コラム:「相互関税」による市場混乱、米国の信頼喪失という大きな代償
[オーランド(米フロリダ州)13日 ロイター] - トランプ米大統領が仕掛けた貿易戦争による不確実性の霧は、長期的な経済的影響に対する疑念は残っているものの、突然晴れつつある。トランプ氏が「解放の日」とうたって貿易相手国への適用を表明した「相互関税」がもたらした混沌と混乱は何だったのだろうか。
1980年代から一貫して輸入品に関税を課すことを提唱してきたトランプ氏は、昨年の大統領選中に輸入品の関税を大幅に引き上げる意向を明確にした。「タリフマン(関税男)」を自称するトランプ氏は、関税が連邦政府の歳入を増やし、米国の製造業を活性化させ、膨れ上がった貿易赤字を減らすのに役立つと舌鋒鋭く主張した。
トランプ氏の政策が経済的な妥当性があるのかと異を唱える人はいても、正直に言えば同氏が発言した通り実行したことに驚く向きはいない。しかし、トランプ氏の熱烈な支持者の一部でさえ、同氏の戦略と実際にやったことに疑問を抱いている。
果たして経済と市場の混乱をあおり、米国の貿易相手国に最大限の影響力を行使し、その後の貿易交渉で米国に最も有利な条件を確保することが目的だったのだろうか。
そうかもしれない。短期的な大混乱は確かに生じ、トランプ氏が「解放の日」を宣言した後の3日間で米国株の時価総額は6兆ドル相当も吹き飛んだ。ところが、もちろんおじけづいて保有株を手放した投資家を除けばだが、取引が進むにつれて失われた時価総額は帳消しになってきた。
しかしながら、結局のところ数週間前に発表された極端な数字よりもはるかに低くなる追加関税が、米国の貿易赤字に有意な影響を与えるほど重要なものになるかどうかは不透明だ。
財政を見ると、今年に入ってから発表された全ての関税は2026―35年の10年間に連邦政府の歳入を2兆7000億ドル押し上げると試算されている。
だが、この数週間の混乱は国内総生産(GDP)の0.1%に当たる年間300億ドルを押し上げるのに値するものだったのだろうか。
もちろん2兆7000億ドルという金額は軽視できないが、それを生み出すのにはコストがかかる。イエール大予算研究所の試算によると、トランプ氏による追加関税は25年の米実質GDP成長率を0.7%ポイント押し下げ、米国経済を恒常的に0.4%ポイント縮小させ続ける。エコノミストらは、全米での商品価格の水準も恒久的に高くなるとみている。
一般的な見方では、世界平均の実効関税率は13―18%の範囲に収まるだろう。これはトランプ氏が元々表明していた計画より10%ポイント低下するものの、依然として第2次世界大戦前以来の高水準だ。昨年末時点の実効関税率の2.3%を大幅に上回る。
一方、米国の消費者と企業の信頼感指数は過去最低水準まで落ち込んでおり、消費者のインフレ期待は過去数十年間で最高水準にある。これらの指標は今後数カ月以内に改善するかもしれないが、支出や投資の大部分は不確実性のために保留されており、近いうちに元に戻る可能性は低い。
<消えないダメージ>
おそらく最も重要なことは、資産価格が回復したからといっても米国への信頼感に対するダメージが消えたわけではないということだ。
トランプ氏が「相互関税」で示した関税率の背後にある方法論を覚えているだろうか。世界で最も貧しい国々に最も高い関税を課し、主に住んでいるのはペンギンだけの凍った島々に関税をかけた。これは多くの人々から嘲笑され、トランプ政権の本気度に疑問符が付いた。
米国を信頼できる相手国と受け止める見方は明らかに失せている。HSBCの為替アナリストらは13日、「信頼を築くのには数年かかるが、壊れるのは数秒間で、再構築するには永遠の時間を費やす」と指摘した。
トランプ政権は、風評被害をいくらか修復しようとしているようだ。ベセント財務長官とグリア通商代表部(USTR)代表は、ラトニック商務長官やナバロ大統領上級顧問(貿易・製造業担当)のような関税強硬派ではなく、スイス・ジュネーブでの中国との貿易交渉を率いたことは注目に値する。
だが、米国の信頼性を完全に回復させることは直ちにできることではない。そして米国金利、ドル相場、米国資産全体に対する長期的な影響は重大になる可能性がある。
つまり現在の状況は、トランプ氏が追加関税を公表しなかった場合に比べて米国の経済成長が減速し、物価が上昇し、不確実性はさらに深まる可能性が大きい。
これに対し、もしもトランプ政権が最初からより現実的で、対立の少ないアプローチを取っていた場合、これほどの代償を払うことになっていただろうか。
米国が受けた傷はやがて癒えるだろうが、傷跡は長く残るかもしれない。
(筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
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筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。
Jamie McGeever has been a financial journalist since 1998, reporting from Brazil, Spain, New York, London, and now back in the U.S. again. Focus on economics, central banks, policymakers, and global markets - especially FX and fixed income. Follow me on Twitter: @ReutersJamie