ヤジ響く参政党ラスト街宣 望月記者とアンチの人々と語らった「日本人ファースト」(下)
先の参院選は外国人対策が焦点となった。急増する外国人に対し懸念や不安をぬぐえない人々は少なくなく、「日本人ファースト」を掲げた参政党が躍進した一方、そこに「排外主義」の台頭を懸念する人々もいる。「右」と「左」で見解が割れがちなテーマを巡って、リベラル系記者の望月衣塑子記者(東京新聞)と候補者や支援者、アンチの人々に取材を重ねてみると、「右左関係なく記者が交わることが大切」(望月記者)との見方に対し、一定の納得が得られる結果となった。
「子供に日本もまだまだやれる姿を」
19日夜、参政党の神谷宗幣代表が「最後の訴え」を行った東京・芝公園には約2万人(主催者発表)が集まった。演説中の神谷氏らに対し「人権ファースト」「ナチス」「ヘイト集団」とプラカードを掲げた集団が大声を上げている。
参政党の神谷宗幣代表神谷氏は「今、こうやって『ヘイトだ』とやっている人も、いつか『参政党があってよかった』と言ってもらえるようにしたい」と述べた上で、「誰かを追い出そうとか、排除しようとかではない。誇りを持って子供が日本人に生まれてよかったといえるような国にしたい」と明言する。
子供を連れて演説を聞いていた女性は、取材に対し「アンチの方もメチャクチャいて、子供を連れてくるのはどうかと思ったが、子供にも『日本はまだ元気でまだやれる』という姿勢を見せたかった」と打ち明けた。
「レイシスト帰れ!」コール
参政党と排外主義を結びつける見方については「考え方は人それぞれ。でも、話を聞いて全部の流れをみたら、そうとらえるのだろうか」と疑問視した。
会場の後方で大声を上げていたアンチは、撤収作業が始まると最前列に集結し、参政党のスタッフらにコールを上げ始めた。
「レイシスト帰れ!」「レイシスト帰れ♪」
神谷氏はスピーチで「外国人の個人を批判したり差別したりしているのではない。グローバリズムの仕組みに意見を言っている」と語っている。万が一、この発言を翻す行動が確認されれば、糾弾されて然るべきだが、現時点で「レイシスト(人種差別主義者)」などという言葉を投げかける行為には違和感を覚える。
東京新聞の望月衣塑子記者ストレスを感じる空間だったが、望月記者は「見るべきだ」という。
望月記者はアンチの行動について「カウンター(抗議運動)だ」と指摘し、「日本人の総意がそういう方向に向かっているのは憂うべきこと。自分たちの生活の不満が、外国の方が優遇されているのではないかと(矛先が向かっている)」と語る。
アンチの女性は「ここで止めないと」
抗議運動に参加する女性も、参政の主張について「怖かったし、気持ち悪かった。こういうことを公然という人が広がると虐殺や戦争につながる。ここで止めないとその方向に走っていく」と懸念を訴える。
別の女性は「外国人優遇はデマだ」と強調し、「関東大震災でデマを信じた人が朝鮮人を虐殺し、すごい数が殺された。(参政党の主張によって)人を殺す所まで行かなくても、差別の方向に行ったら、まずい。ここで止めないといけない」と訴える。
記者が「排斥には排斥で対抗するのが正しいか」と尋ねると、女性は「確かに(われわれは)怒り(を)もって(参政党の人々に対しては)排除している。人を殺すことにつながらない怒りの爆発であれば、表現は(許される)」と語った。
支援者は「外国人も日本社会にリスペクトを」
一方、アンチの近くにいた18歳のフリーターの男性は参政の支持者だといい、「日本人を優先する政策を打ち出してほしい。応援している」と語る。
「日本人ファースト」に対しては「人間にファーストもセカンドもない」(社民党のラサール石井氏)と懸念する声が寄せられている。男性は「郷に入っては郷に従うべき。日本人が一番でなければいけない。(日本社会に対し)リスペクトがあればいいと思う」と語った。アンチの活動については「参政党にマイナスのイメージを持たせるので良くない」と違和感を唱えた。
「アホカス差別野郎」「お前ら以外全員ファースト」と書かれたプラカードが揺れる中、撤収の作業も終盤にさしかかったようだ。
望月記者の姿を見失ったが、ひと際大きな声を上げていた男性に取材をお願いしてみた。妻はフィリピン人で、ネパールやスリランカの若者を雇って仕事しているといい、こう語る。
「日本人ファースト、どうなんだよ。奥さんも子供も傷ついているよ」
「人間は人間だ。飛行機にのってロボットが来るわけじゃない。実習制度とかやめましょうよ。人が来て、働いて、恋愛もするんだよ。子供だって産むでしょ」
日本で暮らす外国人が感じる怖さ
途上国への技術移転を名目としながら、外国人労働者への人権侵害が横行した技能実習制度のあり方を問題視する考えは非常に納得できる。ただ、参政党に「レイシスト」とレッテルを貼る行為の是非を尋ねると、「そうですかね」と逆に疑問を呈した。
参政党の演説会場で抗議の声を上げる人たち=19日午後、東京都港区戻ってきた望月記者も「日本人ファースト」について「家族に外国籍の方がいる人からすれば『ふざけるな』だ。きょうの熱狂が進めば、日本にいる外国人にとっては本当に恐ろしいことだ」と指摘する。
参政党の言わんとする所は、日本人のアイデンティティーを大切にしようという所で、それが外国人排斥と結びつくのだろうか─
男性や望月記者のけんまくから、ふと自民党の保守系議員が選挙中に漏らした言葉を思い出した。この議員は外国人問題について国会で質問する際は常にこう心掛けているという。
「一切の差別や偏見、扇動というのは絶対にやるべきではない。民族意識を扇動してはならないという意味では、言葉を慎重に選んで、共感を生むロジックで向き合わないといけない」
記者は「日本人のアイデンティティーを取り戻すことが、外国人排斥につながるわけではない」と考えているが、リベラル系の人々が「日本人ファースト」に懸念を抱く思いも理解できた。だからこそ、外国人政策は慎重に慎重を期してやる必要があるとも改めて思った。(奥原慎平)