のファンを魅了した。「真夏の夢」そのものだった。

(パリ在住ジャーナリスト 太田苗子)

こちらの記事もおすすめ 音楽と政治は分けられない 春ねむりが貫く思想と美学

関連記事: