謎の現象「高速電波バースト」を予想外の場所で繰り返し検出 どこで見つかった?

マギル大学の大学院生Vishwangi Shahさんを筆頭とする研究チームは、高速電波バースト(Fast Radio Burst: FRB)のひとつ「FRB 20240209A」について、古い星で構成されている楕円銀河の近くに発生源があるとする研究成果を発表しました。これまでFRBは若い星を生み出す星形成活動がみられる銀河に関連した現象だと考えられていたことから、今回の研究成果はFRBの起源に関する重要な手掛かりとなる可能性があります。

高速電波バーストとは?

高速電波バースト(FRB)は2007年に初めて報告された突発的な現象で、1000分の数秒というごく短時間に放出された強力な電波パルスが検出されます。その発生源や電波が放出される仕組みについては不明な点が多いものの、電波を一度しか放出しない「単発型(非反復型)」と、繰り返し放出する「リピート型(反復型)」に分類できることが知られています。

【▲ 高速電波バースト(FRB)の発生源のひとつだと考えられているマグネターの想像図(Credit: NASA's Goddard Space Flight Center)】

ハワイのW. M. ケック天文台によると、天の川銀河ではこれまでに約100件のFRBが見つかっていて、そのほとんどは中性子星の一種である「マグネター」が発生源である可能性が高いと考えられています。

中性子星は質量が太陽の8倍以上ある大質量星として誕生した恒星が超新星爆発を起こした時に形成されると考えられている非常に高密度な天体で、太陽1個分を上回る質量が直径20km前後の小さなサイズに詰め込まれています。その中でも特に強力な磁場を持つものがマグネターと呼ばれています。

発生した“楕円銀河の外縁部”は予想外の場所

今回の研究対象であるFRB 20240209Aは、カナダの電波望遠鏡「カナダ水素マッピング強度実験(Canadian Hydrogen Intensity Mapping Experiment: CHIME)」が2024年2月から7月にかけて合計22回検出したリピート型の高速電波バースト(FRB)です。

観測データをもとにFRB 20240209Aの位置を特定した研究チームは、W. M. ケック天文台の「ケック望遠鏡」に搭載されている分光器「LRIS(Low Resolution Imaging Spectrometer)」やジェミニ天文台の「ジェミニ北望遠鏡」による周辺環境の観測を実施。その結果、FRB 20240209Aは約20億光年離れた楕円銀河の外縁部、銀河の中心から約13万光年離れた場所で発生していたことが明らかになりました。

【▲ カナダの電波望遠鏡「カナダ水素マッピング強度実験(Canadian Hydrogen Intensity Mapping Experiment: CHIME)」の外観(Credit: CHIME Collaboration)】

前述の通り、FRBは銀河の星形成活動に関連した現象だと考えられているため、多くの場合は銀河内部の星形成領域で発生すると予想されています。ところが、FRB 20240209Aが発生したのは星形成を停止した楕円銀河の中心から遠く離れた場所という、予想とは大きく異なる環境でした。「これは驚くと同時に興奮を覚える発見です」(Shahさん)

FRB 20240209Aは球状星団で発生した?

銀河の外縁部でFRBが検出されたことは過去にも1件だけ「FRB 20200120E」の観測例がありました。FRB 20200120Eは渦巻銀河「M81」の周辺にある球状星団で発生したと考えられています。発生した銀河のタイプは異なるものの、M81の外縁部で発生したFRB 20200120Eと今回の研究対象であるFRB 20240209Aには幾つかの共通点があるといい、研究チームは楕円銀河の外縁部で検出されたFRB 20240209Aについても球状星団で発生した可能性が高いと考えています。

【▲ 高速電波バースト「FRB 20240209A」の発生位置(楕円)と、発生した楕円銀河の位置(2本の直線の交点)を示した図。画像はジェミニ北望遠鏡で撮影したもの(Credit: W. M. Keck Observatory)】

球状星団もまた楕円銀河のように古い星が集まった天体ですが、その高密度な環境では中性子星どうしが合体したり、白色矮星が自身の重力で崩壊したりすることで、古い星に関連したマグネターが形成されている可能性があるといいます。研究チームはFRBの位置をより詳しく特定するために、「ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(James Webb Space Telescope: JWST)」を用いたフォローアップ観測を提案しているということです。

Source

  • McGill University - Dead galaxies, live signals: Astronomers uncover a fast radio burst’s surprising location
  • W. M. Keck Observatory - First Fast Radio Burst Traced to Old, Dead, Elliptical Galaxy
  • Shah et al. - A Repeating Fast Radio Burst Source in the Outskirts of a Quiescent Galaxy (The Astrophysical Journal Letters)

文・編集/sorae編集部

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