トランプ氏一律関税への対応、FRB利下げが最善か-物価より優先

トランプ米大統領の関税賦課の脅しについて、国内で最も頻繁に指摘されるのは、それがインフレを加速させ、金利上昇につながるという懸念だ。

  しかし、政権1期目にトランプ氏が仕掛けた貿易戦争から得られる最大の教訓は、関税賦課が経済成長に打撃を与える可能性があるというものだ。

  当時は主に中国を対象とした関税賦課だったのに対し、トランプ政権2期目では敵対国だけでなく同盟国も対象に含めた一律関税を掲げており、一段と深刻な影響も懸念される。

  このため、インフレ高進のコストよりも雇用喪失に伴うコストの方が大きい恐れがあるとして、米金融当局にとって最善の対応は利下げになるとの識者の見方もある。

  そして、トランプ氏は2月1日にも関税賦課を開始すると警告しており、米金融当局者は今月28、29両日開催のFOMC会合でもその影響について議論することになりそうだ。

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正反対 

  米国の新たな「黄金時代」を20日の就任演説で約束したトランプ氏は、外国からの輸入品への関税賦課を通じて対米投資を促し、製造業雇用を回復させることをその柱に据えた。

  さらに、27日にはフロリダ州マイアミで共和党議員に対し、「外国に対する関税率が引き上げられれば、米国の労働者や企業の税負担は減り、非常に多くの雇用や工場の米国回帰につながる」と語った。

  だが、政権1期目の関税政策はそれとほぼ正反対の事態を招いた。米製造業は雇用増ではなく人員削減に動き、米金融当局は景気減速に直面したことが、5年遅れで今月公表された2019年開催の連邦公開市場委員会(FOMC)会合議事録や、当時のデータで浮き彫りとなった。

  19年には4万3000人もの製造業雇用が失われ、鉱工業生産は縮小。企業の設備投資は滞り、実質世帯収入中央値は5年ぶりに減少し、消費者の所得への打撃は80億ドル(現行レートで約1兆2400億円)に達したとの推計もある。

  その後の研究では、トランプ氏の関税政策がこれら全てに影響したことが示されている。輸入コストの増大や外国による報復関税、米国の貿易政策を巡る不確実性の高まりは成長の重しとなり、20年に入ると新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)で桁違いの衝撃に見舞われた。

Fed officials revised down 2019 forecasts as tariffs were implemented

Source: Federal Reserve's Summary of Economic Projections.

  19年10月のFOMC会合議事録によれば、サンフランシスコ連銀のデーリー総裁は「こうした逆風の影響は続く」とし、米貿易政策を巡って後には引き返すことができない決定が下されたとの認識を示していた。

  連邦準備制度理事会(FRB)のエコノミストは19年の研究報告書で、トランプ政権による鉄鋼・アルミニウム輸入への関税や中国からの一部輸入品に対する関税、外国から報復関税を課される事態などの結果、米製造業雇用が純減となり生産者物価を押し上げたと推計していた。

  また、ニューヨーク連銀のエコノミストとコロンビア大学などの経済学教授がその後まとめた論文では、トランプ政権1期目の関税で18年の実質所得は82億ドル目減りし、米国の消費者と輸入業者は政府に140億ドルを支払うことになったとし、「われわれの損失推計は控えめなものである公算が大きい」と結論付けていた。

教訓生かされるか

  米金融当局は19年7月に利下げを開始することになったが、ゴールドマン・サックス・グループのエコノミストは最近のリポートで、「関税が株式市場の混乱を招き、FOMCによる『保険の利下げ』を促した19年の教訓が無視されているのではないかと憂慮する」としていた。

  当時ダラス連銀総裁だったロバート・カプラン氏は最近のインタビューで、「過度の緩和のリスクよりも、景気減速と失業率悪化のリスクの方が結局、大きかった」と振り返った。

  このような経緯を踏まえると、関税賦課や米製造業の復活などトランプ氏が経済面の公約実行に当たって直面する課題が明らかとなる。また、インフレ高進の可能性と経済成長鈍化の恐れの両方に目配りが求められる金融政策運営にも、重要な指針を与えることになりそうだ。

Business investment, hiring suffered during Trump’s first tariff volleys

Source: St. Louis Fed, US Bureau of Labor Statistics

  今回、トランプ氏が2期目でどのような関税賦課に踏み切るかについて、不確実性は大きい。18、19両年には中国からの輸入品約3700億ドル相当に最大25%の関税が賦課されたが、トランプが現在掲げる一律関税では、昨年11月までの1年間に米国が輸入した計3兆2000億ドル相当に影響が及ぶ可能性がある。 

  トランプ氏のアドバイザーは経済へのダメージを最小限にするため、関税率を月ごとに徐々に引き上げるなど、さまざまな実施方法を検討中だ。それでもマイナス効果を小さくするのは難しいと、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)で税制と貿易政策を専門とするキンバリー・クロージング教授は指摘する。

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  トランプ氏が一律関税を導入した場合、19年の経験を基に米金融当局は物価への影響よりも景気下支えに重点を置く可能性がある。

  関税ショックに金融政策はどう対処すべきかを研究したカリフォルニア大学デービス校のポール・バージン経済学教授は「雇用喪失に伴う人的幸福へのコストはインフレコストよりも大きいと考えられる」とし、利下げが最善の対応となりそうだとの考えを示した。

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But it was soon overshadowed by the Covid recession

Source: Board of Governors of the Federal Reserve System, St. Louis Fed

原題:Trump’s Tariffs Hindered US Growth Before, and Threaten to Again(抜粋)

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